あ、そこ滑ります
スキルを受け、仰け反るオアシスイーター。
けれども、エルメルの八連撃ではヒビは割れず。
わずかにその範囲を広げたのみ。
そこへ……。
「[景雲]!!」
螺旋を描く二本の矢によるスキル攻撃。
ビオチットのスキルが追撃し、
「[ホークストライク]!」
鷹の体当たりも追加され、ビシリ、と大きな音がヒビから聞こえてくる。
「やったか!?」
「フラグゥ!!」
誰かが叫んだ言葉に反応しながら。
地上へと降りたエルメルに駆け寄ってくる影が一つ。
「エルちゃん!」
「何だ!?」
「うちを飛ばして!!」
その影は、エルメルを踏み台にしようと足を伸ばし……。
「後悔すんなよ!」
「死んだら化けて出るだけだから!」
エルメルの剣の腹に着地。
そしてそのまま――、
「[薙ぎ払い]!!」
オアシスイーターのヒビ目掛けて打ち出され。
「[ハイキック]!! か~ら~の~、[エアキック]!」
空中でバク転しながらの蹴りを繰り出し、追加で打ち下ろす蹴りを見舞う†フィフィ†。
それが、どうやらトドメだったらしく。
バギィィッン! と、音を立てて甲殻が砕け、中の肉が露になるオアシスイーター。
さらに、
「[スリップダウン]」
オアシスイーターの唯一接地している脚。
そこで何やら行っていたヘルミの手によって、まるでローションでも流したかのような滑りを、砂漠であるはずの地面が発生させ。
――結果、
「倒れるぞ! 下敷きになるなよ!?」
マンチが叫ぶ通り、オアシスイーターはひっくり返り、先ほど砕けた甲殻から露になった肉を晒す腹部が上に。
そして、それは……新たな戦いの始まりとなった。
「どけ! 俺の特等席だぞ!!」
「お前ばっかに功績渡せるかよ!!」
「二人ともどいて! そいつ殺せない!」
「もう順番決めてローテして殴ればいいでござるよ」
露出した肉の場所に近接職が集まってくるのは当然のことで。
けれども甲殻が、全域ではなく一部しか砕けていない都合上、その場所を攻撃できる人数は限られており。
さらに言えば、他のプレイヤーも当然のように狙ってくるわけで。
「てめえらばっかずりぃーぞ!!」
「私たちにも攻撃させなさいよ!!」
場所の取り合いとなるオアシスイーターの腹部。
そして、
「魔法が来るぞ! 一旦退避!」
当然のように、魔法職もその場所を狙ってくるわけで。
蜘蛛の子を散らすように退避した近接職たちは、魔法の通り過ぎた後を我先にと駆け抜け肉の部分へ。
数人が魔法に巻き込まれ、あるいは遠距離攻撃に当たりながらも、攻撃し続けること五分。
――ついにその時が。
「キィィィィィィッ!!!」
甲高い、金属音のような断末魔をオアシスイーターが上げ、
『レイドボスを撃破しました』
ゲーム内アナウンスが流れる。
「しゃぁあっ!!」
全員が揃ってガッツポーズをする歓喜の瞬間。
そして、
『レイドボス討伐に参加したすべてのプレイヤーに、貢献度による経験値とアイテムを付与しました』
というアナウンスの後、あちこちで起こる集団レベルアップ。
当然、
「ま、俺らも活躍したし?」
「レベル上がるのも当然でござるよ」
レベルが上がるエルメルとごまイワシ。
「いや、俺らも上がるし?」
「負けてないけど?」
もちろん上昇するマンチと†フィフィ†。
さらに、
「お、拙者にもユニーク装備キタでござる」
配布されたアイテムを確認したごまイワシが声を上げる。
「なんて装備?」
「『砂穿つ短剣』。おー、毒属性付いてるでござるねぇ」
早速装備したらしいごまイワシは、手に持つ短剣を見せびらかして。
見るからに毒と主張する、紫色の刀身。
柄は濃紺であり、オアシスイーターの甲殻を思わせる。
そして、柄にはサソリの尻尾のような模様が刻まれていて。
確かに店売りの装備とは雰囲気が違う見た目をしていた。
「俺は耳飾り来たぞ。『毒牙のピアス』」
マンチが装備したその装飾品は、一瞬、勾玉と思えるような形状をしていた。
が、よく見ればそれは小さくなったサソリの尾の先端であり、色もオアシスイーターの甲殻と同じ濃紺。
その効果だが……、
「物理ダメージ、魔法ダメージの被ダメ一割カットってクッソ性能よくね?」
とのことらしく。
「破格だな。……けど、どっちかというと欲しいのは火力じゃね? スロットいくつよ?」
「あー、スロ1だな。けど、防御面厚くなるの嬉しい。一応お前らより耐久はあるし、そっち方面を装備で伸ばしてくかな……」
エルメルにツッコまれるが、マンチ的には……というか性能的には弱いはずがないわけで。
「うちペンダントだったよ?」
と、†フィフィ†が見せるのは、首から下がったペンダント。
ただし、その主はサソリのハサミであるが。
「なんつーか、見た目よ」
「蟹食ってる最中みてぇ」
「動いたときに肌に刺さりそうでござる」
と、男性陣からの評価は低いが……、
「攻撃力アップと毒属性による追撃があってスロット2個だけど?」
という†フィフィ†の言葉に、
「効果優秀やんけ」
「それだけでラスボスまで行けるでござる」
「俺のと交換しないか?」
あっさりと手のひらを反す三人。
そして、エルメルが配布された装備を確認するとそこには……。
「ん? 『砂漠の主の存在』? 装備枠オーラって何ぞや?」
全く聞きなれない場所に装備する、名前からしてレアそうな装備が存在したのだった。




