ドタバタの路地裏!!
現在、吹雪たちは故郷の北海道から離れて東京の都渋谷区の駅前に来ていた。そう、吹雪たちが通うはずである学園を見学するためである。
隣では妹の音月が目を輝かせながら、あたりをキョロキョロしている。どう見ても田舎者の仕草だ。そういう吹雪も慣れない都会に興奮しているので注意ができない立場である。
「人がいっぱいだね!! 昔、来たことあるけどやっぱり都会はすごいよね!!」
音月は吹雪から離れあたりを散策し始めている。みなさんおっさしの通り、音月も学園見学に参加するのだ。音月は吹雪が学園に通うと聞くなり、自らの推薦を取り消してまで、吹雪が通う予定の学園入学に応募したのだ。
兄としては何故そんなバカなことをしたのかと、問い詰めたくはなるがこの年で大のブラコンなのを見ればその答えは明確である。
吹雪は妹が一緒に通うことについては半分嬉しい、半分不快といった感情の比率だ。物心ついた頃から吹雪は完全無血の妹と常に比べられたいた。同じ学校に通うということはまたあの生活を繰り返すということだ。
しかし、妹は兄がそんなことを気にしていることは知らないだろう。それにわざわざ口に出して言うこともない。
「なぁ、音月?」
吹雪が隣を振り返って、妹の名前を呼んだ。かなり浮かれていたので、目を離しておくとろくなことにならないだろう。そして誰もいない隣を見て吹雪はため息をついた。
周りを見渡しても目立つはずの金髪は見えない。これはつまりあれである。
「その年で迷子とかふざけんなぁぁーー!!」
* * *
吹雪は妹探しに途方に暮れていた。現代の連絡手段は通信魔法のみなので、魔法が使えない吹雪にとって妹と連絡を取る手段は何一つない。
妹と別れてしまった駅で待っているのもありだったが、あそこは人が多いので立っていると、つねに周りの相手とぶつかる。人混みが苦手な吹雪にとってはあそこで待つのは苦痛だ。
(こうなったら、警察に迷子放送でもしてもらうしかないか)
吹雪が上を見上げると、ポリスと書かれた看板が魔法で宙に浮かび上がっている。あれを頼りに進めば、警察にたどり着けるはずだ。
吹雪は駅とは違い、ガラガラの道に目を通す。魔法が使える現代ではいちいちみんな、歩くということをしない。
駅は人が多いことから、人身事故が起こる可能性から空を飛ぶことが禁止されている。しかし、ここはそんなことはないため空を飛んでいる人が上で吹雪が立っている道に影を作っている。
下を歩いているのは、吹雪と高齢の老人、そしてまだ飛行許可を取れない幼い子供たちだ。
何故老人が多いのかというと、それは彼らも魔法が使えないからだ。魔法が誕生してから80年の歴史が流れた。つまり、80年以前に生まれた者たちは魔法の恩恵に授かれなかったのだ。
故に彼らは毎日肩身が狭い思いをしながら、過ごしている。魔法が使える人口がまだ9割にとどまっているのは、この老人たちの影響でもある。
吹雪は途端に寂しい気持ちに陥る。もしかしたら音月も浮かれて空を飛んでいってしまったのかもしれない。
飛べない吹雪のことを考えてなのか、妹は滅多に吹雪の前で魔法を披露しない。しかし、今日はかなり浮かれていたので兄に気を使うことができなかったのかもしれない。
「おい、こら!! 舐めんじゃねぞーー!!」
「お前みたいなD風情が、Aに逆らうんじゃねよ!!」
吹雪は男の威勢のいい声に、その場で立ち止まった。それは吹雪の立っている真横の路地裏から聞こえてくる。
DとA、それは2080年に新たに作られた魔法の振り分け制度だ。要するに魔法が使える人間を階級で分けようという制度である。
下からD、C、B、A、の4つの階級に分かれていて、下のものは上のものの奴隷のような生活を送ることが社会の風潮のようになっている。ちなみに吹雪は圏外、音月はAである。吹雪はその言い争いがなんとなく気になり、路地裏を覗いてみることにした。
見れば、小柄な少年がいかにもヤンキーな大柄二人組にリンチにあっている。1人は手に金属バットを、もう1人は手にタバコを持っている。小柄な少年はまだ小学生ぐらいだ。それに対してヤンキーたちは高校生ぐらいの容姿。
どうみてもアンフェアな戦いである。少年の方は頬から出血して壁に寄りかかっている。もう勝負は見えているだろうに、ヤンキーたちの暴力はおさまらない。
1人のヤンキーが持っていた金属バットを少年に振りかぶった。鈍い音がし、少年はとうとう立っていることもできなくなった。そのままヤンキーたちに足蹴にされている。どう見てもまともな人間のする行動ではない。
それをみて吹雪は黙ってここから立ち去ろうとする。巻き込まれるのはごめんである。
(どうせ、子供の喧嘩だ。 殺されることはないだろう)
吹雪は身を翻し、その場から立ち去ろうとする。しかし、気づいたら吹雪は金属バットのヤンキーに強烈な右ストレートを喰らわしていた。