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異常気象

 ジリ貧。

 ツタンカーメンと戦っているプレイヤーのほとんどの頭の中に浮かんだその言葉。

 確かに琥珀の攻撃は砂の防壁を乗り越えてツタンカーメンへと届く。

 攻撃が届けばその時だけは湧き上がる砂は止まり、前線で攻撃を受け止めていた顔s達も攻撃に参加できる。

 ――だが、その状況を作り続けられるかといえば、それは否であった。

 その原因の一つは琥珀の攻撃方法。

 MPを消費して銃弾へと変えている都合上、どうしてもMP回復の時間が必要になる。

 次に顔s達タンク職や前衛職プレイヤーの体力。

 複数の回復職で体力回復を行ってはいるが、それでも敵対しているのはエリアボスであり。

 その攻撃は、当然弱いはずもなく。


「攻撃方法が砂というのが厄介ですね……」


 士気が下がることを考え、誰にも聞こえないように呟いた顔sの脳内には最悪のシナリオが描きあがる。

 それは、この場でツタンカーメンを倒せない可能性。

 そうなった場合、先の侵攻によって守り通したイエローデザートの陥落を意味し。

 それはつまり、侵攻時の防衛実績を大体的に宣伝していた【ROOK WIZ】の看板が落ちるのと同義。

 

(それだけは避けたい)


 そんな思いとは裏腹に、足元の逆流砂は復活し、目の前には砂で作られた蛇が大きく口を上げて迫ってきていて。


(余計なことを考えすぎましたか)


 その蛇を盾で防ぎ、カウンタースキルで砂へと戻す。

 ツタンカーメンの現在までの攻撃は、こうして砂で作り出した生き物による攻撃か、本人が放つ砂礫(すなつぶて)による攻撃。

 それらは、戦い始めてから今まで変化のないもので。

 ピラミッド内で戦っていた時に使用した魔法攻撃は、まだ使ってきていない。

 ……それはつまり、まだまだ第一段階ということで。

 それすらも突破できない自分たちを思わずじれったく思ってしまう。

 ――と、


「キャーッ!?」


 後ろの方で、悲鳴が聞こえた。

 何事かと横目で確認すると、回復職の一人が砂蛇に絡まれているではないか。

 周囲のプレイヤーが助けようとしてはいるが、そこが隙と見られたかさらに砂蛇と砂虎が追加出現。

 タンク職のヘイトを稼ぐスキルの合間を狙われた後衛へのちょっかいが、見事にぶっ刺さってしまった瞬間だった。


(何とかしなければ……、今の状態で回復が落とされると一気にキツく……)


 だが、足元にはすでに逆流砂が復活している。

 それはつまり、前線組は移動できないことを表し。

 中衛組も、自分の方へと向かってくる砂蛇や砂虎の処理に追われていて回復職まで手が回らない。

 ――そんな時、


「[スポットライト]!!」


 頭上から、誰かの声が響いた。

 瞬間、目の前のツタンカーメンも、周囲の砂蛇も、砂虎も。

 その場にいた敵全員の顔が、声がした上空へと向けられて。


「なんかヤバそうっぽいからパルティ! 全体回復よろしく!!」

「はい!!」


 何故だか一人、ポータルに入らずにピラミッドに取り残されていたはずの【ROOK WIZ】内最強の回復職の声が響き。


「拙者ちょっと周囲の雑魚蹴散らしてくるでござるよ」


 顔sが一度しか会話したことがない、特徴的なしゃべり方をする魚群がプリントされたTシャツを着た人魚が一瞬で、回復職に絡んでいた砂蛇へと肉薄し。


「標的発見! これより戦闘態勢に入る!!」

「全員パーティ認定されてっから範囲絞るぞ! [六壬棗地(りくじんそうち)]! [六壬楓天(りくじんふうてん)]!!」


 さらに、軍服幼女と陰陽師スタイルの二人がツタンカーメンへと狙いを定めて降ってきて。

 顔sは一瞬、思いもしなかった援軍に胸をなでおろす……が。


(何を安心しているのですか。あの人数で戦況が変わるわけでもなし。気を引き締めなければ……)


 何を馬鹿な考えを、と、自分で自分を諫め、ツタンカーメンを今一度強く見た――瞬間。

 顔sは信じられない光景を目にした。


「[縦横武刃]!! [刃速華断]!!」


 逆流砂に足を取られることなく、ツタンカーメンの周囲を動き回りながらスキルによる攻撃を放ったエルメル。

 当然その攻撃は砂の防壁によって防がれるのだが、防がれた直後、今までの顔s達の攻撃では飛び散らなかったほどの砂が飛び散って。


[[羽々斬り]!! [薙ぎ払い]!!]


 さらに追撃し、目の前を阻む砂の防壁を完全に突破したエルメルは、ツタンカーメンから放たれた砂礫を撃ち出した本人へと打ち返してご返却。

 喰らって仰け反るツタンカーメン。そこへ叩き込まれる琥珀のサブマシンガンによる乱射。

 急遽、足元の逆流砂を防御のために回したツタンカーメンだったが、それは前衛組の足を復活させることとなり。


「まだやれんだろ!!?」


 響くエルメルの言葉に、当然だ、と声を上げて突撃していく前衛たち。

 それらの攻撃は追加された砂の防壁によって防がれるが……、


「見た感じ手数さえあれば突破できる感じでござるね?」


 いつの間にか顔sの隣に並んでいたごまイワシが、今まで戦っていた顔sに、自分の考えがあっているのかと答え合わせを要求。


「はい。複数回連続で攻撃すれば砂の防壁が剥がれます。またすぐに復活するので、継続して複数ヒットの攻撃をせねばならず、その回数も多いので今までジリ貧で……」


 本来ならばあまり渡したくはない敵の情報。

 ただ、先ほど描いた最悪のシナリオを回避するためならばと、顔sは躊躇いなくその答え合わせを受け入れて。


「了解でござる。拙者とエルたそに防壁の突破は任せるでござるよ」

「……二人でやる、と?」

「拙者一人でも可能かもしれないでござるが、まぁ、保険で二人。何とかなりそうならエルたそも火力あるから合流させるでござるよ」


 何を馬鹿な、と鼻で笑った顔sに、大真面目で返すごまイワシ。

 そして、


「[桜花雷閃][フラッシュバック][桜花雷閃][フラッシュバック][クロスポイント][瞬身][桜花雷閃][フラッシュバック][桜花雷閃]」


 砂漠に似合わない、ピンク色の花びらをまき散らしながら。

 今までにない速度で、ツタンカーメンの砂の防壁を崩し始めたのだった。

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