災害警報
「なんか、小さくなってない?」
動き出したスフィンクス。
その姿を見て†フィフィ†が漏らした言葉は、正確には違っていた。
確かに、スフィンクスの体は先ほどよりも一回り小さくはなった。
――が、それは……スフィンクスの体を覆っていた砂が、まったく別のものを形成したからで。
「背中に羽なんてついてたか?」
マンチが確認した、砂の翼を象ったからで。
「来るぞ!!」
宙へと跳躍し、さらに翼を羽ばたかせ。
フロアの三次元的な意味での中心にポジションを取ったスフィンクスは。
「まずはお前や!!」
一番離れていたパルティへと狙いをつけると、砂の翼から砂で形成された刃を放ち。
その刃を追いかけるように急降下し、両前足での薙ぎ払いを敢行。
突然の挙動についていけず、移動すら出来なかったパルティは……。
「いきなり後衛に殴りかかるのはマナー違反でござるよ?」
その姿を忍者漫画などでよく見る切り株へと姿を変え、本体はごまイワシの腕の中。
お姫様抱っこの状態で助けられていた。
「あ、……えと」
「ほい。大丈夫でござるか?」
あまりの事態についていけず、キョロキョロと周りを見渡すパルティを気遣いながら、そっと降ろしたごまイワシは。
「忍者になって思ったんでござるが、忍者のイメージが確実に海外のイメージのそれなんでござるよね」
なんて軽くぼやき。
「史実の忍者なんて、基本バレたら終わりだし。その辺の農民が実は忍者だったなんて、割と日常だし」
「それを元に職業にしたら、地味も地味だから多少はね?」
そのぼやきに反応して、†フィフィ†とエルメルがフォローを入れる。
「まぁ、そのおかげで[変わり身]とかあるわけで、特に不満とかはないわけでござるが」
攻撃が当たっていなかったことを理解したスフィンクスがパルティの姿を探し。
見つけた瞬間突撃をしてきて。
その軌道が途中で大きくカーブする。
「[スポットライト]!」
当然、ヘイトを強制的に自分に向ける†フィフィ†のスキルの仕業であるが、そのスキルも……。
「へ?」
発動後に移動しようとしてもなぜか動けず、スフィンクスの攻撃がモロにヒット。
と思いきや、†フィフィ†の姿が虚空へと掻き消えて、スフィンクスの眼前に現れて。
「あ、[メイクアップ]中はカウンターになるんだ」
新たな気付きから把握までは僅かに数瞬。
カウンターの一撃に選択した攻撃は……。
「最初はグー!!」
渾身の力を込めた握りこぶしによる……目潰し。
しかもご丁寧に、先ほどエルメルが攻撃してダメージを与えた方の目である。
「んぎっ!!?」
顔を勢いよく逸らし、ダメージを僅かにでも減らそうとするが、カウンターの一撃に対応するには遅く。
逸らした勢いと、†フィフィ†の一撃の勢いが相まってスフィンクスの体が大きく反転する。
そこへ……、
「[使役律令:撃]!!」
マンチの召喚した鬼の腕による無常なる腹パンにより、スフィンクスは地面へと叩きつけられ。
「フルボッコだドン!!」
スフィンクスのポーズは腹を上にした生き物で言う服従のポーズ。
つまるところ完全無防備な状態となったわけで。
そんなチャンスを、エルメルが逃すはずもなく。
[縦横武刃]を発動し、[刃速華断]で尻尾を中心に反復横跳び。
当然、刻まれる度に追撃は発生するわけで。
もしかしなくても尻尾がみじん切りにされるわけで。
「いてぇわ!!」
翼で地面を蹴り、その反動を利用して起き上がろうとしたスフィンクスへ。
「[ハイウェイト]♪」
回転しながら跳躍した†フィフィ†による踵落としによって、また地面へと叩きつけられ。
「これ行けそう。[後の先]!」
少しでも抵抗しようとしてか、左右に振られた尻尾にカウンターを構えてみれば。
「ビンゴ!!」
どうやら攻撃判定があったらしく、カウンターが発動。
さらに、
「おまけでこいつもくれてやるよ! [羽々斬り]!!」
カウンター直後に追撃で斬撃をお見舞いしたところで、エルメルにしか分からぬメッセージが流れる。
そのメッセージは、『奥義の発動条件を満たしました』というもので。
それと同時に、エルメルの持つ【王家を守護する従僕の剣】に刻まれた三つ目のスキルが使用可能に。
どうやら、ユニーク武器に刻まれた三つ目のスキルは奥義スキルと呼ばれるもので、その発動には何かしらの条件が必要らしい。
ともあれ、
「よく分かんねぇけど使わない選択肢はあるのか!? いや、無い!!」
一人で反語を使用しながら、その奥義スキルを発動。
「[スラッシュトルネード]!!」
身を捻り、大きく振りかぶって振るった剣は、その場に小規模の竜巻を引き起こし。
スフィンクスはおろか、周囲にいたホルスの遣いも引き寄せ巻き込んで。
毎秒発生する攻撃判定と、その攻撃判定に付与される属性追撃と敏捷追撃。
それらが合わさり、断続的に聞こえるダメージ音が収まった時。
エルメル達の周囲から、ホルスの遣いの姿は消え失せ、スフィンクスの体はさらに一回り程小さくなり。
背中に生えた砂の翼も、ボロボロの状態になっていたのだった。




