魔法の特訓
最初に強くなるための特訓をしてから十日ほど経った頃、ついに魔法を教えると言われた。
私達はあの日以来ずっと走っている日々が続いていた。初日は昼過ぎからだったから良かったものの、次の日からは朝から夕方までずっと走ら様になった。合間合間に休憩があったからいいものの、走るのが遅かったり止まったりするとビシバシしばかれるので頑張って走るしかない。そんなことを十日ほど繰り返していた。
それからまたいつもの様に平原に出て走ろうとしていた。準備体操や軽いストレッチをしていた頃、サイノさんに話しかけられた。いつもはゴートさんやスクルさん以外は遠目で見ているだけだからあまり話しかけられないけど、どうしたのだろうか。
「今日からは私とシャンデが特訓することになったわ。よろしくね」
「え・・・。何をするんですか?」
「魔法だよ!今日からは私たちが魔法を教えるよ!」
「「やったー!」」
やっとだ、やっときつい特訓から解放される。私もフィーユも同じ気持ちだった。
私は走るのは苦ではないが、進んで辛いことをやりたい訳ではない。だが私の場合は剣を使って戦うこともあるので体力は必要だ。この点に関しては走るのは私にとってプラスになる。まあ、一応誰にでもプラスではあるが。
フィーユは主に魔法を使って敵を攻撃する。私の様に剣を使うことはほとんど無く、魔法使いなので後衛にあることが多い。だからフィーユはそんなに体力を鍛える必要がない。
そんな苦痛の特訓も機能を持って終わったらしい。これからは魔法の特訓だ。この前よりも断然楽になることだろう。
そんなワクワク感と共に苦痛からの解放に喜び、嬉々として魔法の特訓に移ろうとしていた。
「よし、じゃあまずはイムの魔法適性を知りましょうか。じゃあこの水晶に両手で触れてみて」
「はい。こうですか?」
「そうそう、いい感じだよ!そのまま少し待っててね!」
サイノさんが持ってきた水晶に手を触れる。こうすると魔法的性がわかるのだろうか?
だが、私は自分の魔法適性を知っているけどね。だからこんなことをしなくてもわかっているのだけど、楽しそうだからやってみることにした。
少しすると徐々に水晶が光り出してきた。その光には色があり、少しずつ色を纏ってきた。最初は太陽の光が反射している様なやんわりとした芯がない様な光だった。だが時間が流れていくごとに光は強く、ハッキリとした色を纏う様になってきた。
暫くして、ようやく結果が出た。水晶からは深い青色の光が綺麗に辺りを色付けていた。そして水晶の中には水中で起きた様な竜巻が映っている。
この結果に周りは感嘆の声を上げ、少しの盛り上がりを見せていた。少し離れたところから見守っていたゴートさん達も近付いてきて水晶を覗いていた。
「イムは水の属性がすごく強いわね。普通では信じられない位の特性があるわ。後は風属性ね。水には劣るけれど、しっかりと使いこなせるくらいの適性はあると思うわ」
「シーお姉ちゃんは私と同じなんだね。私も水属性が強かったよ!」
「二人ともお揃いだね!それに二種類以上の属性も持っているしね!すごいよ!」
「フィーユは他にはどんな属性を持っているの?地属性とかかな?」
「全部の属性だよ!火も風も光も使えるよ!凄いでしょ!」
「すごいね。でもそれじゃあ覚えることがいっぱいで特訓も厳しくなるんじゃない?」
「確かに!それは嫌だ〜」
「ふふふ。よし、それじゃあ特訓を始めるわよ」
斯くして今日からは魔法の特訓が始まった。待ちに待った魔法の特訓、今までの走り込みからすればだいぶ楽になることだろう。
それにしても、フィーユが全属性を使えるなんて知らなかった。まあ、知っているはずもないがかなり驚いた。何となく見栄を張りたくて何でもないふりをしたが、内心すごく驚いた。
大抵の人間の魔法適性は一つから二つなのだ。四つともなれば魔法の才に恵まれているとされ、賢者の様な扱いをされる。
