細工は流々
「これからどーするかなー。琥珀が居ないと命中率著しく落ちるんだよね」
ボルトアクションによるリロードを行いながら、オアシスイーターの尾にスキルを命中させた後の黒曜は。
隣で鷹の操作に神経を注いでいる琥珀を見ながらそんなことを呟く。
狙撃に必要なあらゆる情報を集め、まとめ、伝えてくれる琥珀がいるからこそ、黒曜は前回の侵攻時にイエローデザートにおける功績一位を取得できた。
ただ、琥珀も一プレイヤーである。
自身の補助だけではなく、戦闘に参加したいという考えはもちろんあるし、それを黒曜もわかっている。
「ま、今は立場逆になって周囲警戒に努めますか」
先ほどまで扱っていた狙撃銃をしまい、一回り小柄な狙撃銃を取り出しながら言う黒曜。
射撃音に反応し、砂虎が黒曜たちのいる岩場へと集まってくるなかで、
「死の丘とは違うか。死の岩場? ま、何でもいっか」
特にスコープも覗かずに。
適当とも思えるように撃ちだした銃弾は、寸分狂わず近寄ってきている砂虎の眉間に命中し、その姿を砂へと変える。
「砂が砂相手に戦い、砂に変えている。砂のゲシュタルト崩壊かな?」
射撃後に入るリロード中、そんなことを口にしながら、
「砂虎さん。一緒に踊りましょ。[バレットダンス]!!」
スナイパーライフルとは思えない流れるような連射を行う黒曜は、たった一つのスキルで周囲に近寄ってきた砂虎計八体を砂へと変えるのだった。
*
「お待たせしました」
「待ちわびたよ」
大がかりの仕掛けを終え、ビオチットの元へと出向いたヘルミは、準備が完了したことをビオチットへと告げる。
ようやくか、と返事をしたビオチットは立ち上がり、控えていた後衛職へと話しかけた。
「んじゃ、ようやく我々の出番みたいなんで、行きますか。目標はデカサソリの右足。近接の方々には呼びかけでどいてもらいましょう」
「質問いいですか?」
「どうぞ」
「どかなかった場合は?」
「自己責任なので一緒に吹き飛ばして構いません」
「了解です」
何やら物騒な会話が続いたが、ビオチットはコホンと一つ咳払い。
「始動は私のスキルから。それに合わせてください」
「全員でまとめて魔法ぶち込めばいいんだろ?」
「ですです。狙いはサソリをひっくり返すこと。いいですね?」
「もちろん!」
流れと目的を確認し、ビオチットは笑顔を向ける。
「失敗しても死ぬわけではないし、ダメで元々。ゲームなので楽しくやりましょう」
柔らかな笑みは、彼についてきた後衛職の緊張をほぐす。
その後に一呼吸置いたビオチットは、
「では、行きましょう」
やはり変わらず笑顔のままに、オアシスイーターの方へと向かっていった。
*
「これ本当にダメージ入ってんの!?」
「知るか!」
一方こちらは右足付近。
火力特化の魔装士、紫陽花の護衛をしているマンチと†フィフィ†は、これまでごまイワシやエルメルに向いていたヘイトが集まっている前衛組にて苦戦中。
ヘイトがこちらに向いたことで、当然オアシスイーターは狙ってくるわけで。
右足にいる前衛組を狙ってくるということは、狙いやすいように体の向きを変えるということで。
攻撃を回避、防御、受け流し。わずかなスキに右足へダッシュして攻撃。
そして体の向きが変わる。という繰り返し。
しかも、前衛組のタンク職たちは、装備の重量により動きは遅いが防御が固いという集団のため、敵の攻撃のタイミングに間に合うのが数人という事態。
しかも、足を狙ってくるプレイヤーという曖昧なヘイトの向け方をしているため、個人を狙っているわけではない攻撃に、対処がめんどくさいというオマケつき。
「せめてガッツリヘイト買ってくれる人魚や幼女が居たら……」
そんな状況を嘆き、エルメルとごまイワシを切望する紫陽花だが、
「あいつらはあいつらで尻尾と戯れてるしなぁ。そのおかげで向こうの手数は減ったんだが」
当の二人はマンチの言う通りオアシスイーターの背にてトリガーハッピーならぬ斬撃ハッピー状態。
結果として尻尾による攻撃が降ってこなくなり、前線としては楽になったが、
「どうせならハサミも壊してくれたらいいのに」
「一歩ミスったら即ダメージだし、壊れるか分かんないし、他力本願することが間違いだわな」
どうせなら、とぼやく†フィフィ†に、自分でやれと返すマンチ。
ちなみに三人は、ダメージがある右脚を追うことを諦めて、とりあえず攻撃してダメージを蓄積しようと手当たり次第に攻撃中。
攻撃が右脚狙いの前衛に集中しているため、かなり安全にダメージを稼げてはいた。
それが有効であるかは定かではないが。
「いい位置にいるね」
そんな三人の場所に、ビオチットが入ってきて。
「お、久しぶりで。……何用だい?」
どうしたと尋ねるマンチへビオチットは、
「これから奇術が始まるので特等席で」
と、本人にしか分からない説明を笑顔でするのだった。