化け物s
「そろそろ体力が厳しいでござる……が」
ノンストップでスキルを回し、ツタンカーメンの周りを周回しながら砂の防壁を削り続けること数分。
右回り、左回り。時にジグザグ。時に真っ直ぐ。
でたらめに見えて、その全ての動きはツタンカーメンの動きとリンクしていた。
ツタンカーメンの攻撃の素振りを見逃さず、どこへ移動するのが最善かを瞬時に見極めての移動。
常人ならば一度か二度。運も絡めて五回も正解すれば上出来の択を、ごまイワシは自慢の反射神経と観察眼で二桁をゆうに超える回数成功させている。
そこまでしてようやくごまイワシが漏らした弱音は、被弾しそうでも、疲れたでもなく。
[フラッシュバック]に必要な体力が――極振りで上げまくった体力が、スキルの連発で残り一割ちょっとになったことだった。
「こうなると専属ヒーラーが欲しい所でござるが、流石に贅沢過ぎるでござるかね」
一度、ごまイワシと同じように動き回りながら砂の防壁を削っているエルメルへと合流。
「どうした?」
それだけで、エルメルはごまイワシが何かを伝えに来たことを理解する。
「ちょっと体力が厳しくなったでござる。少しだけエルたそだけに任せても構わんでござる?」
「任せとけよ。何なら、そのまま下がってていいぞ?」
「流石に拙者も配信中でござるし、格好はつけたいでござる。……じゃあ、任せるでござるよ」
そんなやり取りの後、スキルでパルティのすぐ傍へと瞬間移動したごまイワシは、パルティに頼んで体力を回復してもらう。
そうしてツタンカーメンの防壁削り要因が一人欠けたのを、ツタンカーメンは見逃さず。
それまで攻撃の時に築いていた砂を、自身を中心に集めて形成。
自分の周囲へ、砂をガチガチに固めたピラミッドを形成し、防御態勢をとった。
ただ、その選択は、完全に間違いであった。
「斬り刻め! 吹き荒べ!! 目ん玉かっぽじってよく見てろ! ……て引き籠ってちゃ無理か。だったら引きずり出してやるよ!! [スラッシュトルネード]!!!」
今まで相対していたエルメルの行動を前提に考え、今のピラミッド状態ならば魔法の詠唱が終わる前にはピラミッドは破られない。
そう考えていたツタンカーメンだったが、エルメルにはツタンカーメンにはまだ見せていないスキルがあった。
発動に条件があり、自由には使えない。半面、だからこそ許される、奥義に相応しい効果のそのスキルは。
エルメルが大きく振りかぶり、振るった剣から発生する小規模の竜巻。
毎秒発生するダメージには、当然属性追撃と敏捷追撃。
しかも、竜巻は一方向に一つの攻撃判定が発生しているらしく、前後左右、そして中央にそれぞれ攻撃判定が発生。
当然狙いすましたその奥義スキルは、ピラミッドを中心として発生しているわけで。
秒間25ヒットのとんでもスキルと化けた[スラッシュトルネード]は、目に見えてピラミッドを削っていく。
リンゴの皮を剥くが如く。
瞬きするだけで、明らかにピラミッドの形が変わる。
そして、
「引きこもりたきゃあもっと頑丈な場所に籠るんだな!! レンガの家とかな!!」
むき出しになったツタンカーメンは詠唱を中断。
得意げに笑うエルメルへ攻撃を振るおうとした――瞬間!
「[ヘヴィーショット]!!」
頭上から聞こえた声。
しかし、その声に反応するより先に、強い衝撃がツタンカーメンを襲う。
それがスキルによる攻撃で、直撃したと理解するより早く。
「[ワイパークロウ]!」
突如襲ってきた鷹から、鉤爪で襲われ。
うっとおしい、と払おうとすると、払う前に鷹はツタンカーメンから離れ。
「隙だらけだぜぇっ!?」
その後ろから飛び出したエルメルへ、反応することはかなわず。
「[刃速華断]!!」
連撃が直撃。さらに、
「[雨霰]!」
サブマシンガンへと持ち替えた琥珀による乱射が、背中に直撃。
一気に体力を持っていく。
「お待たせしましたー。ごまイワシ一人お届けでござる~」
さらに、体力の回復が済んだごまイワシもスキルですっ飛んできて追撃。
その四人でひとしきり暴れた後で、
「皆さん、伏せて!!」
黒曜の叫びが響き。
全員が従って身を伏せると、ツタンカーメンへ後衛職の遠距離攻撃が集中。
水、火、雷、風。大砲に銃弾に弓に投げナイフ、クナイ手裏剣。
属性や飛び道具のオンパレードが頭上を通過し、ツタンカーメンへと突き刺さる。
「やったか!?」
「だからフラグだって言ってんだるるぉぉおおっ!!?」
「幼女が出しちゃいけない声出してる……」
ツタンカーメンの状態を確認するよりも早く。
もはやお約束となっているセリフをごまイワシが吐くと。
即座にエルメルにツッコまれて。
そんなエルメルも、琥珀にツッコまれて。
「全部こいつが悪い」
全ての罪をごまイワシに押し付ける。
「暴論が過ぎるでござる」
「知ってるか? 可愛いは正義で幼女はかわいい。つまり幼女は正義。おーけー?」
「いや、オーケーではござらんが?」
「まぁ、うん。当然のように倒していないから気を緩めないようにね?」
言い合うエルメル達を生暖かい目で見守りながらも、ツタンカーメンから警戒を逸らさない琥珀は……。
とりあえず動かないツタンカーメンへと射撃してちょっかいをかけてみる。
――と、乾いた音を立てて弾かれて。
「弾かれた?」
「こっちの攻撃遮断してるんだろ。つまり――」
「戦闘イベント発生でござるね」
何事かと首を傾げる琥珀に、今までの経験則から予想したエルメル達は……。
ゆっくりと空中に浮かび上がっていくツタンカーメンを見上げ、
「ほらな?」
と、どや顔で琥珀の方へと振り返るのだった。