スピード×パワー×体重=破壊力
大きく左に跳んだのはごまイワシ、マンチ、†フィフィ†。
右に跳んだのがエルメル。
そして、後ろに跳んだパルティ。
そんな、三方向に跳んだプレイヤーに対し、スフィンクスは……。
「ふん!!」
迷うことなく、パルティへと襲い掛かった。
大きく斜めに薙ぐ、前足での爪攻撃。
……しかし。
「妨げる障壁。我らを守る、城壁とならん。[短単障]!」
パルティの出現させた障壁に阻まれ、その前足がパルティに届くことはなく。
「隙しか無し!!」
前足を上げた状態のまま止まっているスフィンクスへと跳躍したごまイワシは、
「[流転]!」
移動先を器用に設定し、その前足へと着地。
そのまま肩の方へと駆け上がっていく。
「[クロスポイント]!!」
それを察知したスフィンクスが、身を振ってごまイワシの行動を妨害しようとするも、既にスキルの射程内。
スフィンクスの鼻っ面へと交差する一撃を放つと、
「[使役律令:援]!!」
それに合わせてマンチが、ごまイワシの動きをトレースする人形を展開。
ダメージが少ないとはいえ、鼻っ面に攻撃を喰らって思わず鼻を抑えるスフィンクスへと。
「これはごまさんの分!! これもごまさんの分!! そしてこれが、ごまさんの分だぁっ!!」
何故か倒されてもいないごまイワシの仇と、とび膝蹴りからのかかと落とし、さらに後ろ回し蹴りの連撃を叩きこむ†フィフィ†。
「おっかしいでござるな~。拙者やられた記憶ないんでござるが?」
「ごめん。未来見てたかも」
「やられる予定もやられる気もこれっぽっちとしてないんでござるが」
蹴りの反動でごまイワシとマンチの所へと戻ってきた†フィフィ†へ、抗議の声を上げるごまイワシ。
それに対し、悪気なく言い放った†フィフィ†へとため息交じりにおどけると、そこへスフィンクスの前足が振り下ろされて。
「ハズレ♪」
当たった瞬間に桜の花びらが舞い、その花びらは今しがた振り下ろされたスフィンクスの前足へと襲い掛かる。
それに合わせて追撃をかけようとしたごまイワシの視界の端に、エルメルの姿が映り。
(しっかりやるでござるよ)
と、心の中で思いながら。
ごまイワシはスフィンクスの視界から、[瞬身]を使って消えるのだった。
*
ごまイワシたちがスフィンクスの気を正面から引いているころ。
エルメルは、スフィンクスに気が付かれないように背後へと回ろうとしていた。
……が。
「なんでこんなに居やがるんだよ!?」
元々そのフロアにいたホルスの遣いに行く手を阻まれていた。
スフィンクスの邪魔にならないように……。
そして、スフィンクスの敵を邪魔するように。
スフィンクスの死角を守るように行動しているホルスの遣いは、どうしても倒さなければならない敵であり。
しかし、ホルスの遣いを倒すために音を出せばスフィンクスに気が付かれるかもしれない。
そうなると、せっかく気を引いてくれているごまイワシ達の動きが無意味なものになってしまう。
ではエルメルはどうしたか。
答えは単純。全てを無視した。
「いけるか?」
まずはホルスの遣いではなくフロアの壁へと全力ダッシュ。
攻撃を当てるために近づいてきたホルスの遣いと、一定の距離から魔法を放とうと詠唱を始めるホルスの遣いとを確認し、壁に向かってジャンプ一番。
何の突起もない壁へ、膝をクッションにしてほんの数舜とどまって。
「[薙ぎ払い]!!」
ホルスの遣いに向けてではなく。
フロアの壁へ向けた何かを弾く効果がある攻撃は。
当然、フィールドとして存在するピラミッドというものは弾き飛ばすことができない。
しかし、弾き飛ばすことは出来ずとも、攻撃としての処理はもちろんされて。
先ほどプレイヤー三人をまとめて飛ばしたそのスキルの威力は……エルメル一人を飛ばすには十分すぎた。
「っしゃいっ!!」
空中壁キック……いや、速度を考えればそれよりも速いその動作は、エルメルを追いかけてきたホルスの遣いの頭上を飛び越し。
さらに、詠唱を終えて魔法を放った個体たちすらも飛び越えて。
着地。と同時にスフィンクスの尻尾へと駆けだすと。
「[縦横武刃]!! んで……喰らいやがれ!! [羽々斬り]」
移動に攻撃判定を付与し、尻尾へ向けてダッシュからの斬りかかりを三度。
さらにそれに付与される属性追撃三種と敏捷追撃により、尻尾に無数の細い傷がついていく。
「めんどっちいなクソが!!」
これによりスフィンクスに気付かれるが、そんなことは想定済みとエルメルは身を低くして。
「[刃]!!」
スフィンクスがエルメルの方を振り返ったことにより遠のいた尻尾へ。
たった一歩の踏み込みで肉薄し。
「[速]!!」
勢いあまって追い越すが、そのエルメルの軌跡には攻撃判定が存在する。
勝手に斬り刻まれる尻尾へ、追撃の一太刀を浴びせ。
「[華]!!」
また振り返ったスフィンクスの、今度は顔面へと跳躍して剣をフルスイング。
不意を突かれたスフィンクスは、これを目にもろに食らってしまう。
たまらず痛がるが、エルメルはもちろんまだスキルの発動中のわけで。
「[断]!!」
痛がっているスフィンクスの目へ、躊躇いなく渾身の突きをお見舞いする。
物理的に、自分よりも重い物を動かすときには、それ相応の大きな力が必要となる。
だとすれば、その渾身の突きでスフィンクスの巨体を浮かせてぶっ飛ばしたエルメルの一撃には、どれほどの力が込められていたか。
「やったか!?」
「ほんとフラグ立てんの好きだよなお前」
「なんかもう、お約束みたくなってる」
「面白いからいいんでござるけどね?」
それを見届け、エルメルへと寄って来た三人。
少し遅れて、
「み、見ない間に動きが凄くなってますね」
少しばかり驚き過ぎたか、語彙がなくなっているパルティも寄ってきて。
けれども、スフィンクスが身動きした音が響くと、また散開し、スフィンクスの動きに備えるのだった。




