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凸砂

「うわぁ、何あれ? ……エグぅ」


 ごまイワシのクールタイムを無視したスキル連打に思わずドン引きした琥珀は、桜が舞い散るとともにゴリゴリと削られるツタンカーメンの砂防壁を確認して無言で武器を持ち替える。

 サブマシンガンから、またスナイパーライフルへ。


「正直この距離で撃つ意味あんまないんだけど、一番火力出るのこれだしね」


 明らかにスナイパーライフルで狙うには近すぎる距離にツタンカーメンが居るが、後ろに下がって安全な場所でスナイプするよりも、この場から撃った方が移動分の時間を短縮できる。

 もちろん、後ろに下がれば敵から攻撃されないというメリットもあるが……、


「敵ですら狙いが定められない位に高速移動してるあの人魚と、人魚が捉えられそうな瞬間に全ヘイトを掻っ攫うあの緑のせいでこっちにヘイト向かないし」


 そのメリットも、ごまイワシと†フィフィ†によってほぼ無いものとなっており。


「ていうか、やっぱあの二人おかしいじゃん。さっきまでと攻撃の通り方が桁違いなんだけど」


 ごまイワシに加え、アクセントどころではない動きをしているエルメル。

 一方は多段ヒットスキルをこれでもかとばら撒いて。

 もう一方は、敏捷による追撃と属性追撃を存分に生かしてスキルを振るう。

 これまでも前線に属性追撃を積んでいるものはもちろん居た。

 居たは居たのだが……流石に三種の異なる属性追撃を積んでいるものまではおらず。

 さらにそこに加わる敏捷追撃も加味すれば単純計算二人分。

 それが基本で、それからスキルの効果などが適用されると考えれば、エルメルだけで果たして何人分の仕事をしているのか。


「あちょーっ!!」


 そして、時折全ヘイトを持っていく緑装束のプレイヤーは、砂の防壁を殴打した反動で空中に留まり続けるという理解しがたい状況で砂の防壁を削っているし、陰陽師の彼は的確に砂の防壁が尽きた方向から腕を召喚してぶん殴っている。

 ほんの数秒前に参戦してきていながら、誰よりも適応し、誰よりも連携し。

 たった五人の援軍で、形成が一気にひっくり返ってしまった。


「来たれ福音。喝采の渦を、この領域全てから湧かせたまえ。響け、歓喜よ。[ヒールフィールド]」


 そこへ、術者の存在しているフィールド全域という、他の範囲回復をあざ笑うかのようなお化け範囲の回復がパルティによって発動され。

 前衛も、後衛も、分け隔てなく減っている体力が回復していく。


「多分一番ヤバいのこの子よね。拠点に一人いれば、他の回復要らないじゃん」


 そんな琥珀の見つめる先のパルティは、Uber Eats(ウーバーイーツ)されたMPポーションをいくつか受け取り、即座に飲み始める。

 その範囲から分かる通り、先程の回復魔法にはMPのほとんどを費やしてしまうらしかった。


「まぁ、そんくらいないとぶっ壊れ……。あの子欲しいなぁ。うちに来てくんないかな」


 思わずこぼれた本音は誰の耳にも入っておらず。

 それを確認して覗く必要もないスコープを癖で覗く。

 近すぎるがゆえに大きく見えすぎる標的は、こちらに気付くもすぐに背後から襲ってきた桜の方へと気を取られ。

 標的の正面に砂の壁がなくなった瞬間。


「[メテオシュート]!!」


 立位で撃ったそのスキルは、反動で思い切り後ろに仰け反るほどのもので。

 本来は、衝撃を逃がせる態勢で撃つことが前提ゆえに、発動と同時に琥珀の体力に負荷によるダメージが入る。

 ――が、それはどうせ時間がたてば誰かが回復してくれることだろう。

 だからこそ、琥珀は放った。

 現状、自分が持てる最大火力のスキルを。

 そして、そのスキルは砂の壁に阻まれることはなく。

 ツタンカーメンへと届いた……と思われた。

 不意に首を傾けるツタンカーメン。

 動いた頭の横を通過する銃弾。

 それは、ツタンカーメンの回避率が、ほんの少しだけ上振れた瞬間だった。


「最悪」


 思わず歯噛みし、悪態をついた琥珀だったが――、


「いい音だ。使わせてもらうぜ?」


 ツタンカーメンに当たることなく進んだ銃弾は、その直後にとあるプレイヤーの真横を通過しようとして。

 銃弾の軌道上にある剣は、[メテオシュート]の弾丸を打ち返す。

 たった今脇を通過した、ツタンカーメンへと。


「ピッチャーライナーの経験は!? [薙ぎ払い]!!」


 当たらなかった。そう判断したスキルを追うことなどなく。

 完全に不意を突かれたツタンカーメン。

 本来あるはずの砂の壁も、数瞬前に殺到した桜によって崩れ去っており。

 その銃弾を阻むものは……何一つなかった。


「っしゃい!!」


 高速の銃弾を打ち返した反動で吹っ飛んだエルメルが逆さまにながらもガッツポーズをし。

 前衛の何人かにその体は受け止められて。

 今までの戦闘の中で、初めてとも言える大きく仰け反るほどのダメージを与えたプレイヤー側に歓喜の渦が広がるが。


「笑止。我に歯向かう者どもは皆殺しだ」


 首を振って体勢を立て直したツタンカーメンがそう言うと、逆流砂が止まる。

 さらに、作り出していた砂蛇や砂虎が砂に戻ると……。


「目覚めよ【ワーム】。我と共に戦え」


 突如として地震。

 そして……、


「何だありゃあ?」


 体は砂で、歯は岩で、目は宝石で出来たワームが二体出現。

 出現して左右に揺れていたワームは、一度地面へと潜ると……。


「来るぞ!!」


 マンチの叫びに応えるが如く、とあるプレイヤーの真下に出現し、そのプレイヤーを空中へと跳ね上げて。


「きゃあっ!!?」


 何が起こったか分からず、悲鳴を上げるしかないパルティへと、二体のワームが襲い掛かるのだった。

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