開花
「まさかミイラを殴り倒す日が来ようとはね」
場所はピラミッドの中。
体力が高く、魔法弱点で倒すまでに時間がかかるという理由でこれまではスルーされてきた敵、マミーを前に呟くエルメル。
あれから、コメントにて教えてもらった各員のユニーク武器の情報。
ブルーリゾート近辺に出現するタコ、『パコス』。
同じくブルーリゾート、パコスよりイエローデザート寄りに出現するヤドカリ型の敵、『コーストシェル』。
イエローデザート周辺に存在する、まだエルメル達が狩りを行ったことのないハゲワシ型の敵、『バルダスチャー』。
そして、現在目の前にいるピラミッド内部の敵、『マミー』。
寄せられたその情報を元に狩ることは確定。
あとは、その順番だが……。
「じゃ~んけん!」
「「ぽん!!」」
後腐れなく済むように、ジャンケンによって決められ。
「まぁ、知ってたでござるよ」
早々に脱落したリアルラック皆無を尻目に、なかなか決着がつかなかった三人だったが……。
「しゃあ!! 一番!!」
見事勝利を手にしたのはマンチであった。
「チッ! 二番か」
そのマンチに負けたエルメルが次点。
「まぁ、どのみち集めはするんだろうし、いっか」
結局は四人の分集めるのだからと特に順番を気にしていない†フィフィ†が三番目。
というわけで、マンチの装備できるユニーク武器、『パピルスの人形』を落とすマミーを倒すべく移動してきたわけである。
「以前は物理攻撃しかなかったが、今の俺らはこの間までとは一味違うぜ?」
「転職も終えてスキルも一新。負ける気がしないでござるよ」
「ショップで買った間に合わせの武器でどこまで狩れるかお手並み拝見」
「とりあえずバフかけっぞ? 動くなよ?」
クラウチングスタートの姿勢を取り、エルメル達目掛けてダッシュをしてこようとするマミー達を見ながら、マンチは転職後に覚えたスキルを発動。
「[六壬棗地]! [六壬楓天]!!」
マンチの持っていた人形――人の形をした紙がマンチを含むパーティメンバー四人分に増殖し。
それぞれ全員の背中に一つずつ張り付いて。
「[戦いの歌:円舞]!」
それを追うように†フィフィ†がマイク片手に歌唱を開始。
……と言っても、実際に歌っているわけではなく、歌っていることになっているだけらしく、聞こえてくる歌と†フィフィ†の口の動きは合致していない。
「口パクかよ」
「けど、歌ってる時ポーション飲めないんだよ? しかも歌っている間は常時MP減り続けるし。[ブレイクダンス]!!」
そして、そのことにエルメルがツッコミを入れると、唇を尖らせ歌唱中のデメリットを説明し。
[メイクアップ]が転職したことによって変化したスキルを発動。
ボクサーのように軽く二回ジャンプした†フィフィ†は、まさしくダッシュをしてエルメル達へ向かい始めたマミーの顔面へ、とび膝蹴りを実行。
勢いが衝撃に変わり、その衝撃はダメージに直結し。
進行方向とは逆方向に吹っ飛ばされたマミーはピラミッドの壁に激突。
そこへ、
「まず一体♪」
吹き飛ばした速度と同じ速度でマミーを追っていた†フィフィ†の右ストレートが、マミーの腹へとめり込み撃破判定。
消滅するマミーを余所に、次の標的を探し――、
「[桜花雷閃]!!」
見つけた近くのマミーには、ごまイワシが桜吹雪を舞わせながら突撃中だった。
「え、何それカッコいい」
「惚れてくれて構わんでござるよ!」
だが、真正面から正直に突っ込んだせいで、ごまイワシの姿はマミーの拳に捉えられ……。
「出直すでござるよ」
その姿は、桜吹雪に変わり。
マミーの背後に、本物のごまイワシが無音で出現。
「ついでに[クロスポイント]もオマケでござる」
マミーが振り返るよりも早く。
毒属性と風属性の追加された二撃を放ち、ごまイワシの姿はマミーの正面へ。
そのごまイワシへ攻撃を加えようとしたマミーだったが、
「桜は見せかけでも、演出でもないでござるよ? 立派な攻撃でござる」
周囲を舞う桜が、突如としてマミーへと襲い掛かり。
まるで剃刀の刃のような切れ味で、マミーを切り刻み。
撃破判定となって消滅。
「オシャンティーな攻撃です事」
「目立つから、忍者らしいかと言われたら微妙なところでござるけどね」
「忍術って派手なものじゃないの?」
「それは耐え忍ぶ者の方の忍者でござる。拙者としては忍ぶ者で居たい所存」
短刀と短剣を鞘に戻しながらそう言うごまイワシは、けれども満足そうな表情で。
戻したばかりの二振りの得物に手をかけて、近くのマミーへと襲い掛かる。
――が、ごまイワシを追い抜いてマミーへと襲い掛かる影が一つ。
「[刃速華断]プラスの[縦横武刃]が強すぎて狩りが楽しい」
その影は、移動中すらも攻撃判定となるスキルを習得したエルメルであり。
移動しながら攻撃する[刃速華断]と組み合わせ、文字通り縦横無尽にフィールドを動き回って斬撃をバラまいているらしい。
しかもバラまいている斬撃には毒属性、土属性、水属性の追加属性攻撃と。
通常攻撃、の追加属性攻撃分の計四回の追撃が発生しており。
敵が密集している場所に突っ込んで、無数に重なった攻撃音と共に敵を全滅させて戻ってくるという少し前までは信じられない光景を作り出していた。
「ネタ振りだと思っていたエルたそが、敏捷値を極上げしたら追撃が発生し始めて、あれだけ苦戦していた敵を、文字通り秒殺して帰ってくるなんて」
「知らんのか? 幼女の成長は早い」
『幼女が育つと幼女じゃなくなっちゃうだろ! 幻滅しました。ごまイワシさんのファン辞めます』
ぼそりと呟いたごまイワシの言葉に返したエルメルのコメントに。
エルメルの配信の視聴者からコメントが寄せられ。
とばっちりでごまイワシがディスられて。
「お前ら、俺の倒す敵くらい残しとけよ」
気が付くと、周囲にいたマミーは一掃され。
まだバフスキルしか発動していないマンチは、一体も倒すことなく最初の波が終わってしまい。
少しだけへそを曲げながら、マミー達がリポップするのを待つのだった。