お値段異常
「ていうかさ、ピラミッドへのポータル開いてくれてたのがさっきのスフィンクスだよね?」
「だったでござるねぇ」
「これ、入り口のポータル消えてるとか無い?」
「ありえそう」
ごまイワシの気持ち悪い動き(視聴者談)を鑑賞した四人はマップの端に固まり、ホルスの遣いから狙われないようにひっそりと話をする。
その内容は、今後の事ではあるが、まずはその前にどうやってこのピラミッドから抜け出すかというもので。
「この奥はボスの部屋なんだっけ?」
「はい。……あ、でも、今は居ませんけど……」
奥の事を唯一知っているパルティへエルメルが尋ねれば、説明を開始するパルティ。
「さっきまでマスターさんたちと戦っていたんですけど、気が付いたらツタンカーメンごと皆さんどこかに行っちゃってて……」
「多分転移魔法とかじゃない? 知らんけど」
「んでもボスごと転移とか可能なんでござるか? 出来てもそれはボス側のギミックのような気がするでござるが……」
「とりあえず奥の方が近いしそっち行ってみるべよ。そこにツタンカーメンが戻ってきてるなら倒せばいいし、何もなけりゃあ入り口に戻ればいい。流石に閉じ込められましたなんて事にはならんでしょ」
顔s達が何をしていたかについては知らされていないパルティでは、ツタンカーメンはどこに行ったかは分からない。
そして、話し方からそのことを察したマンチとごまイワシが一瞬思考に入ろうとするが、エルメルの言葉がそれを引き留めて。
「うちも賛成。待ってても何も始まんないし、とりあえず動こ?」
エルメルの意見に賛同した†フィフィ†は立ち上がると、ようやくクールタイムが終わった[ブレイクダンス]の為に四本目のMPポーションを呷る。
「ま、そうでござるね。考えるより動いた方が解決は早いでござるね」
「これで一番最悪なのは、ツタンカーメンを倒すまでここから出られないことだが……」
「あの人たち何回か倒してるんじゃないの? 負けると思えないんだけど」
「そりゃあそうだけどさ」
†フィフィ†が飲み干したのを確認し、歩き出した一同は、奥の部屋で光り輝くポータルを発見し。
「入る?」
「しかないだろ。外に出られるもよし。スフィンクス倒したことで真のボス部屋への道が拓けたってんならそれもまたよし」
「とりあえずまずはごまさんに入ってもらって」
「どうせ拙者は安全確認のための生贄でござるよーだ」
「何かあった時に一番何とかなるのごまだろ。さっき手に入れたスキルあって簡単にやられないだろうし」
「あれ結構大変で――」
「ほら、とっとと行った行った」
半ば押されるような形で、ごまイワシがポータルへと入ると……。
その姿は、どこかへと飛ばされる。
――と同時に、ごまイワシだけがパーティから抜けるという処理がなされ。
「強制的にパーティ解除ってどっかで見たな」
「大サソリの時、侵攻の時」
「ひゃっほい重要イベントじゃねえか!! 行くぞ!!」
それがどんな時に行われる処理なのか、理解した三人は我先にとポータルへと押しかけて。
残されたパルティも、恐る恐る四人の後を追って、ポータルへと入っていくのだった。
*
ツタンカーメンと多数のプレイヤーが戦っている広場から少しだけ離れた場所。
そこで、固まって鍋やら壺やらで何かを作っている集団があり。
その中心には、二つの窯で緑色の液体とピンク色の液体を煮込んでいる魔女が居た。
……そう、魔女。黒い服装ローブに黒いとんがり帽。
そんな身なりで液体を煮込む存在など、魔女としか表現できない。
「マスター、戻りました」
そんな魔女の元に、軽装さわやかイケメンのプレイヤーが声をかけると、
「んじゃあ次こっち。持てるだけ持って、ゴー」
「あいあいさー!」
近くに集めてあった液体入りの瓶を指差して指示。
するとさわやかイケメンのプレイヤーはそれを持てるだけアイテムインベントリに収納すると、
「では、行ってきます!」
「ほいほいいてらー」
さわやかな笑顔を向け、どこかへと出発。
それを見送った魔女は……、
「はぁ。確かにボスだかが出現して道具屋のNPCが引っ込んじゃったとはいえさ、生産職集めてUber Eatsさせるってのは、扱い酷くない?」
近くで同じくポーションを生産中のプレイヤーの一人へと声をかける。
「わ、私は戦闘が全然なので……こうして少しでも攻略の役に立てるのは嬉しいですけど……」
「ふーん? まぁ確かに私も戦闘からっきしだけどさ……。待てよ? 割とこの形態にした方が需要とか上がる可能性ある?」
そうして返ってきた答えに何か考えを巡らせて。
「どんな狩場でも連絡一本でポーションをお届け。急な戦闘のお供に……的な?」
「緊急時の選択肢として、需要はあるとは思いますけど……」
「ちょっと考えよう。何にせよ、生産重視のプレイヤーに声かけて集めたのに、まだ目立った活動がないってのが致命的だから、何とかしないと……」
そう呟きながら完成したポーションを瓶に詰め。
程なくして帰ってきたさわやかイケメンに持たせて次のポーションの作成へと取り掛かる。
彼女たちが作成したポーションは、主にツタンカーメンと戦っている顔sのギルドメンバーの元へと届けられる。
最初は嫌々ながらに引き受けた仕事だったが、これをきっかけに生産職ギルド【満腹亭闇鍋】は、広くプレイヤーに、その存在を認知されることとなる。