『追放者達』、『聖国』の首都へと辿り着く
多少ドタバタとしながらも『仙華国』を出立する事となったアレス達『追放者達』は、案内役兼護衛として着いているセシリアと共に、無事に『サンクタム聖王国』へと足を踏み入れる事となった。
そして、その翌日には、『サンクタム聖王国』の首都にして『ヴァイツァーシュバイン宣教会』の聖地としても認定されている『セントユーディズ』へと到着していた。
何故、国境を超えた翌日に到着出来る様な場所に、首都が置かれているのか?
それには、幾つか理由が在る。
先ず一つ目としては、彼らが超えた国境が比較的この『セントユーディズ』へと近い場所であったから、と言うモノ。
外を数え上げていたらきりが無くなってしまうが、この『サンクタム聖王国』にて越境が可能な国境線として機能し、かつ国の機関として入国審査の出来る関所が置かれている場所としては、最も近しい所から入る事になったから、と言うのが理由として挙げられるだろう。
そして、二つ目の理由として、そもそもこの『サンクタム聖王国』が他国に承認を受けている国の中でも、最も小さい国、として知られている程に国土が小さいから、である。
流石に、非公認で勝手に『国』を自称している地方の中にはもっと小さなモノも在るが、大国として知られている『カンタレラ王国』や『ガンダルヴァ工匠国』と言った国々が国交を開いてその存在を承認し、公的に『ソコは国である』と認めている中では最小の大きさとなっている。
尤も、だからと言って、力が無い、なんて事は無い。
宗教国家としての側面が強く国民の殆どが『教会』の信者であり、その上で教義として魔物を積極的に狩る事を推奨している為に国全体の戦闘力は他の大国と比較しても劣るモノでは無く、過去には実際に、最大宗教の本拠地だから、との理由で躊躇わずに侵攻を決めた中規模の国が、逆に単独にて攻め滅ぼされる、といった事件が起きている程であるのだから。
最後に、三つ目として挙げる理由は『聖地』にして首都である『セントユーディズ』が比較的国境線に近しい場所に在る、と言う事だ。
これは、宗教としての『教会』が最初に興った地として教義にも刻まれており、宗教内部での価値としては黄金の塊がただのハナクソ以下に成る程に天井知らずなモノとなっている為に、おいそれと首都機能を移す事や、国境線を移動させる様な真似が出来ないから、と言うのが最大に近いモノとなっているだろう。
一応、他にも理由を挙げておくと、ほぼ最後のソレに絡むモノとなるが、教義的には『人と人とで争うのは醜い』『自衛は大切だが侵略は悪に等しい』『身内で争うのはもっと良くない』『攻撃するべきなのは他国の人間と魔物ただそれのみである』との教えも在る。
その為に、幾ら自国の聖地が国境線に近しいから、と自分達の都合にて他国に戦争を仕掛けて領地を分捕る、だなんて蛮行の極みには、早々出る事は出来ないし、そもそも考えにも登らない為に心配する必要が欠片も無い、と言う事情もあったりするのだ。
そんな訳で、絶妙に『仙華国』に近しい位置にあり、彼らの足でなくとも一日あれば着いてしまう程の距離しか無い『セントユーディズ』へと到着した一行と第二遠征騎士団。
しかし、そんな彼らを出迎えた光景は、決して陳腐なモノでも貧相なモノでもありはしなかった。
「「「「………………」」」」
「ふふっ、如何ですか?この国は。
私としましても、そこまで深く縁が出来る程に長く滞在した訳では無いですが、それでも少なくない数の来訪を致した地でもあります。
その様に反応して頂けると、かつて『聖女』としての地位を頂いていた身としては、とても嬉しいモノですね!」
「はっはっはっ!
確かに、滅多に見れないリーダーの間抜けヅラを拝めた、って事だけで、かつて彼を救った甲斐があった、ってモノだよねぇ。
それだけで、オジサンもこれまでは幾分か迷惑の類いも投げられて来たけど、十二分にオツリが貰えた気分だよぉ!」
「えぇ、確かに!
