五講:どのようなあらすじを書くべきか?:3
ところであらすじは三人称か一人称で書くべきか。本来あらすじに主人公のキャラクターはまだ存在しないため、通常三人称視点で書くのが当然である。とは言え、なろうの読者相手であれば一人称視点のあらすじにも慣れていると言えよう。
『テサシア』で言えば、三人称視点で書いているが一人称の独白を入れている。わたしがダッシュ記号でそうと分かるように書いているように、必ずここが独白と分かるように書くこと。人称が乱れているように読み取られると印象が悪いので。
また同様に会話文を入れるテクニックが存在する。
印象的なセリフをあらすじに挿入するテクニックだ。これも効果としては同様である。
ただ、一人称視点あらすじやセリフの挿入などを嫌い、避ける読者というのは存在する。
万人受けするあらすじというものを書きたいという無理難題を求めているなら避けるべきではあろうが、およそ不可能なことである。
それは長文タイトルだから避けるという読者よりも少ないはずだ。故に気にしても仕方ないところである。
もちろんトレンドの問題もある。今のなろうにおいてセリフ等を挿入されたあらすじはよく見かけるだろう。あなたがこれを効果的だと感じるなら書いて構わないし、入れなくてももちろん構わないのだ。
だが将来それが古臭い技法として嫌われるようになるか、あるいは当然の技法として定着するかなど誰にもわからないのだから。
時代に合わせる変化は当然の事だよ。例えば小説の後書きで作者と主人公が掛け合いしてるような文章を見たらどう思う?
例
作者:いやー、今回はピンチでしたねアレクサさん。
アレクサ:あんたがピンチにしたんでしょーが!
(SE:バキィッ)
すごく90年代みを感じる。……つらい。いたたまれない。
いや、もちろん当時としては非常に人気のあった書き方なのだよ。ただ今流行っている様式ではない。
さておき会話文、独白などを挿入するメリットは当然ある。説明なしにあらすじの冒頭部分に興味を引きやすいネタを置けるという点である。
婚約破棄ものの冒頭が説明文なしに会話文から入るのと技法としては全く同じである。
あらすじの1行目を読んだ読者に2行目を読ませたくなるか、そして本文を読ませたくなるかという目的には噛み合うだろう。
この冒頭の強さにある面で特化したあらすじの形式として、『サイレント・ウィッチ』を挙げたい。この形式のあらすじを作者の依空まつりさんが生み出したのか、元々存在した技法なのかはわからない。
ただ、『サイレント・ウイッチ』以降、なろうのハイファンタジージャンルで明らかに見かけることが多くなった技法である。
引用
【一行で分かるあらすじ】
才能はあるけどコミュ障なポンコツ魔女が、正体を隠して王子様の護衛をする話。
【まじめなあらすじ】
天才魔術師モニカ・エヴァレットは人見知りで、人前で喋るのが大の苦手。
そこで彼女は猛努力の末に、詠唱をせずとも使える無詠唱魔術を習得。〈沈黙の魔女〉として、弱冠十五歳で七賢人に選ばれた後は、森の中で静かに暮らしていた。
それから二年が経ったある日、モニカに一つの命令が下される。
その命令とは、学園に通う第二王子を、本人には気づかれぬよう秘密裏に護衛してほしい、というもの。
かくしてモニカは王子の護衛をするために、貴族の子女が通う煌びやかな学園へ潜入するのだった。
「いやだよぅ、怖いよぅ……うっ、うっ……胃がキリキリするぅ……」
と泣きべそをかきつつ。
(後略)
上手い技である。
このあらすじの非凡なこととして、1行目の簡易あらすじで、主人公のキャラクター性、ヒーローが王子であること、そして主人公がその護衛をするところから話がスタートするとちゃんと表現されている。
つまりわたしがあらすじに必要だと記している要素が1行で表現されている。
さらにキャラクター性にギャップがある。意外性というのは常に良質なスパイスだ。
わたしが『理想の恋を追い求めない』としたのもそうだし、この作品のあらすじでも、才能はあるのにコミュ障、ポンコツ。さらに言えばポンコツなのに王子様の護衛なのかと読者に疑問を抱かせるのは強い。
