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フィーユの初戦

 フィーユは緊張した様子で前へと進んでいった。私が覚えている限り、何かと色々なものに毎回緊張しているように思う。

 つい先日のオークの件も終始緊張していて戦えなかった。私的にはあのオーク達ならフィーユでも倒せたと思うんだけどな。

 実際に戦っているところを見たことは無いからなんとも言えないが、ポテンシャルは十分にあるように思う。フィーユは主に魔法を使って戦うと前にサイノさんに言われたが、前に遊びのような感覚でグローブ相手に魔法を撃っいたから魔法を使う感覚は掴んでいるのだろう。

 

 魔法は適性、センス、想像力で出来上がっていると言っても過言では無いからな。まず適性がないと使えない、これは当たり前のことだ。一人一つは絶対に適性を持っていると言われ、その適性に合った属性の魔法を使うことができる。

 センスはどうしようもない、圧倒的先天的なものがものを言うから。だが普通に魔法を使っているところを見るとセンスは十分にあるのだろう。

 ゴートさんのように魔法適性はあるがセンスがなく魔法が使えないと言う人は大勢いる。そう言う人は大抵前衛で体を張っている。たまに魔法と剣を同時に使う魔術剣士もいるようだが。

 ちなみに私は少しニュアンスが違うから魔術剣士とは言わないがな。魔法剣士は剣に魔法を付与することで剣を強化して戦う人たちのことを指す。だが私は剣での攻撃と魔法との攻撃で分かれているので魔法剣士とは言わないのだ。

 さて、最後の想像力だが魔法は使う時に頭の中で魔法を想像して使う人が大抵だ。これはセンスに直結する部分があるが、大抵の人がこの方法で魔法を使っている。

 そしてその時にイメージしやすくするために用いるのが詠唱だ。ほとんどの人が詠唱込みで魔法を放つ。だがそんなことをしなくても魔法を放つことができる人もいる。そう人が本当にセンスがすごい人たちなのだろう。かく言う私もその一人な訳だが。

 おそらくフィーユもそうなのだろう。まあ、それはこの後の戦いでわかるだろう。


「よし、もうそろそろだろうな。フィーユが本気で戦っているところを見たことがないから少し心配だな。」


「大丈夫だと思うけどなー、サイノの妹なんだし!」


「そうかしら、あの子あがり症なのよね。大丈夫かしら。」


 みんな割と心配しているようだ。私もすごく心配しているが。サイノさんの言う通り、緊張してから回らなければいいのだが。

 そしてゴートさんも言っていたが、もうすぐ開始の合図がかかるだろう。全てがそこでわかるのだが、まあやってみないとわからないだろう。

 そして少しすると、開始の合図がかかった。


「それではこれより昇格試験を始める。試験官は魔物を前へ出し、受験者は構えをとれ。」


 私の時と同じ合図だ。この合図の後、フィーユ深呼吸をして両手を前に出して構えた。

 試験官も私の時と同じく、狼のような魔物を二匹出していた。二体の魔物も少し喉を鳴らして威嚇をしていた。


「それでは・・・、始め!!」


 合図と同時にフィーユは前方が埋め尽くされるほどの大量の水球を創り出した。そして狼の魔物目掛けて一斉に放った。だが完璧に制御できているわけではないらしく、魔物だけでなく試験官の方へまで飛んで行っていた。そこはしっかりとサイノさんが水の壁を作り守っていた。

 大量の水球に当たりながらも魔物はまだ立っていた。しかしその様は痛々しいクーンという声を漏らしており、足もガタガタだった。だが、まだ水球は5分の一ほど残っている。無くなる頃にはもう魔物は死んでいるだろう。

 しかし、いざこの光景を目の当たりにすると少しくるものがある。魔物の痛々しい姿にフィーユも途中から目を伏せている。


 水球がなくなり、フィーユも目を開くとヘルトさんは試験終了を宣言した。フィーユは試験が終わるとすぐに私たちの方へ駆けてきてサイノさんに抱きついていた。

 フィーユはまだ生き物を殺すと言うことに慣れてはいないのだろう。本来ならば慣れることのない、慣れてはいけない感覚なのだろう。だが、この魔物が出る世の中ではそうはいかない。魔物を殺して稼ぐと言うことは普通のことなのだ。

