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経験者は語る

「あれ? ごまどこ行った?」

「? さっきまで隣にいたくない?」

「パーティのメンバーから外れてないから回線落ちってわけじゃなさそうだが?」


 ジョルトにクエスト品を渡しながら、周囲を見渡してごまイワシの姿を探すエルメル、†フィフィ†、マンチだったが、クエストを完了した途端に体が光に包まれそれどころではなくなった。


「お、レベルアップ」

「チュートリアル報酬って事なんだろうね。……あー、もうちょっとでまたレベル上がるじゃん」

「やっぱり普通よりはホニラ倒し過ぎてたんだろ。ごまの為に軽く三倍くらいは倒したイメージだったし」


 レベルアップした瞬間に目の前に出てくるウィンドウ。

 それは、レベルアップした際に獲得したステータスポイントをどこに割り振るか、と問われたウィンドウで、そのウィンドウと並ぶように各々のステータス画面も同時に開かれている。


「はいはいMPMP」

「俺まだ振れねぇな。えぇと……十二項目もあんのかこれ……」


 即決でMPに振った†フィフィ†を余所に、ステータスの項目の数に頭を抱えるマンチ。

 均等振りするにあたり、レベルが一上がる度に振っているとステータスは横一線ではなくなってしまう。

 その為、全部の項目に一振れるポイントが溜まるまでは必然お預けを喰らうのは必至。

 そして、


「あー、てか俺どれに振るか決めなきゃだったわ」


 ステータス画面とにらめっこしながら、自分はどれに振ろうかと腕を組むエルメル。

 攻撃、命中、敏捷、防御、HP、回避、MP、魔力、魔法防御、幸運、反応、所持量。

 表示されているステータスの項目はマンチが呟いた通り十二種類。

 と、ステータス画面を眺めていると、とある疑問が頭に浮かぶ。


「なぁ、疑問なんだけどさ」

「うん?」

「どったの?」

「敏捷って、要は速さだよな?」

「じゃないの?」

「それをレベルでポンポン上がるようにしていいのか?」


 エルメル達……つまり近接職において、速さは強さに直結する。

 移動が速いという事実は、回避や間合い詰めの容易さに関連し。

 実際、アップデート前にキャラの移動速度を上げるためにはかなりレアな素材を用いて強化するか、ユニーク装備と呼ばれるこれまたレアな装備を身に着けるしかなかった。


「ヘルプ項目あるから読んどけよ。敏捷は攻撃やスキルの速度に影響するってさ」

「スキルの速度? ……あー、クールタイム的な感じか」

「今のところ使えるスキル少ないからスキル回しの効率上がるなら有用そうじゃない? ネタとして弱そう」

「いや、なんかスレで言われてっけど敏捷は全然上がらないらしいぞ?」

「上がらない? どゆこと?」


 ステータス画面や割り振りウィンドウとは別にウィンドウを操作していたマンチは、ステータスの理解を深めようと色々と検索を行っていた。

 有志によって更新がリアルタイムで行われているゲーム内攻略掲示板。

 そこではどのステータスに振ったらどういった効果があるかについて意見交換がなされているのだが……。


「他のステータスは上がるのに、敏捷は五レベになってポイント突っ込んでも変動なしらしい」

「バグ? けど仕様だったらむしろ振り続けるとどうなるか見てみたくね?」

「序盤は振る価値無しって結論になってるな。あとついでに所持量って項目なんだけどさ」

「それ気になってたー。アイテム持てる量って事だよね?」

「みたいだな。所持量の範囲の重量しか持てず、その範囲でも一定量以上で移動速度やスキルでの移動距離とかに制限がかかるらしい」

「うぇ。アプデ前みたくポーションがぶ飲みオンライン出来ないって事?」

「いや、出来なくはないと思う。ただ、補給の頻度は増えるだろうけどな」


 マンチが開いている攻略掲示板をエルメルと†フィフィ†にも共有し、ここでも議論を交わす中……。


「そう言えばパルティはどれに振ったんだ?」

「…………」


 先ほどから一言も話していないパルティに振るが、返事はなく。

 まるで抜け殻のようにボーっと突っ立っていたパルティは……。


「…………ふぇ、あっ、はい! 何でしょう!」


 二度三度こっくりこっくりと舟をこいだ後、ガクンと崩れそうになり持ち直し。

 どう見ても眠いですという雰囲気を醸し出しながら、それでも元気いっぱいに話を聞いていなかった、と告げる。


「あー、眠いなら落ちちゃって大丈夫だぞ?」

「VRゲームやってると時間の感覚鈍るけど、普通にもう深夜だからね?」

「自分の体調面優先しなー」


 そもそもフルダイブ系のVRゲームは肉体面の疲れは感じにくい。

 その代わり、ログアウトした瞬間からテストを何時間も受けた後の様な疲労感が襲ってくる。

 そんなゲームの中で眠気を感じるという事は、現実の肉体は睡眠を欲していることを如実に示し。

 ここで無茶をすると病院のお世話になってしまう可能性すらあるのだ。

 なお、いつメンの四人は訓練されている為当たり前に三徹なんてやっていたりするが、一般人からしてみればアホみたいな所業である。


「ごめんなさい。自分から声をかけておいてなんですけど、お先に失礼します」

「気にすんな」

「お疲れー」

「またなんかあったら一緒にやろうな」

「はい! それでは、失礼します!!」


 それぞれの忠告を受け、結局ログアウトを選択したパルティは、挨拶をするとその姿を消し。

 パーティのメンバー欄からも、『ログアウトしました』、という告知の後に外される。


「さて……俺やっぱり敏捷に振りたいんだけど」

「幸運とか面白いと思うけど……いや、ダメだな。幸運が死にステだったゲームを知らねぇからネタにならねぇなこれ」

「多分だけど所持量はみんな大なり小なり振る必要あるっぽいじゃん? そう言えば反応ってどんな効果――あー……これも普通に有用ステっぽい」


 ネタになりそうなステータスを探して掲示板を漁るが、どうにもピンとくるものがない。

 ちなみに反応とは、ヘルプに寄れば回避とクリティカル確率と命中率に働きかけるステータスらしく、字面だけで優秀そうな感じが否めず。


「まぁ、今のところ無駄にしかならない敏捷でいいんじゃね? 最悪俺みたいに平均振りになれるし」

「なりたくないが? んじゃあ敏捷にポイントを突っ込みましてっと。――うっわマジだ。数値がゼロから微動だにしねぇ」

「ていうかそろそろごまさん探さない? マジで消えちゃってるんだけど」


 エルメルがようやく振るステータスを決め、それぞれがステータス振りを終えてごまイワシを探そうとしたとき。

 三人の横に……消える前にごまイワシが元々立っていた場所に、ごまイワシが戻ってきた。

 ――地面にうつ伏せの状態で。

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