5.なろうエッセイ・批判系エッセイ(過去作は検索除外しているのでこちらから)
素人がweb広告と追跡について、大風呂敷を広げて語ってみる。
最近、なろうに表示される広告を取り扱ったエッセイで、ちょっと(正確にはかなり)盛り上がっていたのを見ました。まあ、この「小説家になろう」における永遠のテーマの一つだと思いますし、確かにあの広告は無いよねなんて思いつつ、自分も感想を書かせてもらったのですが。ただ、その感想欄を見て、ちょっと首を傾げてしまいまして。
感想欄に書かれている内容が、web広告とそれを取り巻くアレコレに対して、ちょっと知識が古いように感じたのです。……特に、問題提起や苦言のようなご意見をされている方から、そういう感じを受けました。
この数年で、インターネット広告の在り方というのは大きく変わり始めています。どう変わるのか、まだはっきりとは見えていません。が、何もかもが今のままではいられないだろうなあと、そう感じます。
広告のためにユーザーを無許可で追跡しても良いなんて考え方は、過去のものになりつつあります。企業と政府が、情報インフラと法律(個人情報保護法)の両面から規制を強めているのは、まぎれもない事実です。
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昨年(2021年)5月、AppleがiPhoneの宣伝用に公開した、広告に関する動画が話題になりました。買い物をしただけで自分の後を誰かがついてくる、その人が手元の資料を勝手に覗き見したりする、やがてそれらは大勢の人になって、買い物に手を出して、さらに自分の部屋の中にまで押しかけてくる。そこで手元のiPhoneで「Appにトラッキングしないよう要求」のボタンを押すと、その人たちがまるで風船が割れるかのようにはじけていくと、そんな動画なのですが。
元々Appleという企業はセキュリティに対してちょっと独特な一家言を持った企業で、これまでも個性的なセキュリティ機能を実装したりしてきました。iPhoneやMacで使われているsafariブラウザもApple謹製で、かなり早い段階からwebトラッカー(webサイトを追跡する仕組み)をブロックしたりしています。
この辺り、企業によって温度差があるのは事実です。広告が主な収入源となっているGoogleは追跡防止に対して慎重な姿勢を見せているのに対し、先に述べたAppleや広告収入を事業の柱としていないMicrosoft、「利益ではなく、人々のためのインターネット」を標榜するMozillaといった企業の作るブラウザは、かなり積極的にwebトラッキングをブロックしています。
まあ、そんな状況ですからね。あと数年もすれば、「無許可のままサードパーティーcookieを使ってユーザーを追跡するwebトラッカー」は「健全なwebトラッカー」に置き換わることになると思います。
……そして、それでもしばらくの間は、小説家になろうというサイトに「やたらとエロが強調された広告」が生き残ることになるのかなと。
だってあれ、どう考えても、ユーザーの好みなんて関係無しに表示していますから。
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DLチャンネルというwebページがあります。DLsiteという、特に同人系のコミックやら何やらを取り扱っているサイトの運営会社が運営するサイトで、「二次元コンテンツをより楽しむために作られたコミュニティサイト」らしいのですが。このサイト、一応、上の方(スマホの場合はメニュー内)にR18をON/OFFできるスイッチがあって、全年齢とR18を簡単に切り替えられるようになっています。
――まあ、色んなエロに耐性があって見ても構わないという人は、一度、R18をOFFにした状態だとどんな感じになっているのか、見てきても良いんじゃないかなあと思います。特に、「アンテナ」から「今人気のコミック&イラスト」とかを見てみるとね、少なくとも「小説家になろう」のレーティングの基準よりもかなり緩いというのは感じとれると思います。
とは言ってもね、DLsiteだって、別に運営会社がコンテンツを作成している訳ではありません。運営会社とは別の人がコンテンツを作って、それをDLsiteに登録して販売しているだけです。その辺りは、ある意味において、小説家になろうと似ています。登録されているのが有料の「商品」であること、手数料という形でサイトも収益を上げていること、そしてそれらの商品は「審査を通ってから」掲載されていること、そういったところが違うだけです。
――ええ、恐ろしいことに、審査を通ってるはずなのですよ。あのエロい作品たち。
多分これ、DLsiteだけではありません。他のサイトも同じような基準になっているのだと思います。そしてきっと、広告の基準も同じなのかなと。
別に、自分たちのサイトの基準がゆるゆるなのは問題ないと思います。ですが、それが広告枠を通して外に出てしまっているとしたらどうなのか。それは問題ではないか、そう思います。