住民である妾としましても、そこまで驚いて下さるのでしたら、こうしてご案内致しました甲斐がありますわ!
素晴らしいでしょう?
これぞ、これまでの人類が重ねて来た叡智の結晶、と言うモノですわぁ!」
微笑ましく固まる者達を見詰める経験者三名は、昔は自分達もああなったなぁ、なんて事を、益体も無く考えながら視線の向きを合わせて行く。
するとそこには、それまでに訪れた国々とはまた違った光景が広がっていた。
行き交う人々の熱気、と言う点ではカンタレラ王国が、ロマンと探究心と言う点ではガンダルヴァ工匠国が、周囲との調和、と言った点では仙華国が、それぞれこのサンクタム聖王国よりも優れていた、と言えるだろう。
だが、街並みや建築物から感じられる歴史の重みや神聖さすら感じられる静謐な空気感、そして首都の端からでも見付ける事の出来る程に巨大な建築物である大聖堂は、最早技術的にも再現するのは不可能に近いのでは無いだろうか?と思わせる程の威容を誇り、同時に全体的に施されている緻密な細工を周囲へと見せ付けている様でもあった。
そうして様々な要素が入り混じり、一つの芸術品のようにも思える光景に見惚れていると、彼らの耳に景観の静謐さからは考えられず、信仰心の篤い人々も思わず眉を潜める様な騒がしさが届いて来る。
余りの下品さに、周囲とのギャップによって呆然としていた状態が解除され、思わず向けた視線の先に在ったのは、『教会』が僧侶として入信した者達へと着用を推奨している僧服に身を包んだ一団が存在していた。
…………しかし、その集団を形成している僧服の着用者達は、お世辞にも『真っ当な信仰者』とは呼べないであろう弛みきった身体をしており、魔物と戦い心身を鍛え上げる事を是としている教義に真っ向から逆らっている、と言える様な外見をしていた。
おまけに、ある程度の享楽は善であるが過剰なそれらは悪である、との教義すら在ったハズであるのに、本来質素な作りのハズの僧服はギラギラした装飾品にて彩られており、彼らの両手は様々な妖艶な服装をした多くの美女達と、時折美男や美男子を捕まえて離そうとはしていなかった。
以前、アレス達も遭遇したボルクルも、外見や立ち振る舞いは彼らと似た様なモノであり、ある意味コレこそが『ヴァイツァーシュバイン宣教会』の信者として正しい姿なのでは無いのか?と疑いたくなる気持ちが彼らの胸中にも湧き上がって来る。
しかし、周囲を歩く質素な僧服を身に纏った僧職と思わしき人物達は彼らの立ち振る舞いを目の当たりにして顔を顰めていたし、アレス達の近くに居る三人も、それぞれ思い思いに嫌悪感を滲ませた表情を浮かべていた。
そうこうしている内に、彼らの視界から例の一団が姿を消して行く。
ソレに合わせる形にて、セシリア達の荒ぶっていた雰囲気も収まって行き、何処か疲れた様な、落胆した様な口調で言葉を紡いで行く。
「…………絶対に勘違いしないで頂きたいのですが、妾達の信仰する『教会』の僧職は、全てがあの様な背徳者では無いのです。
一時期、それまで蔓延っていた一派閥が大規模に粛清された事で大分キレイにはなったのですが、最近また快楽に溺れて教義を投げ出す不信心者が増えて来てしまいまして……嘆かわしい事ですわぁ……」
愁いを帯びたセシリアの横顔に、思わず見惚れそうになる男性陣。
しかし、それぞれのパートナーが自身へと視線を向けて来ており、その事に気付いていたのか、それとも本能的にソレを続けていると『酷い目』に遭うと悟ったからかは不明だが、サッと視線を逸らしてから、案内役も兼ねているセシリアへと移動を促して行くのであった……。
AC最高!AC最高!(青緑色に発光しつつ、鼻や耳から脳を焦がされた煙を垂れ流し、左右で別々の方向を向いている虚ろな瞳で騒ぐ作者)
注※約二週間程前に予約投稿された作品です