つまり、意外とは続きが気になるということだ。この簡易あらすじを目にしたら、真面目なあらすじを読もうと思ってしまうのだ。
真面目なあらすじの方でも、主人公の名前と二つ名以外の固有名詞を廃し、読者に負担を与えない。この作品は主要登場人物が多く、ミステリー的な要素も含んで複雑なのに一切それを感じさせない。
この作品は恋愛ものではなくハイファンタジーの作品なので王子がどのようなキャラクターであるかについては詳しくは書く必要がない。
恋愛主題なら王子の設定をもっと詳しく書くことだろう。
情報の取捨選択が見事なのだ。
例えば、この作品のように若き天才キャラを主人公とするとき。努力など感じさせずに能力を得る作品。いわゆるチート系。これも爽快感があり良いのだ。だが一方でそれを求めていない読者には鼻につくところがあるものである。
この作品はたった一言、『猛努力の末に』と入れるだけでそれとの棲み分けをしている。
このあらすじ、『潜入するのだった。』まででジャスト300字であることも含めて、どこまで作者が意図してこのあらすじを書いたのかと感嘆する。
概ねこんなところだろうか。
ああ。後は、連載版や別キャラ視点、スピンオフ、続編、外伝という表記について。
基本的には元の作品がランキング上位にいったことがあり、前作に十分なブックマークがついている状態なら初期のポイントにブーストがかかる。
ただし連載版についてはともかく、そうでなければ他はブレーキになることに留意したまえ。
前作の読者を引っ張れるかもしれない。だが、新規流入はゼロに近くなるということだ。
さらに言えば、当然だが前作にブックマークした人の全員が読む訳ではない。
続編を書いていると気づかない読者もいるだろう、前作読み終えて、そこまでではないと思う読者もいるだろう、そもそも続編は読まない読者もいるのだ。
ぶっちゃけわたしはまず読まない。『サイレント・ウィッチ』は非常に好きだが、これですら外伝は読んでいない(完結したら読むだろうが)。
拙作『メリリース・スペンサーの苦難の日々』は『なまこ×どりる』のスピンオフだがその旨を書いたのは後書きであって、あらすじには書いていない。完全に独立した作品として楽しめるように作ってあり、そこにスピンオフという情報は不要であるためだ。
最後に、これはあくまでもこれはなろうでランキング狙いのあらすじの書き方ではある。恋愛やファンタジーなどについて書いている事は告げておこう。
もちろん、他サイトでも、それ以外のジャンルでも応用は効かせることはできるだろうが、それは自分で判断してくれたまえ。
もし何か質問などあれば活動報告などに書いてくれれば加筆することもあるだろう。
以上、講義を終える。
まとめ
・あらすじではどういう主人公が、何をする物語なのかまで書く。
・文末の煽り(……開幕!)は書いても書かなくても良いが、何をする物語なのかは必ず書いてからにする。
・半端に煽るくらいなら結末まで書いても良い。
・主人公の魅力的な要素・設定を書く。
・女性向け恋愛であればヒーローの魅力も両方書く。
・男性向け恋愛であれば主人公よりヒロインの魅力を書く。
・ファンタジーであれば主人公の能力やジョブ的なものが必要な情報。外見的な描写は不要。
・冒頭のつかみ。1行目を読むと続きが読みたくなるあらすじが理想。
・そのためにストーリ序盤の会話や独白も有用。好みは分かれる。
・簡易のあらすじと長いあらすじを併記するのも良いが、簡易あらすじを読んだ読者が続きの気になるものでなくては意味がない。
・意外性は重要なスパイス。ただしその意外性は主人公のキャラクターや主題に合っていること。
・特に会話や独白を挟むなら主人公のキャラクターや話のシチュエーションが面白く見えるものを必ず使用する。
・連載版、視点違い、スピンオフ等の文言は元の作品がランキングの上位に掲載されたなら良いが、そうでないなら書くべきではない。
あなたが魅力的なあらすじを書かれるようにならんことを!