正直、「小説家になろう」というサイトは、かなり厳格にエロに対する切り分けがされていてるサイトだと思います。でも、残念なことに、創作業界の審査基準はゆるゆるで、そのせいで広告までゆるゆるになってしまって、結果として「小説家になろう」でいろんなことが台無しになっていると、そういう話なのだと思います。
まあ、業界の中の人間でもないですし、どこまで行っても推測でしかないのですが。
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と、そんな理由(推測)で色々と微妙なことになってしまったなろうの広告ですが。ただ、何ていうか、今のweb広告って、もっと不快な広告に溢れているようなイメージがあります。
「飲むだけでみるみる痩せる」「特許成分の○○なら10分で体の中から消臭」「ステロイド頼りだったアトピーがせっけんを変えただけで?」「飲むだけでマッサージの9倍もの脚痩せ効果!」「かさぶたのようにシミがはがれる」「毛穴の汚れがぼろぼろと落ちる」「1週間で10kg以上体重が減少したら使用を控えてください」etc……。
そういった、JAROに何か言われそうな特定業界のアレコレみたいな広告も、webにはあふれている訳です。そんなアレな広告を見かけないだけ、小説家になろうの広告汚染は深刻ではないのかなと。
……というか、JAROの苦情件数、一位は「デジタルコンテンツ」になってるのに一切取り上げられていないというのはどういうことなのだろうと小一時間。
まあ、JAROは多分、「広告を信じて購入すると金銭的被害が発生する」案件に対して動く傾向があるということなのだろうと思います。そういった意味では、確かになろうのエロ広告はかなり安全な広告だと思います。
あれかな、デジタルコンテンツの苦情は金銭的被害は発生しない傾向にあるから苦情件数一位くらいじゃ足りなくて、二位とダブルスコア、トリプルスコアの差をつけないとダメなのかな(適当
まあ、私はJAROの中の人ではないですし、どこまで行っても素人の推測ですが。
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なお、今から2年ほと前、コロナ禍が始まった頃に、某エロ広告の金字塔の広告が「YouTubeや小説家になろう、はては大学の講義映像にまで浸食する事案が発生」なんてことが話題になってまして。うん、まあ、大学の講義映像にエロ広告が映るのは大学側に問題があると思いますが。さすがにYouTubeにまでそんな広告が表示されるのは、ちょっとダメだと思います。
そりゃあ、Googleも重い腰を上げようとするんじゃないですかね、そんなことになったら(笑)
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昨今のwebブラウザではトラッキングブロック機能という名前で、ユーザーの追跡ができなくなるような機能が実装されています。
Microsoft EdgeやFirefox、Safariといったブラウザでは既に標準でトラッキングブロック機能が有効になっていて、設定を変更しない限りユーザーを追跡することはできない状態です。
その結果、日本で使われているPC用の34%、スマートフォン(含むタブレット端末)の60%で、設定を変更しない限り追跡がブロックされている状態になっています。
今のトラッキングブロックの仕組みでブロックできないようなweb追跡があった場合はブラウザの脆弱性とみなして対応する、そうAppleは宣言しています。欧米ではweb上でユーザーを追跡したいのなら同意を求めるよう義務付ける流れになっていますし、日本でもトラッキングで得られた情報は個人関連情報として保護対象とする流れになっています。
ユーザーの意識しない追跡やコントロールできない追跡はプライバシーに対するリスクで、ブロック「しなくてはいけない」と、そう言われ始めているのです。
さらにMicrosoft EdgeとFirefoxには、トラッキングブロックを標準よりも強化する設定が可能で、広告を始めとした「ユーザーを追跡することで実現している機能」に関連する表示をブロックし、複数サイトにまたがるデータをさらに抑制することができます。
……その結果、広告が表示されないだけでなく、ツイッターの埋め込みやSNSウィジェット、無料のブログパーツ等の表示までおかしくなったりと、かなり広範囲に影響が出てしまうのですが。
こんな設定が、ブラウザの標準機能として実装されてしまう、そんなところまで来てしまっている訳です。
これだけユーザーに嫌われて方々で問題視されているトラッキングという技術に頼ったweb広告、本当に今のままでいられるのでしょうか。
私には、そう思うことはできません。