となれば全属性など神の様な扱いをされるのではないだろうか。フィーユは普通に全属性が使えると話していたが、公の場でそれを公開すれば本当にヤバいのではないだろうか。
だがおそらく心配はないだろう。サイノさん達がいるのだから、そのことについてはのちに教えるんだろうな。
さてと、私の魔力適正を調べ終えたから特訓を始めるそうだ。私たち二人は属性の傾向が似ているから二人一緒に教えてもらえるようだ。
教えて貰うのは主にサイノさんでシャンデさんはサポートやサイノさんの分野外のことをしてくれるそうだ。
例えば私の風魔法やフィーユの他の魔法などのサイノさんが使えない魔法を教えてくれるそうだ。
ともあれまずは二人とも使える水魔法から教えて貰うそうだ。水魔法はサイノさん自身も得意な魔法なのだそうで、沢山教えてもらえるらしい。
水魔法を二人が大方使える様になったらシャンデさんが他の魔法を教えてくれる様だ。だがそれはまだ先になるだろう。
「よし、二人とも。今から水魔法を教えるけど、まずは基礎中の基礎の"ウォーター"から始めよう。"ウォーター"の使い方は簡単、手のひらを下に向けて何も考えずに水魔法を使うだけ。ますはこれをやってみて」
「はい」
「わかった」
まあ、"ウォーター"は基礎中の基礎だ。ただ水魔法を使えばいいだけなのだから適性のある人からしたらとてもかんたんなことだろう。
というかフィーユは普通に"ウォーターボール"を複数作って敵に放っていたのだから今更こんなことをしてもと思うのだが。まあ、基本を抑えるのは大切なのだろう。
にしても、フィーユは遊び感覚で沢山"ウォーター"を使って水を出している。普通の子供なら沢山水を出せば魔力が尽きてもおかしくないのだが。
それより、私も早く"ウォーター"を使おう。フィーユの魔法を見ていてすっかり忘れていた。
手のひらに魔力を込めてその魔力を水に変えて出す。魔法はイメージが大切なのだ。魔力をどうするかで魔法は何にでも変化する。
今やったみたいに魔力をただの水にしようと思えば水になる。さらにどのくらいの威力や量で出すかなども魔力を調節すれば変えられる。
実際にやってみているが、そこまで難しいことでもない。魔法を使うためには魔力が必要で、魔力が使えるなら後は簡単だ。調節するだけで色々なことができる。
「よし、二人ともできているわね。じゃあ次は"ウォーターボール"を作ってみて。これは少し難しいかもしれないけど、頑張って。できなかったら私たちがが手伝うから」
「うん、頑張るよ!」
「頑張ります」
"ウォーターボール"はさっきまで話していた内容をやれば簡単にできる魔法だ。まずは先ほどと同じ様に手のひらに魔力を込め、その魔力を水の球体にする。
この言葉を実際にイメージして魔力を変換すれば"ウォーターボール"ができる。これも少しアレンジの様なことをすれば面白いことができる。
例えば"ウォーターボール"を宙に浮かせたらだとかだ。もとは自分の魔力なのだから"ウォーターボール"を自由自在に動かすことも簡単だ。
手のひらに魔力を込めるのも魔力を操り動かしているのだから、"ウォーターボール"も動かすことは容易い。それに先に魔力だけを浮かしてから"ウォーターボール"にすれば空中に作ることもできる。
こういう風に遊びながら今日は水魔法を色々と使っていた。元々フィーユは"ウォーターボール"を複数作っていたが、今はそれを置いたおこう。
その後にも"ウォーターボール"を飛ばしたり、沢山作ったりして魔法に慣れていった。
他にも水の形を変えて四角や三角にしたり、魔法をアートとして楽しんだ。サイノさんが水で狼を作ってくれたりしてくれた。
あれには驚いた。魔法には色々な使い方があるのだ。私やフィーユも水を色々な形にして遊び、今日は特訓を終えた。
今日は特訓という特訓ではなくて、とても楽しい一日だった。