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最後の晩餐

 吹雪は父親が作ってくれた夕食を口に運ぶ。今日の夕食は味噌味のカップラメーンだ。もはや食事とはなんぞよと問いたくなるほど貧相な食事である。

 父親は自信作だと言いながら、吹雪たちにカップラーメンを振舞ったが、そもそも父親はお湯を注いだだけである。だからといって文句を言ったら、ご飯抜きになってしまうので、吹雪は文句も言わずに麺をすする。


 我が家の大黒柱は多大な借金を背負っているため、豪華な食事など食べれるわけがない。ゆえに幼い頃からこのようなインスタント食品しか口にしていない。

 稀に給料日に食事が3品出るぐらいだ。隣では今日卒業式を終えた音月が同じように麺を口に運んでいる。


 吹雪は普段なら大好物のはずの味噌味のラーメンをうまく味わえないでいた。それは今日の朝に黒沢先生にもらった応募用紙をいかにして親に見せるかということである。そう、吹雪は高校に行く決心をしたのだ。それにはまず親と話し合いをしなければならない。

 父親は吹雪の進路について少しも聞いてきたことがない。基本的に我関せずの父親なのである。


 今までしたことがなかった分、いざ進路について話すとなると家族だというのに緊張してくる。たしか、妹は都会の方の有名私立高校に受かったらしい。現在は政府の給付金援助が発達しており、なおかつ妹は成績も優秀なので入学費はタダみたいなものだ。

 妹の成績なら納得の結果だと思う。しかし吹雪がいこうか考えている魔法高等特別学園は入学金だけで10万円必要らしい。


 子供だけでどうにかできる金額ではないし、高校に行く以上は必ず親と話を通しておかなければならない。おまけにうちは貧乏なので余計なプレッシャーがかかる。吹雪は椅子の下に隠して置いておいた応募用紙を横目で見ながら、腕を組んで悩む。

 そんな吹雪を見ていた父が訝しげに首を傾げる。


「どうした、吹雪?」


「ん、えっと……。 な、なんでもない……ことはないけど」


 父親に急に話しかけられ明らかに焦っている兄に対して妹も不安そうな面持ちになる。

 妹が気にしていることはなんとなく分かる。今朝の忘れ物の件だろう。


「もしかして、忘れものを届けにきてくれた時に同級生に何か言われた?」


 音月はその自身のスカイブルーの目に怒りを露にしていた。吹雪は幼い頃から魔力がないということで同級生によくいじめられた。

 そんな吹雪を妹である音月は何度も助けたくれた。中には男子と殴り合いの大喧嘩にまで発展したこともある。

 

 音月は人一倍、正義感が強くて家族愛も強い少女だった。ゆえに自身の家族が能力で馬鹿にされている時の怒りは半端ではないだろう。

 妹は昔と同じように兄が同級生にいじめられたのかと心配しているのだ。吹雪は急いで首を振り、それを否定する。ここでイエスと言ったら、妹はそのいじめっ子の家に吹っ飛んでいくだろう。それは空を飛べる音月にとって、文字通りの意味である。


「ううん、先生としか会ってないよ。 すぐに家に帰ったし……」


「じゃあ、なんでそんなにそわそわしてるの?」


「そうだ、お行儀が悪いぞ。 好きな人でもできたのか?」


 妹と父に質問ぜめにされ、吹雪は居心地が悪くなる。ここでなんでもないということは簡単だ。しかしここで切り出さなくては、吹雪の性格上2度と口に出せなくなってしまう。

 ちょうど父親の方から話を振ってきてくれたのだ。ここで話すが吉である。吹雪は椅子から立ち上がると下に忍ばせておいた応募用紙を見せる。父親はそれを受け取り、老眼のせいなのか眼鏡を取り用紙を食い入るように見る。妹も横からその応募用紙に目を通し、驚いた顔をする。


「魔法高等特別教育学園!? お兄ちゃん、高校に行く気あったの!?」


「ひどい言い草だな。 俺だって進路のことについて詳しく考えたことぐらいあるよ」


 吹雪は妹へのアプローチのために息をするように嘘をついた。父親はそれに目を通しながらも眉間に皺を寄せ、考え込んだ顔をしている。よく見ると父親は年齢にしては老けた顔をしている。まだ40代だというのに、白髪だらけでシワも増えた。昔のかっこいい父親の容姿を思い出し、吹雪は同情に近い感情を覚える。


 そして手に持っていたその紙を食卓テーブルの上に置く。

 

「お前、ここに行きたいのか?」


「う、うん。 父さんが許してくれるなら」


 珍しく真面目な顔な父親に対し、吹雪は歯切れの悪い返事をする。その父親の反応に吹雪は働いた方がいいのではと思った。

 吹雪なんかは学校に行くよりも肉体労働をしたほうが、家族の役に立つのかもしれない。吹雪は半分、入学を諦めかけていた。


(金のこともあるし、やっぱり難しいのかな)


「子供が自ら行きたいという進路に俺はどうこう言わん。 好きにするといい」


 と、父親は全く予想外な答えを口にしたのだった。


 


 


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