新境地
「悲報、素材が足りない」
「まぁ、前回あれだけ使っていればね?」
「俺は普通に足りたけどな。ていうかエンチャで一回り強くなったし、なんだかいけそうな気がする」
「一回り強くなっても、結局全体が1レベ分上がっただけでござろ?」
ビルゴードの所へと足を運び、オーラにエンチャントを施そうとしたエルメルは。
敏捷を付与しようとして、素材不足を言い渡され。
それを尻目にエンチャントを施したマンチが確証のない自信に満ち溢れていると、ごまイワシからは冷静な一言。
「ていうかうちも素材足りないし、またピラミッドで狩ろうか」
「目標は蛇と、ホルスの遣いと……ごまは素材足りてるん?」
「足りてるわけないでござる。スカラベも目標に入れておいてほしいでござるよ」
「あいよ。んじゃあ籠る……前に」
「前に?」
各々がエンチャントに必要な素材を落とすモンスターを確認し、狩りに行こうとした……その前に。
エルメルがビルゴードに何かを確認していて。
「何してるでござる?」
「いや、ユニーク武器に何エンチャ出来るんかなーと思って、確認してみた」
「何かめぼしいのはあったでござる?」
どうやら、自分の武器に何がエンチャント出来るのかを確認していたらしい。
すると……、
「俺の武器には水属性が付与できるってさ。んで、これ、攻撃が水属性になるんじゃなくて、攻撃後に水属性の追撃が発生するって事らしくて」
と、たった今ビルゴードに説明されたことを三人に説明。
「つまり……」
「手数が増える。――てか、単純に火力に直結する」
「エンチャするの?」
もはや愚問な気もするが、水属性をエンチャするのかと問う†フィフィ†へ。
「やらいでか!」
「ですよねー」
力一杯、当然と返すエルメル。
「それで? 素材は?」
「ホルスの遣いのレア泥だとさ。遣いの杖? ってアイテムらしく、手持ち見たら八個しかなくてさ」
「要求は?」
「三十。だから、サクッと蛇しばいて、スカラベすり潰してホルスの遣いと死の舞踏を」
「とりあえず全部十セットを目標にしておくでござるよ?」
「異議なし」
「さんせー」
そうして四人は、籠り狩りの為に補給を行おうとして……。
「ていうかごまさんの武器にも何か面白いエンチャ無いか見たら?」
という†フィフィ†の提案で、ごまイワシがビルゴードと会話。
――すると、
「あー、拙者は風属性でござるね。エンチャ出来る属性」
エルメルと異なり、ごまイワシの武器には風属性が付与できるそうで。
「なるほど。素材は?」
「砂虎の泥品の砂時計。要求は三十」
「現在所持個数は?」
「ゼ・ロ」
素材は、これまで集中して狩っていない砂虎であり、そのレア素材を手に入れては当然いない。
「まずは砂虎でござるね」
「あいつら弱いし大丈夫だろ」
「んじゃあピラミッド入る前に砂虎か」
「あいつ相手ならスキル練習やりながらでも問題ないでござろう」
「それじゃあ、補給行ってから虎狩といきませう」
今度こそ、四人はアイテム屋に寄って補給を終え、町の外へと向かった。
*
違和感は、最初の一撃だった。
「ほいっと」
イエローデザートからフィールドへと移動したポータル。
その付近にいた砂虎へと雑に殴りかかったエルメルは、
「ちょっ!?」
自身の通常攻撃。
そして、土属性の追撃と、毒属性の追撃。
さらに、三回の追撃が発生して思わず三人の方を振り向いた。
「なにこれ!?」
「いや、知らないでござるよ。あのサソリと戦ってる時に追撃が一回発生してるって言って無かったでござる?」
「あれはまぁ、敏捷の影響だって思うからまだいいんだ。けど、今のって、通常攻撃に発生した属性追撃に追撃が乗ったんだぞ?」
「某カードゲームのチェーン処理的な?」
「いや、知らんけど。おかげで砂虎スキル不要で一撃だし、マジで敏捷はガチなのでは?」
「エンチャで伸ばすんならありじゃね? ステータスまで振る意味があるかは知らん」
どうやら、ゲームの仕様上、敏捷で発生した追撃以外のダメージ全てに敏捷による追撃が発生するらしく。
結果、ただの通常攻撃が、六ヒットする攻撃に変貌。
火力はないが瞬発力が備わり、砂虎相手ならば一撃で屠れるように。
……ヒット数は六回であるが。
「いや、マジで楽しくなってきた。これ効率変わるぞ」
声で察せるハイテンション。
それを表す行動を隠そうともせず、エルメルは一人で他の砂虎へと突撃していく。
「まぁ、拙者たちは自分のペースで狩るでござるよ」
「慌てない慌てない。俺も耳飾りに刻んであるスキル試しながらやりたいし」
「うちもペンダントにスキル刻まれてたー」
「なんだかんだみんな性能よさそうな装備でござるね」
そんなエルメルを見送りながら、それぞれが自分の得物を握りしめ……。
「じゃあ、狩るでござるか。[クロスポイント]!!」
「[パープルレイン]!」
「[メイクアップ]!!」
それぞれが、新たなスキルの触り心地を確かめるために。
手近な砂虎へと、スキルを振るうのだった。