メンコバ〇ス
「[圧倒的大奇術]!!」
ヘルミが、どこから取り出したか分からないシルクハットを、これまたどこから取り出したか分からないステッキで叩くこと二回。
すると、突如として周囲に霧が発生し始めた。
「なんだ!?」
「こいつの攻撃か!?」
何の説明も受けていない前線で戦闘中の近接職が騒然とする中、ビオチットが。
「これからこのデカサソリをひっくり返す! 巻き込まれたくなかったら一旦下がれ!」
そう、霧の中で叫んだ。
「何すんの?」
「ヘルミの奥義ぶっぱするって。んで、それに合わせて全員が火力集めてメンコ」
「奥義なんてあるんだ? ほーん?」
真横で叫ぶビオチットに、これから起こることをマンチが尋ねれば。
ビオチットは、まだマンチ達がゲーム内で出会っていない単語を口にして。
それに反応したマンチから、フイとそっぽを向くビオチット。
その反応を見てそれ以上追及をしないマンチは、
「この辺は安全か?」
とだけ尋ね。
「危ないのってか火力を集めるのは右足部分だから、この辺は大丈夫だけど」
「だけど?」
「サソリに近づけば近づくほど危なくなるよ」
返ってきた答えを聞いて、紫陽花と†フィフィ†に目配せ。
どうするか? という意味の目配せに、二人とも頷いて。
「離れよ」
「突っ込む!」
見事に対極の答えが返ってくる。
「なんで!? 危ないって言われたじゃん!!」
離れることを提案した紫陽花が声を荒げると、オアシスイーターに突っ込もうと提案した†フィフィ†が、
「危ないから行くんじゃん!? 絶対楽しいやつだよ!?」
と反論。
「ちなみに俺は突っ込む派なので、多数決だと突っ込むことになるけど?」
さらにそれにマンチも便乗してきて、紫陽花は考える。
確かに自分も近寄りたいのは近寄りたい。
何故ならば単純に攻撃が届かないためで、ダメージを稼ぐのならば当然近付く一択。
ただ、それと集められた火力に巻き込まれ、床を舐めるリスクとを天秤にかけた時。
果たしてそれは釣り合うのかどうか……。
「詠唱必要な攻撃の人はいつでも撃てるように待機。要らない人は心の準備~」
背中に担いだごってごてに装飾された弓を構えながら、そう連絡するビオチットの姿は、考える時間が短いことを表していて。
「分かった。突っ込む」
もうどうにでもなれと、紫陽花もマンチや†フィフィ†と共に突っ込む事を決めた。
「とはいえ巻き込まれるリスクを少しでも減らしたいので、突撃するタイミングは集中した火力がサソリを倒しそうになった瞬間ということで」
出来れば漁夫を、と口にする†フィフィ†に二人が頷き、
「カウントを始めます! ゼロになったら攻撃を!」
弓を引き絞るビオチットからカウントダウンが開始され。
「五……。四……。三……。二……。一……」
ゼロをコールする一瞬、周囲の音が消えたような錯覚に陥る静寂の後……。
「――ゼロ!!」
放たれた矢が、銃弾が、魔法が。
霧が発生して以来ピクリとも動かないオアシスイーターの右足元へと向かって行って。
直撃、炸裂、轟音、爆発。
様々な攻撃が集中したその場所は、巻き上げられた砂と先ほどから発生している霧のせいで視界が悪いが、それでもオアシスイーターの巨体。その右足が、わずかに地面から離れたのが確認できた。
――すると、
「[奇術:切断]!」
霧の中から現れたヘルミが、オアシスイーターにではなくその足元の地面にステッキを振り。
綺麗に切り取られた地面の表面は、ふわふわとヘルミの目前を浮遊。
それを蹴り上げ、オアシスイーターの浮いた足に当てると……。
「[バウンドフロア]!」
地面に設置する罠ごと地面を切り取ったことで、予め設置されていたビオチットの罠が問題なく発動。
その効果は、プレイヤーならば簡単に空中に放り上げるほどの勢いで。
片足が浮いた状態のオアシスイーターも、それに後押しされる形で体は傾く。
そこへ、
「タイミングバッチし。[ハイキック]!!」
脚が浮いた瞬間に駆け出していた†フィフィ†の、蹴り上げが追加。
さらに、
「[アッパーブロウ]!!」
「[脳天唐竹斬り]!!」
「[グレイトスウィング]!!」
同じく攻撃と同時に脚に近づいた近接職達が、その体をひっくり返そうとスキルで後追い。
これにより、オアシスイーターの体がおよそ六十度ほど傾いたところで……勢いが止まる。
「ちょ!? 倒れてきたりしないよね!?」
「倒れる以外に何があるんだよ!!」
「ていうかお腹見えてるから狙えばいいじゃん」
「あの高さまでふつう無理だろ! 遠距離攻撃……あるじゃん! [オーラブレード]!!」
このままひっくり返せず倒れてくると、逃げようとしたマンチだったが。
そもそもこのオアシスイーターをひっくり返そうとした意図は、弱点と思われる腹を攻撃するためで。
その腹は絶賛晒されているわけで。
じゃあ攻撃しよう、と斬撃を飛ばした瞬間、その延長線上に見慣れた人影が。
「ちょっ!? アブねぇ!」
思わず警告を飛ばしたマンチだが、その見知ったシルエットは体を捻ると……。
「[薙ぎ払い]!!」
あろうことか、撃ち出された斬撃に横薙ぎを当て、押し出す形にして加速をかけ。
さらに途中で、追加で一撃が入って再加速。
プロ野球の投手が投げるほどの速度だった斬撃は、一瞬でハンドガンほどの速度へと加速され……。
その斬撃が直撃したところに、分かりやすくヒビが入った。
「マンチ! 今のもっぱつ!!」
「クールタイム中だバカ!」
「使えねぇ!!」
さらに追撃をしようとマンチに呼び掛けたその影は、当然のごとくエルメルで。
「いいから決めちまえ!!」
というマンチの言葉に、
「言われなくてもそのつもりだよ!! [刃速華断]!!」
剣を大きく振りかぶり、空中で踏み込み、たった今出来立てほやほやのオアシスイーターの腹部のヒビへと、スキルを振るうのだった。