 ゴートさんはこれら全てのことを含めて鍛えていくのだろう。私も姉として協力していかなくてはいけないね。


「すみません、よろしいでしょうか?」


「ああ、大丈夫だ。」


「それでは、受付の方へ戻りましょう。受付の方で冒険者カードを昇格させます。」


 私たちは受付さんの後ろについていった。とは言っても少し歩くだけなのだが。

 それにしてもあの魔物は弱かったな。いや、あれが普通なのかもしれない。大抵、ランクAは成人から二・三年ほど経った人が三年間の修行をして、二人一組になった時に勝てるレベルで設定されているそうだ。ついでに、冒険者として一人前と認められる、ランク7はその人が四人集まった時と同じ強さなのだそうだ。それを考えると、私たちは十分に強すぎる訳だ。

 フィーユは試験が終わってからずっとサイノさんにくっついている。あれがが成人二人分以上と考えると、末恐ろしいな。


「それでは冒険者カードを出してください。」


「あっ、はい。」


 私は自分の持っている冒険者カードを受付さんに渡した。フィーユのものはサイノさんが出していた。

 しっかりもののお姉さんは偉いな。ずっとフィーユに構ってあげているし。尊敬する。私もそんな心の広い姉になって見せよう。


「しっかりとお受け取りいたしました。それでは少々お待ちください。」


「あっちで待っていよう。ここにいると他の人たちの邪魔になるかもしれないしな。」


「そうだね。そうしよう。」


 受付さんは私たちの冒険者カードを持って裏の方へ入って行った。その間私たちは隅にある椅子に座って待つことにした。

 その間に私は試験官のヘルトさんとテスクさんと話をしてみることにした。まず、ヘルトさんに声を掛けてみよう。ヘルトさんは騎士の様な風格があるから、どうなことをしていたのか知りたい。


「あの、ヘルトさん。今回はありがとうございました。わざわざ審査員をしていただいて。」


「ん?ああ、これが今の俺の仕事だからな。どうってことはない、普通のことだよ。」


「"今の"と言いますと?今の審査員以外にも、何か仕事をやっていらしたのですか?」


「ああ、実はな。少し前まで騎士をやっていたんだ。少しっつっても、五、六年前の話だがな。」


「本当ですか!もう少し詳しい話を知りたいです!」


「ああ、いいぞ。俺はこの国の隣の国の騎士団の副団長だったんだ。」


 ヘルトさんは隣の国の騎士団の副団長なのだったそうだ。ヘルトさんは成人を迎えてから少し後に騎士団に入ったそうだ。毎日剣を振り、体を鍛え、国を守る為に必死で特訓をしてきたそうだ。ほぼ毎日街の警備にあたったり、王城の門番をやっていたそうだ。休みの日も自主練をやっていたそうだ。

 そして年に二回ほど実践訓練があったそうだ。実践訓練では魔物の襲来や反逆集団などのテロなどを仮定した戦闘訓練や防衛訓練をしたそうだ。そんな日々を続けていくうちに副団長になったそうだ。

 ではなぜ今はこんなところで審査員をやっているかと言うと、辞めたのだそうだ。

 副団長になったはいいものの、元の家は平民だったこともあり団員達に馬鹿にされていたそうだ。ある日は聞こえる陰口を、ある日は訓練中に魔法の誤発だと言って魔法を放ってきたやつらもいたそうだ。そんな中でも副団長なのだから辞めるわけにもいかないということで続けたのだそうだ。

 副団長になってからはほぼ毎日そんなことをされていたそうだ。だが月日が経つにつれて今まで何もしてこなかった団長までもが参加してきたらしい。

 そこからは今までよりも行動がエスカレートし、なんとヘルトさんの親にまでも手を出してきたそうだ。これまで色々なことに耐えてきたヘルトさんでも、流石にこのことは放っておけなかったのだ。

 それからすぐに騎士団をやめ、この国に避難してきたのだそうだ。そして見つけたのがこの仕事なのだそうだ。それからはずっと平和に暮らしているとか。


 ここまで聞くとなんだか申し訳なくなってきた。本当は思い出したくもなかっただろう。だが平民とはそれ程までに蔑まれるものなのだろうか。私はあまりそう言うのに詳しいわけではないからわからないが、差別されているとは知らなかった。こう言ってはなんだが、勉強になりました。