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広告業界全てがこういった流れに無頓着だとは思いません。ですが、健全化を目指す企業があれば、抜け道を探す企業もある。広告業界が健全になればなるほど「健全でない広告を掲載する場所」に価値が生まれてしまうのもまた、一つの事実だと思います。
私は、この「小説家になろう」というサイトが好きです。できるだけ健全な広告で運営するサイトであってほしいと願っています。健全でない広告を掲載しないと運営できないサイトにはなってほしくありません。
サプリメントや健康食品のような広告は不快な物ばかりと、私なんかはつい思ってしまいます。ですが、もっとこう、半分はやさしさでできているような、そんな広告があってもいいと思います。
もしかしたら、創作系のコンテンツの広告も、不快な物ばかりになった結果、同じようなことを感じるかもしれません。でも、できればそんなことにはなってほしくありません。
小説家になろうというサイトに広告があることを否定するつもりはありません。また、同人コミックのような、創作に深く関わるような広告が表示されることを否定するつもりもありません。
ただ、もっと広く受け入れられるコンテンツや広告もあるはずだよねと、それだけのことなのです。
広告を掲載する企業、広告を出稿する企業、広告ネットワークを運営する企業、きっとそれぞれに、もう少しweb広告を良くする何かがあると、そう思うのです。
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ターゲッティング広告だからエロ広告を表示していいなんて道理はありません。過去にエロ本を買ったことのある人はコンビニに入るたびにエロ本をお勧めされてもしょうがないなんて、あっていい訳ありません。エロ本を勧めていいのはアダルトな何かを売ってもいい場所だけです。それ以外の場所でエロ本を人に勧めるのは非常識です。web広告もそれと同じだと思います。
ユーザーを追跡して好みを先回りして表示すれば効果の高い広告になる。でもそれは広告を出稿する側、広告を募集する側の論理です。広告を掲載する側の論理ではありません。
小説家になろうというサイトは、日本でも有数のアクセス数を誇るサイトです。この規模のアクセス数があって、それでも広告が健全化できないのなら、それはもう、日本で広告収入だけで投稿サイトを運営するためには健全さを犠牲にしなくてはいけない、そんな話のように思えます。
それは、小説家になろうの敗北というよりは、広告収益型投稿サイトというビジネスモデルの敗北のように感じます。
そんなところに限界があるのはおかしい、例え今は違っていても、本当の限界はもっと先にあると、私は思うのです。
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この主張で、何かが変わると思っている訳ではありません。ですが、何か問題があった時、いろんな人が色んな視点で考えることは、決して悪いことではないと思います。多くの人の認識や知識が、物事を良い方向に進ませる原動力になると、私は思っています。
この小説家になろうの広告の在り方を考えるために、もう少し視野を広げて考えてみてもいいと思いました。なので、ちょっと主語を大きくして語ってみました。
誰かの見識の糧になればいいなと思いつつ、ここで筆を置かせてもらいます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
以下、参考までに。
YouTube - iPhoneのプライバシー | 追跡 | Apple
https://www.youtube.com/watch?v=EeO6qzmYBhY
JARO 公益社団法人 日本広告審査機構 - 2020年度の審査状況(HTML版)
https://www.jaro.or.jp/news/20200623.html
SHIFTASIA - 【2021年10月】日本とグローバルのWEBブラウザシェアランキング(PC・モバイル)
https://shiftasia.com/ja/column/2021%E5%B9%B410%E6%9C%88web%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%82%B6%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%82%A2/
なお、本文中の「YouTubeや小説家になろう、はては大学の講義映像にまで浸食する事案が発生」に関しては色々と問題があるので掲載しません。あしからず。
最後に。
「広告 酷い」で検索したら一番最初に出てきた下記のページが、とてもウザ参考になりました(結構パク……影響を受けています)。お暇のある方はぜひどうぞ。
世の中に溢れる「うざい広告」をプロが徹底解説!マーケターは必見です
https://liginc.co.jp/543590