先の景色
転職。
それは、ゲームの中において、より強くなれるシステムの一つ。
転職先が固定なものから複数の選択肢があるものまで、その種類はゲームによってさまざまで。
転職の手段も、方法も、ゲームによって異なる場合が多い。
それでも、ほとんどのゲームにおいて言えることが一つ。
それは、転職した方が強くなる。ということである。
「エルメル。あなたには選択肢があります」
「初期職で結構数あったのにさらにこっから派生すんのね。候補はどれで?」
土下座をしていたエルメルへ、ラルナが優しい口調で語り掛ければ。
一瞬で土下座モーションから立ち姿へと移行するエルメル。
そんなエルメルを相変わらず苦笑の表情で見続けるラルナは、
「全身全霊の一撃を。より一撃に重きを置いた『破壊者』。二の太刀要らず。敵の弱点を見極め、的確な一撃を操る『侍』。手数は火力。機敏な動きで敵を翻弄し華麗に舞う『舞剣士』。……あなたは、これらから選ぶことができます」
エルメルが選択可能な職業を、その特徴と共に羅列する。
「いくつか質問いい?」
「私に答えられることならば」
「今使ってるスキルとかって据え置き?」
それを聞いたエルメルは、ラルナへと質問。
転職後のスキルはどうなるのか? と。
「いいえ。それぞれ選んだ職に合わせて変化します」
「ふーん。んじゃあ、今の装備をそのまま流用出来ない転職先ってある?」
「いいえ。どの職も前提職の装備は装備可能です。ただ、転職後でしか装備出来ない武器種が増えるだけです」
「なるほど、おっけー」
また、それに回答をもらった後も気になったことを尋ね。
「ん、決まった」
その後すぐ、どの職業へと転職するかを決めたエルメルは……。
「『舞剣士』。それに転職させてくれ」
「転職後にキャンセルは効きません。構いませんか?」
「おう。どうせ順番に攻撃、命中、敏捷特化なんだろうし、端から選択肢とか無いようなもんだし」
「では、あなたを『舞剣士』に。これからも、あなたの旅に幸運が訪れますように」
胸の前で手を組み、目を閉じ祈るラルナから発せられた光に包まれて。
『職業『戦士』から『舞剣士』へと転職しました』
というシステムメッセージが流れる中、転職用の特殊マップから、イエローデザートへと帰還するのだった。
*
「あいつら居ねぇな?」
イエローデザートに戻ってきたエルメルはとりあえず周囲を確認。
まだ戻ってきていない他の三人を一旦置いて、転職により変わった部分を探す。
(流石に見た目はファッション装備で固めているから変化なし。スキルとステータスは確認するか)
一通り見える範囲で自分の姿を確認したエルメルは、変化の見受けられない外見は放置。
すぐにウィンドウを開いてまずはステータスを確認する。
(全体的に一回り強くなった感じのステータスだな。……敏捷が『-3』になってるのが多分滅茶苦茶にでかい)
レベル十五でようやく数値の変動した敏捷のステータス。
それが、転職を経て三倍になっているという事実が、一番エルメルの心を刺激して。
『あ、戻ってきた―! おかえりー!!』
突如として流れ始めるコメントに、若干焦るエルメル。
「あれ? 配信止まってた?」
ステータスウィンドウを閉じ、スキルウィンドウを出しながら視聴者へと問いかけると、
『ネタバレになるため配信中断中。ネタバレ区域を配信者が離脱した場合に再開されます。って画面に出てた』
という回答が。
「あー。なるほど? まぁとりあえず、転職してきたよって報告しとく」
視聴者側からしか見えない表示を理解して。
見えない間に何があったのかを告げるエルメル。
『転職!? そういやエルメルさんの初期職知らないや』
『どれ選択したの~?』
『転職してどれくらい強くなった~?』
などの質問が飛び交って。
「初期は戦士。んで、転職して『舞剣士』選んだよん。どうも敏捷特化みたいだったし」
そう返答すれば、
『イメージ通り』
『幼女侍とかも見てみたい気はした』
『戦士だったんだ!? 戦士であんな前張れるもんなんだね』
『『舞剣士』になると武器二本持ち出来るから二本目探さないとだね』
というコメント達が。
「武器二本マジ!? 絶対楽しいやつじゃんそれ。……あー、ちょっと待って」
視聴者から寄せられたコメントに興奮したエルメルは、開いたスキルウィンドウからスキルの説明を読んで一瞬で冷静さを取り戻す。
(初期スキルの[幅断ち]が[羽々斬り]に変わってるな。移動後攻撃ってあるけど移動距離とかは書いてない……)
冷静さを取り戻して行ったのはスキルの考察。そして、脳内でスキルのイメージを行うこと。
(二刀時、攻撃回数二倍って表記あるし、二刀前提か。早急に二本目を調達しなきゃじゃねぇかよ)
さらに、説明の最後につけられた一文によって、優先事項の一番上に装備の調達が君臨し。
(あいつら戻ってきたら、全員分の装備集める羽目になりそうだな)
近未来を未来視し、苦笑がこぼれるエルメルのそばに。
「にんにん! 我、水を得たり!! 名実ともに忍者となった拙者に、もはや出来ないことなどあんまりないでござるよ!!」
割とやかましいごまイワシが、転職から戻ってきた。