誰得
特に言葉を発さずに、ゆっくり上空へと昇っていくツタンカーメンは広場にいたプレイヤー達の注目を集め。
それと同時に同じく宙へと昇っていくサンドワームは、ゆっくりとツタンカーメンへと近づいていく。
「これは……アレかもしれんでござる」
「アレ?」
そんな光景を見たごまイワシは、これから起こることにあたりが付いたらしく。
口にした言葉に反応したのは、近くに寄って来たヘルミ。
「決まってるでござる。……合体でござるよ」
そんなヘルミに、心なしか目を輝かせながら答えるごまイワシ。
……に応えるように、ツタンカーメンの伸ばした腕にサンドワームが纏わりついて。
サンドワームの砂がツタンカーメンの体を覆い始め、さらにツタンカーメンの真下の砂が、何やら形を形成しながら上空へ伸びていき――。
「デカすぎんだろ……」
見上げれば太陽に被るほどの高さ。
そんな大きさになったツタンカーメンは、ようやくその口を開く。
「もはや容赦せん。町ごと潰れるがよい」
それは最終決戦の合図。
最終形態戦始まりの宣言。
その戦いの火蓋は、ツタンカーメンが持ち上げた腕を、NPC達の隠れる民家へと振り下ろされたことで切って落とされた。
「守れぇぇっ!!」
動けたのは数人。
顔sを筆頭に振り下ろされる腕の先にいたヘビーナイトの数人は、スキルで腕を迎撃した。
槍を突き出し、槌を振り回し、盾を構えたまま突っ込んで。
重い音。直後に吹き飛ばされる迎撃したプレイヤー達。けれども腕の勢いをほんの僅かに落としたに過ぎず。
なおも民家に迫る腕に、攻撃をしたのは†フィフィ†。
顔s達と違い真正面からは攻撃せず。
力の方向をずらそうと、振り下ろされる腕を横から殴打。
民家への直撃を避け、腕が振り下ろされる場所を広場へと変えようとするその試みは。
「手伝うぜ!」
当然傍にいたマンチも鬼の腕を召喚して参加して。
「お二人さんお久しぶり。私も加勢していいかな?」
左腕に露骨に貯めた雷を、大きく振りかぶってツタンカーメンの腕へとぶつける紫陽花。
「いいとも~!」
「じゃあ遠慮なく」
拳が腕へとぶつかった瞬間。パイルバンカーのように、腕に貯まった雷がツタンカーメンの腕へと勢いよく放出され。
その衝撃で紫陽花の体が大きく後ろに吹っ飛んで。
それだけの衝撃を受けた腕は、真下から斜めへと力の方向をずらされて。
ギリギリ民家の屋根を掠めながら。直撃だけは避ける形で広場へと振り下ろされる。
すると、広場にいたプレイヤーが、我先にとその腕へと昇ってきて。
「あー、これ正解だったかもな」
「というと?」
「あんな高い所にいる本体、どうやって叩くか問題があったんだが、拳避けて伝って上がれってことなんだろうな」
「なるほど。……行く?」
「俺高所恐怖症だからパス。あと多分だけど、そんな簡単じゃないだろうし」
その光景を見ながら自分の考えを披露するマンチは、
「とりあえず、NPC避難させようぜ。目の前で死なれちゃたまらん」
「どこに避難させる?」
「人が入りそうでツタンカーメンから離れてて安全そうな場所がいいんだが……。紫陽花はどこか心当たりないか?」
自分たちよりもこの町に詳しい紫陽花にその話題を振り。
「んー……。パっと思いつくのは図書館くらいかなー」
「んじゃそこで。案内よろしく」
天井が一部崩れた民家に入ると、そこの隅で体を寄せ合っているNPCを発見。
状況を説明し避難する旨を伝えると、全員が即座に首を縦に振ってくれて。
家から抜け出して図書館に向かう途中、自分たちに影を落とす巨大なツタンカーメンを見上げ、NPCの一人がポツり。
「アレに……勝てるのか?」
震える声で尋ねられたその質問に、
「大丈夫だろ。あんたらからあいつは化け物に見えるだろうけど、こっちはもっと化け物を知ってるからな」
「その化け物は味方だし、大丈夫大丈夫」
「たった二人でああなる前のあいつを翻弄してたから問題ないっしょ」
マンチ、†フィフィ†、紫陽花の三人はあっけらかんと言い放つ。
ボスモンスターが規格外なら、プレイヤーにだって規格外は居る。
だから、安心しろ、と。
その言葉を、実物を見ていないがために素直に信じることが出来ないNPC達だったが、元より今のツタンカーメンに対して無力であり。
彼らは、ただ祈るしかなかった。
突如町中に現れた脅威を、誰かプレイヤーが排除してくれることを。
*
「皆さん殺到していますが、あれは正解でしょうか?」
「ちょっと悪手と思うでござるね。あれだとまとめて吹っ飛ばされるでござるよ」
振り下ろされた腕を伝い、ツタンカーメン本体の所へ行こうとするプレイヤー達を見ながら実況を行うエルメルとごまイワシ。
いい手段がある。と先の侵攻以来の【ノルマンディ】から声をかけられた二人は、その場で待つように指示されて。
やることもなくなったからと、体育座りで待ちながら実況に興じていたところ。
「お待たせ」
「あー……すっごく嫌な予感がするんでござるが?」
ようやく戻ってきたノルマンディは一人のプレイヤーと大砲を連れてきていて。
「とりあえず紹介するよ。俺がいるギルドの代表、【雅葛】さん」
「ギルド『徹底大工』の代表、【雅葛】だ」
「ギルド『ネタ振りに人権を委員会』代表、ごまイワシでござるよ」
「その下っ端のエルメルです」
互いに自己紹介。そして、
「いきなり本題でわりぃが、こいつを使ってプレイヤーを飛ばそうと思っててな」
ポンポンと、持ってきた大砲を叩きながら言う雅葛は、
「ただ、弱っちいプレイヤー飛ばしたところで出来ることなんざたかが知れてらぁ。んで、さっきまでさんざ暴れまわってたお前さんらに目をつけてな」
と。
「まぁ、目立ちまくってたでござるからね」
「羨ましい位には目立って活躍してたからな。んで、あんたらって気付いた俺が代表に、二人と交渉してこようかと言ったら……」
「面白れぇじゃねぇの。ってな。実際あんたらなら、飛ばされた後も何とかなるだろ?」
「まぁ、何とかなるというか」
「何とかするでござるけどね?」
期待されているのならば、その期待に応えて見せよう、と。
そもそも体力消費でスキルが連打出来るごまイワシはともかく、エルメルに関しては自分だけでツタンカーメンの本体の所に行くためには他のプレイヤーと同様に面田を伝っていくしかなく。
ごまイワシにしても、ツタンカーメンの本体と戦う前から体力を消費などしたくはなく。
正直言って、他に選択肢もなかった。
「普通に入ればいいんでござる?」
「狭いだろうから抱き合う形になるけど……大丈夫か?」
「絵面がヤバいし中身男同士だから大丈夫かと問われればぜんっぜん大丈夫じゃない」
「けど、見た目ショタロリだからむさ苦しいおっさん二人よりはマシだと思うけど?」
「そっちはそっちで需要があったりしそうで……何でもないでござる」
「着火するぞ! 口閉じとけ舌噛むぞ!」
一部コメントが荒れたり、案の定過激なコメントが配信に流れるが、二人ともこれをスルー。
なるだけお互いの体の感触を意識しないように心掛けながら、空へと飛び出すまでの数秒を、じっと耐えるのだった。