命名
「と、いうわけで~……戻ってきましたよ~っと」
およそ二日間に跨った休息。
食事も、睡眠も、運動も。
十分に行ってリフレッシュしたエルメルが、元気にログイン。
そして、目の前にはすでに待機していたごまイワシの姿が。
「お帰りでござるよ~」
「毎度お迎えご苦労なこって」
軽い挨拶を交わすと、何やらごまイワシがエルメルに押し付けてきて。
「? 何ぞ?」
受け取ったそれは、ビデオカメラのような代物。
それを不思議そうに眺めていると……。
「ここの運営が事実上配信フリー宣言を出したでござるよ。もちろん、拙者らのチームは運営公認ストリーマーとなっているでござるが、いわゆる一般プレイヤーも配信が可能につい先日なったでござる」
「なるほど?」
どうやら手渡されたのは、ゲーム配信を行うためのゲーム内のアイテムらしく。
それを弄びながらごまイワシの言葉に耳を傾ける。
「それを受けて、拙者たち四人それぞれの視点での配信を行ってみようかと思うのでござるよ。拙者みたいなリアル回避極じゃなく、マンチニキや†フィフィ†ネキ視点が見たいって視聴者も居るでござろうし、同じ前衛でも戦い方が違うエルたその視点が見たいって人も当然いるはずでござる」
「おー。自分で配信するのは初めてだなー」
「でそ? んでまぁ、それをするにあたって早急に決めなければならない議題が一つ」
「聞こうか」
腕を組み、虚空に肘をついて。
どこかで見た様なポーズをとり、ごまイワシを見つめるエルメル。
「拙者たち四人組の呼び名が欲しいでござる。ついでに、その名前をギルド名にしてこの際だからギルド立ち上げちゃおうかなーと」
「絶妙にセンスが問われるやーつ。あいにくそんなセンス持ち合わせてねーぞ?」
「流石に他二人が来てから全員で考えるでござるよ。ほら、配信のタグにその名前載せるつもりでござるし」
「あまり変なのにはしたくない、と」
「いえすおふこーす」
なるほど。とポーズを解いて頭の中でどんな名前がいいかを考え始めるエルメルのそばに、ログインしてくる人影が二つ。
「おー。二人ともいらっしゃいでござるよ。同時ログインとか同じホテルにでも泊っているでござるかぁ~?」
「四人とも同じ定期。んで? メールに書いてあった渡したいものって?」
雑なネタフリをあしらいながら、ごまイワシへと要件を聞くマンチ。
そして、先ほどエルメルに行った説明と同じ説明を行って……。
――二時間が経過。
適当な建物の中に入り、雑多に置かれている椅子を運んで四人でテーブルを囲めるように移動。
そして、そこで自分たちの通称、及びギルド名考案の会議が始まったのだが……。
過ぎた時間が示すように、残念ながら中々に決まらず。
それもそのはず、割とおちゃらけた名前にしたいごまイワシ、和風な名前を推しまくるマンチ。
基本ドイツ語で響きのかっこよさ重視のエルメル。
花言葉からもじった言葉遊びを提案し続ける†フィフィ†と、それぞれの名前への思いが全てバラバラ。
とうとう、
「もう、各々がこれだと思う名前を書いて、それから無作為に選んで決定するでござるよ」
というしびれを切らしたごまイワシの元、とうとうあみだくじによる名前の選択が決定し。
一人二つまで。という候補の選定に五分。
カオスにあみだを引いていく作業に三分。
そして、どのあみだをスタートにするかを決める人を決めるジャンケンに三分。
結果、ギルド名の運命はマンチの選択するあみだにゆだねられることになり。
「ここだ!!」
マンチが選んだあみだを辿り、決まった四人の通称とギルド名はというと――。
*
「はい。というわけで始まったでござるよー廃人がネタ振りしたキャラで廃人プレイしながら配信するこの配信。なんと、今回はこの配信にもついにタグをつけることが決定したでござるよ」
配信を開始したごまイワシの滑らかな挨拶と、動画に付くタグが決定したことを告げる報告は、予約待機していた視聴者達の頭に疑問符を浮かべ。
「さぁ! 心して聞くがいいでござる! 我ら四人! 『ネタ振りに人権を委員会』!! 特に略称とか決めてないから好きに呼んでくれでござる」
ごまイワシが宣言すると同時に、配信設定を操作し、『#ネタ振りに人権を委員会』というタグが設定され。
それと同時に、ごまイワシ以外の三人も配信をスタート。
「なんと今回から、今まで拙者の視点だけだったのを、他の三人の視点も見れるようにしといたでござる! というわけで、他の視点が気になる方は今つけたタグから飛ぶと見れるはずでござるよん」
ピースサインで配信者にアピールしたごまイワシ。
その直後、
『うぉっ!? 幼女視点ktkr!!』
から始まる無数の幼女スキーの方々の愛に溢れるコメントが流れ、若干引き気味になるエルメル。
――だが、
「よろしくね♪ お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
即座に状況を飲み込んだエルメルは、猫どころかトラでも被っているような早変わりを見せ、周囲の三人に鳥肌を出現させ。
しかし、画面の向こう側では興奮と感嘆と悲鳴のようなコメントで溢れかえり……。
「ちょっと待って!? えぐい数のギフト来てる!?」
「全員読み上げるでござるよ!!」
「競馬の実況者でも無理だって!!」
慌てながらも読み上げようとする健気な幼女の姿に心を打たれ。
結局、その日はエルメルの息が上がる量のギフトが、エルメルにだけ投げられたのだった。