誰が主役か
「[チンカチンク]」
響いた声は遠くから。
そしてその声は、エルメルは何度か聞いたことがあるもので。
そのスキルも、一度自分で体験しているもので。
空へと突き上げられたパルティを助けに行こうと動きかけた体を、無理やりツタンカーメンへと向け直す。
「そっちは任せるぞ!」
背中側の、パルティと入れ替わったプレイヤーに向けたエルメルの呼びかけは。
「任されました。[サフォケーション]」
スーツ姿の女性――ヘルミへとしっかり届いており。
空に打ち上げられた状態で入れ替わった彼女へ、サンドワームが襲い掛かる直前。
彼女の姿が、どこからか出現した棺桶のようなものに閉じ込められて。
――そのまま、サンドワームに丸呑みされた。
「とはいえ、どう戦うのが正解でしょうか?」
「顔か尻尾に弱点的なのない? 大体のワーム系モンスターってそこ攻撃するイメージなんだけど」
しかし、いつの間にか地面に降り立っていたヘルミは、隣に並ぶビオチットとサンドワームとどう戦うかの意見交換中。
ヘルミが入ったはずの、丸呑みされた棺桶からはどうやら脱出した後だったらしい。
「とりあえず人はいますし、物量で押してみましょう」
「正直ボスモンスの召喚って、大抵ボスをどうにかしないといけないイメージなんだけどね」
二人目掛けて襲い掛かってきたサンドワームは、その岩でできた牙が二人に届く直前、突如として跳ね上げられて。
「あー、腹のところになんか怪しいのあるや」
仕掛けた罠で跳ね上がったサンドワームを下から観察し、どうやら弱点らしい部分を見つけたビオチットは。
「風よ起これ。サッと吹いてサッと斬れ」
詠唱なのか判断に困ることを呟きながら矢を放つ。
その矢は、見るからに風属性と言わんばかりの緑のオーラを纏っており。
寸分狂わずサンドワームの腹にある、宝石のようなものを捉え……。
「好きですね。適当詠唱」
「逆に強者感出ない? 他と違う詠唱って」
追加で二本。おまけで三本目の追撃を放ち、弓を背負ったビオチットはサバイバルナイフを装備。
「あまり理解できませんけど」
「つれないねぇ」
矢が直撃し、腹の宝石が砕けたサンドワームは、落ちてくるころにはただの砂の塊へと変化しており。
「意外とあっさり?」
「どうでしょうか」
それを見て、この程度か、と判断したビオチットだったが……。
「来たれ」
ツタンカーメンの掛け声一つで再生し、また姿を象るサンドワームを前に、
「やっぱボス何とかしなきゃじゃんか」
口を尖らせて抗議。
「こいつらの相手も大事です。中衛以降を狙われたら崩されかねませんし」
「本当はボスとやりあっときたいんだけど」
「手数が重要なボスみたいですし、私たちだと分が悪そうですけど?」
「まぁね。けど、たまにちょっかいくらいはかけたいじゃん? [矢豪雨]!」
再生したサンドワームが、ビオチット達へと襲い掛かるまでのわずかな時間。
その時間で、ビオチットはツタンカーメンの頭上を目標に、スキルを発動。
ごまイワシ相手に撃った、[矢の雨]の上位版。
威力も、速度も、大きさも。すべてが一回り強化されたその攻撃を。
当たればいいや、少しでもダメージになればいいやという、ものすごく雑な考えで。
「むぅ」
しかし、その行為はある発見に繋がる重要な一撃となる。
降り注ぐ矢の雨を防ごうと、砂の防壁を展開しようとしたツタンカーメンだったが、周囲の砂の防壁はエルメルとごまイワシに蹴散らされており。
頭上へ、壁を作るために必要な側面の壁が、生成出来ていなかった。
それはつまり、頭上という一点において、壁を発生させる条件があるということで。
その条件さえ満たし続ければ、頭上からの攻撃は防げないということで。
「黒曜!!」
「はい!!」
その事実に真っ先に気が付いた琥珀は、後衛への伝達から戻ってきた黒曜を叫んで呼ぶと……。
「変化して私乗っけて飛べ!」
その背中へ飛びついて。
「御意!」
指示を理解した黒曜は、言われるままに鷹へと変化。
人間一人を余裕で乗せられるサイズのその鷹は、一瞬で空へと舞い上がり。
「[ウインドミル]! [ホークアイ]! 他に何が必要ですか!?」
「随時指示する! 今はそれでいい!」
鷹の背中で風を受けながら、下を覗き込んでツタンカーメンを確認した琥珀は、
「合図出したらツタンカーメンに向けて急降下! 私はスキル撃ったら退くからお前はそのまま突撃してインファイトしてこい!」
と指示を出す。
「かしこまりました」
その指示を頷いて了承した黒曜は、ツタンカーメンの頭上を旋回していつでも急降下できるように準備して。
地上では、ビオチットの[矢豪雨]のいくつかの矢の角度を変え、ツタンカーメンに直撃させようとするエルメルの姿を確認し。
桜色の軌道を描き、蠅のようにツタンカーメンへとたかるごまイワシを確認したところで、琥珀は黒曜に合図を送った。
首のあたりを、ポンポンと二回。
その合図を受け、黒曜は可能な限り上昇。
ツタンカーメンが豆粒ほどの大きさになるくらいに上昇したのち、黒曜は、太陽を背に、獲物に向かう鷹の如く、急降下を開始した。