 ではゴートさん達はどちらなのだろうか。だが貴族や裕福な商人などが冒険者をやっていると言うイメージはない。では平民なのだろうか?また今度聞いてみることにしよう。


 ヘルトさんとはその後も少し話をした。今の職業で出会った人や面白い冒険者の話などを聞かしてもらった。

 その中でも面白いと思ったのは変わった戦い方をする剣士だ。その剣士の戦い方と言うのが剣を投げるのだそうだ。

 その戦い方がなぜ変なのかと言うと、普通剣士は戦闘中、剣を肌身離さず持っているはずなのだ。唯一の自分が戦うための武器を離すなど、隙だらけで攻撃を当ててくれと言っている様なものなのだ。

 そんなリスクを背負ってまで剣を投げる人などそうそういないのだ。だからそんな珍しい戦い方をする人がどう言う人なのかが気になったのだ。


「そいつの投げた剣は自分のところに帰ってくる。しかも投げた剣が魔物を外したと思ったら、魔物を追いかけて斬りかかるんだ。」


「なるほど、そんな戦い方は初めて聞きました。その人の階級はどのくらいなんですか?」


「確か、ランク2だったと思う。そいつはさらに剣に魔法を付与していたからな。相当な実力者だと思うぞ。」


「剣を投げる上に魔法剣士なんですか。凄いですね。一人で活動していたんですか?」


「いや、確か仲間が数人いたと思うぞ。そんなに多くはなかったがな。」


「そうだったんですか。周りの人も相当強そうですね。」


「ああ、みんな同じ階級だったな。お前さん達もかなり強いがな。その年で冒険者になった上にランクAなんて、規格外だと思うがな。」


「そうですかね?私はまだまだ強くなりたいですけど。それと、ありがとうございました。お話に付き合ってもらって。」


「ああ、いいってことよ。こっちこそごめんな。お前さんみたいな子に過去話なんてしちまってよ。」


「いえ、気にしないでください。楽しかったですから。」


 最初は怖い人だと思っていたけど、話してみるとそうでもなかったな。面白い話も聞かせてもらったし、楽しかったな。

 人にはいろんな過去があり、経験があるものなのだ。そこから強くなったり、進化していく。これだから人は面白いのだ。

 それにしても剣を投げる魔法剣士か。少し気になるが、まあいいか。私も剣を持っているが、投げると言うことはあまりしないな。それに追尾機能、これは魔法の一種なのだらうか。まだまだ知らないこともいっぱいあるな。


 まだ時間はある。次はテスクさんと話をしてみよう。実はおの召喚する魔物について気になっていたのだ。だからそれについて聞いてみようと思う。

 でもテスクさんはすごく暗くて少し話しかけづらい。なんか、ずっとフードを被っているし、服の色も黒の様な緑色のものを着ている。

 だが話してみないとわからないこともある。話しかけてみよう、そうしよう。取り敢えず、まずは挨拶から入れば何も問題はないだろう。それから本題に触れればいい。


「こんにちは、テスクさん。今日はありがとうございました。」


「ああ」


「「・・・・・・」」


 やばい、会話が終わってしまった。気まずすぎる。こんにちわに対する答えがああだけだとは思わなかった。

 いや、落ち着け。次だ、次がある。本題を聞こう。もう前置きはいいから尋ねればいいのだ。魔物の召喚についてだ。

 こう言う時は堂々かつ控えめにだ。相手の様子を伺いつつしっかりと話を進めていく。怖がらず、積極的に。


「あの、魔物についてなんですけどどうやって出しているんですか?」


「召喚」


「そ、そうなんですか。召喚魔法を使うときには魔法陣が必要だと聞いたのですが、要らないんですか?」


「必要ない」


「ど、とうしてですか?」


「要らないから」


「な、なるほど」


 なるほどじゃなーい!どうしてこうなった。さっきの経験が全く活かせていない。次はどうすれば・・・・・・

 そういえばヘルトさんがテスクさんについて言っていた。確か最初は全く喋らなかったが、ある召喚獣について話しかけてみたら話せる様になったとか。

 その召喚獣の名前が確か、ロードフィクションNo.27642だった。これは神話に登場する龍の名前だった気がする。確かその神話の内容がこうだ。

 

 ある日一人の召喚術師が自分の寿命の半分を使って召喚術をした。その規模はかつてない程に大きく、とてつもない魔力が辺りを覆った。そしてその魔力全てを飲み込み召喚されたのが、一体の龍だった。その龍の名はロードフィクションNo.27642、神の使いとされる龍だった。この龍は、天界の光を与える龍として長年言い伝えられてきた。その頃地上は闇に覆われ、魔物が活発化していた。そして召喚術師はこの竜と共に世界の闇を照らし、天界の光をもたらす神の使いと呼ばれる様になった。


 こんな感じだったと思う。天界の光をもたらす龍、か。実際に見たことはないがらすごく神々しいのだろうか。天界の光か、大層な名前を貰ったものだ。

 そんなことはいいとして、これでテスクさんと話をすることができるだろう。よし、早速話すとしよう。

流石に前置きはいいよね?


