トップ合意
「何だったんだ今の……」
「まぁ、レベルが20に到達したから発生したイベント的な?」
周囲が町の景色に戻り、先ほどまでの女神たちに囲まれた状況を整理するエルメル達へ。
『ごまイワシさんはどこの勢力に加わったのですか?』
というコメントが。
「勢力? ……とりあえず、女神たち選ぶ奴は『幸運』を選択したでござるが?」
そのコメントに返信すれば、
『幸運なんだ。てっきり火力行くと思ってた』
『幸運かー。尚更勢力争いが激化するなー』
なんて反応が。
「もしかしてでござるけど、選んだ女神の加護によって所属とか勢力とかがあるんでござるか?」
『選んだ加護が作れるギルドの種類に直結してるから、そこから勢力って括りで呼ばれてるんよ』
どうやら、ギルドにも種類がいくつかあり、その種類は選んだ女神の加護によって選択肢が異なるらしく。
そのことから、女神の加護を勢力と呼んでいるらしい。
「なんて?」
「選んだ女神の加護によってギルドが制限されるらしいでござる」
「ほーん? 結構重要そうじゃん?」
「でも拙者ギルド作る気ないでござるよ?」
「なんでそんなこと言うの?」
「ギルド運用なんてめんど――大変な事、ごまがしねぇで誰がするっていうんだ!!」
「言い直しの意味ぃっ!! 内容一切変わってないでござるよぉ!!」
配信のコメントの内容を他の三人に共有すると、ごまイワシはギルドを作る気はないと発言。
しかし、エルメル、マンチが二人がかりでごまイワシを丸め込もうと画策する中、一人。
「…………ごめん。眠気MAXだから落ちるね」
†フィフィ†は、女神のイベント後から発言をしておらず。
ようやく口を開いて出た言葉は、限界を知らせる内容で。
「拙者らも落ちるでござる。次回は二日後か、三日後になるでござろうなー」
「ぐっすり英気を養って、また廃人生活しませうしませう」
「レベル20になって、色々と解放されているでござろうし、それらを探しに回ってもいいかもでござる」
「んじゃ配信に来てくれたみなさんありがとうございました」
「次回配信もお楽しみにでござるよ~」
ごまイワシの横に並び、自分たちには見えない視聴者へ向かってお辞儀するエルメルと、それに合わせて手を振るごまイワシ。
配信が終わったことを確認し、ふぅ、と息を一つは居たごまイワシは、
「みんなお疲れ様でござるよ。前みたいに休養取って、IN出来るようになったら拙者に連絡頂戴でござるよ」
「あいよ」
「ういす」
「はーい」
三人に、最低限起きたら何をすればいいかを伝達し、三人が手を挙げたことを確認してごまイワシがログアウト。
それに続くように三人もログアウトし、レベル上げ、レイドボス討伐、エンチャントの素材集めと盛沢山だった連日連夜のプレイが終了。
余談だが、四人のうちの二人は、ベッドまでたどり着くことができず、デバイスゴーグルを外して片手に持った状態のまま、ゲーミングチェアにて力尽きた。
*
「そっちから接触してくるなんてめっずらし」
「こちらにも色々と事情がありまして」
イエローデザートの奥。
ギルドルームと呼ばれる、ギルドで契約して使用可能となる特殊なその場所で。
【ROOK WIZ】のリーダー、顔sと。
【ベーラヤ・スメルチ】のリーダー、琥珀。
本来は敵同士であるはずのこの二つのギルドは、現在、同じ目的のために手を組む関係にあった。
「ツタンカーメンの方に進展がありましてね」
「へー。良かったじゃん。……で? それをわざわざ説明するのはどんな意図?」
拠点ボスと思われるツタンカーメンの討伐。
それが【ROOK WIZ】の役割であり、【ベーラヤ・スメルチ】はまた別の役割を割り当てられていた。
そんななか、わざわざ自分らの方は順調だ、と伝えてくる意味はない。
だから、そう話を切り出した顔sに、琥珀は露骨に警戒の色を示し。
「ツタンカーメンが、転移魔法を使ってくるようになりました」
「転移魔法?」
「はい。床に魔法陣が描かれ、一定時間後に魔法陣の中にいたプレイヤーがイエローデザートに強制送還されるものです」
「そんなの使ってくるんだ。……それで?」
しかし、顔sの口から出された情報に、興味を示す琥珀。
当然、琥珀もプレイヤーとしてツタンカーメンに挑戦はした。
ギルドメンバーを連れ、何回か。
結果は討伐は出来た。しかし、それは条件を満たしていないためか、それともやはり、ツタンカーメンが拠点ボスではないためか。
何のアナウンスもなく、変化もなく。また挑戦すれば、当たり前にツタンカーメンが同じ場所にいて。
そうして繰り返すうちに、ツタンカーメンは拠点ボスではないと判断し、ギルドで連合を組み、拠点ボス並びにエリアボスを探す役割の中で、ツタンカーメンを倒し続けるという役割を【ROOK WIZ】に押し付けた。
だが、
(私が戦った時は、そんな魔法使って無かったよね? ……何かトリガーでもあったのかな?)
そう、琥珀たちが挑んだ時に、床に魔法陣が描かれるという魔法は使用してこなかったはずだ。
なのに、【ROOK WIZ】の時に使用してきたのは一体……。
と、考えて。
「その魔法陣の中に、ツタンカーメンを入れるとどうなるかと思いましてね?」
「うん? 魔法を発動した本人には効かないんじゃないの?」
顔sが口にした疑問に、素で反応してしまう琥珀。
「ここからは私の仮説です。もし、何らかの要因で今回から転移魔法を使っていたとして。その何らかの要因が、ツタンカーメン本人のものではない場合。魔法陣の中に引き込めば、我々と同じくこの町に転移するでしょう」
戦った、そして、見ていたからこそわかる情報。
ツタンカーメンは、転移魔法を放つまで、魔法陣の外に居た。
それを、無理やりに魔法陣の中まで動かすことができれば……。
「そうすると、あのピラミッド内のボスは存在しなくなるわけです。拠点の制圧の定義がボス「を倒すこと」ではなく、ボス「が居ない状態を作ること」だった場合、誰か一人が魔法陣の外に居れば達成できます」
「なるほど……。けど、なんでそれを私らに? 敵を移動させるスキルなんて、そっちでも持ってる人いるでしょ?」
話を聞き、納得し。けれども、まだ腑に落ちないと琥珀は尋ねる。
それに対し、
「吹き飛ばす、というスキルは確かに使える人数は居ますが、引き寄せるというスキルはあいにくと持ち合わせていないんですよ。……そちらには、何人か居ますよね?」
移動させるベクトルの問題と、顔sは説明。
それを聞き、しばし顎に手を当てて考えていた琥珀は……。
「わかった。私含めて三人帯同する。後衛への配慮が出来るやつ、あと、あの僧侶ちゃんも連れてきてくれるんなら協力する」
それまで装備していたボルト式のスナイパーライフルを、火縄銃へと装備を変更。
「次の挑戦の時にまた声かけて」
とその場を後にするのだった。