無神論者、崇拝者
その男はとある会社の社長を務めていた。主にAIアシスタントなどを開発しており、かなりの知名度を持っている会社であった。それはつまり、次の作品もかなりの期待値があることを意味しており、男や社員は日々頭を抱えているのだった。
そんな男の性格は少し変わっており、それはいわゆる無神論者だった。つまり宗教や、神の存在に一切関心が無いのだ。特に男は初詣や寺に行かず、結婚式さえも開かないという極端な物で、社員からは変な噂が飛び交うこともしばしば見られた。しかし仕事に向かう姿は手本に出来るものだった。何しろ初詣、お盆などの休みを取らないのだから、仕事をその分進めることが出来るのだ。
その会社で今、開発途中の作品があった。やはりAIアシスタントとなるのだが、従来の品よりかなり性能が良く、抽象的な問いかけにも答える。また聞かれた質問に対して一番適切で、なおかつ危険性の無いサイトを一番最初に置くようにするなど、かなり実現の難しい作品だった。しかし今日、試作品がたった今完成したのだ。その試作品は社長である男の手に渡った。男は会社内に試作品を置き、性能を確かめる事にした。社員たちは「電気消して」や「エヤコンつけて」など様々な願い事をし、「…って何?」「…はどういう意味?」など、問いかけもした。試作品はそれに完璧に対応し、返答した。一週間の時を経て、男はこの作品を世に出す事を決断した。
しかし、男の会社は世界中から非難を受けた。決して性能が悪かった訳ではなく、問題だったのは他国にもう同じ様な作品が出てしまっていたのだ。そして、「しっかり確認しなかったこの会社の社長に問題がある」というネットの書き込みにから、男に今度は非難が送られることとなった。さらに酷いのは、この事件から辞める、または辞めざるを得ない、と言う社員が急増したのだ。とうとう男の会社は、倒産の危機に陥っていった。踏んだり蹴ったりの目に遭った社長は絶望し、誰も居なくなった会社にずっといた。電気も消し、カーテンも閉め、ただ光っているのはあの試作品のみだった。
「…なあ、答えてくれ、この会社はどうすれば良い?」
試作品は軽い音を立て、機械質な声でこう言った。
「-先ずは謝罪の言葉をあげなさい-」
「分かった…」
男は持っていたスマホでネットに謝罪の言葉を書こうとしたが、その前に一つ質問をした。
「…何と書けば皆に誠意が伝わる?」
「-謝罪の定型文では、最初に謝罪の言葉を入れ、次に何故そうなったかの経緯を話します。言い訳がましく聞こえないようにすると良いでしょう。また文章中にも謝罪の言葉を入れる事で…
男はこの機械の言う事しか、聞けなくなってしまった。