「あの、テスクさん。ロードフィクションNo.27642を知って・・・・・・」


「君、あの龍のことを知っているのかい。あの龍は神話になっていてなんとその内容は聖書にもなるほどなんだ!さらに神の使いとは読んだ字の如く神様の使いのことでその称号は強く、綺麗でしかも神に認められた者しかなれないまさに神の様なものなんです!さらに表向きに出ている物語では戦闘の方が描かれていないんですが、詳しく歴史書などを調べてみるとその記述が載っているものもあり、事細かく書いてあるものなんかを読むと本当に鳥肌が立って!あとあまり注目されることのない召喚術師ですが彼も素晴らしい人で龍を召喚する前は各地で人助けをしていたと言う記述もあるんです!あ、あとっていうのは忘れていたわけではないですよ。それと彼はその後龍にこの地は狭いと言って自分の全てを尽くして元の場所に返してあげたと言うものもありそれを読むと鳥肌と涙がが止まらなくなります!さらにその地をさった後龍は彼を生き返らせてーーーーー・・・・・・」


「イムシーカさんとフィーユさん、冒険者カードの更新が終わりました。」


 ナイスだ、受付さん!この人急に自分の世界に入り込んだと思ったら、その後のトークが止まらなくなったから困っていたんだ。

 私がロードフィクションNo.27642のことを話した瞬間目の色を変えて凄い勢いで語ってきたから少し怖かった。それにしてもあの人はやばい。関わってはいけない人だ。

 人の話を遮ってまであの龍の話をし出した。さらに私がいなくなった今でも喋り続けている。おそらく集中していて私がいなくなったことに気がついていないのだろう。

 あの人の近くから早く離れよう、少しでも近づいてはダメだ。ゴートさん達のところに急ごう。冒険者カードの更新が終わった様だからね。全力逃走だ。


「はい、これが新しい冒険者カードです。」


「ありがとうございます。」


「ほら、フィーユも受け取ってきなさい。」


「はい。」


「はい、とうぞ。」


「あ、ありがとうございます。」


 新しくなった冒険者カードは色が変わっていた。前のカードは銅色だったが、今は金色になっている。冒険者の階級がすぐにわかるためのかふうなのだろう。

 カードの内容は特に何も変わっておらず、前書いたものと全く一緒だ。フィーユも私と同じ様に金色になり、他は前と特に変わりはなかった。

 

 今日はもう疲れただろうと言うことで、依頼はやらないことにした。だが今日は残った一日の時間で訓練をするそうだ。

 あまりキツくないといいのだが。おそらく主に魔法の練習になるだろう。何せ二人とも魔法を使うのだから。


「よし、それじゃあ特訓を始めるぞ。」


「はい!」


「より、じゃあまずは・・・・・・」


 結果としては、今日一日ずっと走らされた。何故こんな目に。

 まず私達は街の外に出て平原にいた。私はてっきりそこで魔法をたくさん打って鍛えるのかと思っていたが、全く違った。

 着いて少ししたらゴートさんに走ると言われ、それからは日が暮れるまでずっと走っていた。途中休憩もあったが、その休憩時間というのが絶妙でさらにキツくなる様な時間配分だった。

 とは言っても私は全然余裕だった。走ることに関しては不得意というよりも得意だ。だが問題はフィーユだ。すぐに疲れて走れなくなっていた。その都度ゴートさん達に脅されて走っていた。

 その脅しの内容というのもこのまま置いていくとか、そこに座っていると魔物に食べられちゃうとかだったが、それでもビクビク震えながら頑張って走っていた。

 これから毎日これが続くとして、私は全然いいのだが、いつかフィーユが家出をしそうなものである。まあ、それはないと思うけどね。

オタク、、、どこにでもいるものである。その本質は宗教よりも深いものなのかもしれない。




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