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02 聖女、セレナ


 神殿内は、ひんやりとしていて、シルクを重ねただけの巫女装束では肌寒い。羽織る物を持ってくるべきだったと後悔していると、誰かの話し声が聞こえてきた。


(神殿の……下働きの人たち、かな)

 漏れ聞こえてくる会話に、思わず柱の影に身を潜めた。


「──まあ、お似合いね」


 そんな言葉に顔を向ければ、そこにはセレナがいた。

 寄り添うように隣で並び歩くのは、この国の王弟リオだ。

 その姿に思わず身を縮めてしまう。別に悪い事など何もしていない筈なのに……悲しい反射である。


 セレナは金の巻き髪に空色の美しい瞳の娘で、着ているものも柚子が与えられた巫女装束ではない。

 聞いた話では、普通の装束では美しすぎて勿体無いとかで。美しい意匠が凝らされたドレスと煌びやかなアクセサリーで身を固めていた。

 しかしそれがとても良く似合っている。立ち振る舞いも優雅だし、きっと元の世界でもお嬢様だったんだろうな、なんて思う。


 隣のリオは真っ直ぐな黄金色の髪を後ろで一つに括り、海のように深い青の瞳を持つ二十歳の青年だ。

 最初彼が王弟と聞いた時、立派な髭を持つ国王を想像していた柚子は、それはもうその若さに驚いたものだ。


 リオはいつものように完璧な笑顔でセレナをエスコートしている。セレナもまた、幸せそうに顔を蕩かせリオと見つめ合っていた。


「お美しいわぁ、お二人共。ねえ、リオ殿下とセレナ様。慣例通り婚姻なさるのかしら?」

「勿論そうでしょう。もう一人の方は……ねえ。何だかパッとしないじゃない? そもそも何故聖女がお二人なのかしら。神官長様は何も言わないけれど、どう見たってもう一人の方を疎ましく見てるもの。きっとあちらには何か良くない事情が……」

 

 柚子はそそくさとその場を離れた。

 どうやら事情を知らない者たちも察し始めているようだ。

 とはいえ神殿が大っぴらに柚子を役立たずと公言しないのは訳がある。

 聖女召喚は代々王族が行っており、今代はそれがリオの役目だったのだ。だから柚子がその力を見出せないとは、誰にも言えない。それは王家の沽券に関わる問題だからだ。


『柚子、聖女は召喚した王族と結婚するんだよ』


 例えそんな約束が……慣例があったとしても、今はもう、セレナがいる。

 セレナはもうじき十六歳、ちょうどこの世界の適齢期らしく、皆二人の結婚を喜んでいるようだ。


 美男美女の二人に、黒髪黒目地味を通り越した、暗い色合いに平々凡々な顔立ちの柚子が割って入る隙など無い。……これも天命というやつだろう。


「……折角ここでは役に立てると思ってたのになあ」


 元の世界では柚子の人生はいいものでなかった。

 だから最初、ここに来られた時とても嬉しかったのだけど……


 

「──おい! またこんなところで落ち込んでんのか?」


 はたと顔を上げれば黒い騎士服の青年、ロデルが腰に手を当てこちらを睨みつけていた。


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