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08 埋もれた記憶


 ──静寂が辺りを包む中、何かが滴る音がする。

 耳が拾う異音に、もしかして自分はいつの間にか死んだのかと思う。

 恐る恐る目を開ければ、そこには目を閉じる前と変わらぬ風景、それにロデルがいた。

 違うのはロデルの目は見開かれ、首は微かに後ろを向いている事だ。ガランと、手にしていた剣が地面に落ちる。その音に身体を跳ねさせれば、ロデルの胸から剣先が覗いているのが見えて両手で口を覆った。


「ロデル!」

 ロデルはそのまま視線だけ柚子に向け、崩れるようにその場に突っ伏した。

「ロデル!」

 慌てて駆け寄れど、彼の目は既に色を失い、柚子の声は届いていないようだ。けれど、その口が戦慄きセレナと形作るのが見えた。


「ロデル……」

 柚子は目を見開いた。

 本当に、セレナを好きだったんだろう。

 彼女の為に柚子を殺そうとした。それくらい……ロデルにとって大事な存在だった。


 ロデルは柚子に優しかった数少ない者の一人だった。結局はまやかしの優しさだったけど。

 ……それでもと思う。もし何のしがらみもなければ、友達になれたかもしれなかったのに。

 どうしてなのか分からない、でも涙が込み上げる。

 自分を殺そうとした相手なのに……

 肩が震え、堪えきれない涙が零れた。

「ロデル……」


「いい加減、他の男の名前を呼ぶのを止めてくれないか」


 柚子ははっと顔を上げた。

 ロデルを刺した人物。

 その後ろにも複数の人影が見て取れて、柚子は座ったままロデルを抱え、後ろにずり下がった。

 野盗だろうか。


 けれど、無意識に下がり過ぎてしまった。

 背後の崖を失念しており、身体が後ろに傾いた。


「柚子!」

 はっと息を呑めば、そこにはリオがいた。

 必死に柚子を掴みに手を伸ばす。


(──ああ、一緒だ)


 元の世界で柚子が死にかけた時、こうしてリオが手を引いてくれた。

 柚子もまた、リオに向かって手を伸ばした。


 ◇


『助けてくれてありがとうございます、殿下』

『僕の事はリオと呼ぶように言った筈だよ?』

『でも、不敬だと……聞いたので……』

 神官長から厳しく言いつかった事を思い出し、柚子は視線を彷徨わせた。

『そんな事はない、僕たちは結婚するんだと言っただろう?』


 はにかんだ優しい笑み。

 嬉しすぎて何て返事をしていいのか分からなかった。恥ずかしくて俯いて返事を誤魔化したけど、嬉しかった……


 ──でもちょっと待って。


 リオは最初出会った時、作り物みたいな……完璧な笑顔だった。

 それが無くなったのはここに来て一年が経ち、私が聖女かを疑われ始めた頃じゃなかったか。


 あの会話はいつ頃したんだっけか。

 セレナが来て、寝込む前だと思っていた。

 でもリオは……自分を看病してくれていなかっただろうか。

 熱に浮かされ夢うつつだったけれど、……それは確かセレナが来た後の事だ。


「リオ……」

「柚子、ごめんね」


 聞き慣れた声に薄く目を開ければ、リオがロデルの身体を崖から蹴落とすのが見えた。

 驚きと混乱で、柚子の意識はふつりと途切れた。


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