振りたいステはリアルラック
「そういやさ、さっき普通にスルーしたんだけどさ」
ブルーリゾートの中央へと向かう途中。
足を止めずに他の四人へと話し始めたエルメルは人差し指を立て、それを†フィフィ†へと向け――、
「コリン、お前職業なんてった?」
一言。
「モデル」
「その見た目で?」
「この見た目で。え、何? ショタエルフがモデルやっちゃいけないとでも?」
「別にそこまでは言ってないけど……」
「ていうか逆に聞くけど、パルティちゃんは初心者だからまだ分かるとして、エルちゃんやごまさんやマンチさんは普通の職業選び過ぎじゃない? 戦士と盗賊と魔法戦士って」
しかし、その一言に対する返答は何か不満でも? という態度であり、それどころか『普通過ぎる』という理由で逆に変に思われてしまう。
「いや、あれだけの職業あった中で戦士選ぶのはネタだろ」
「拙者、忍者を狙えそうな職業選ばないと個性が死ぬでござる。……忍者なんて職業が存在してるかは知らぬでござるが」
「どうせ均等振りなら職業も物理と魔法使える職業にしたかったんだよ。専門学生と最後まで悩んだけどな」
それに対する反応は三人三色。
なぜかごまイワシだけは切羽詰まった迫力があったが、それについては誰も触れることはなく。
そんな会話をしていると町の中央に辿り着き、辿り着くなり腕を組んだ筋骨隆々の男に声をかけられる。
「お、お前らか。噂の大型新人ってのは」
始まったばかりのゲームの最初の町。
少なくないどころかプレイヤーがごった返す場所において、喧噪にかき消されないほどの声。
そんな声を発しているにも関わらず、エルメル達以外にその男の方を向いたプレイヤーは居らず。
ついでに言えば、男にはプレイヤーにはない【ジョルト・マックス】という名前の表記と、【NPC】という表記が頭上に出ており。
「お、これがチュートリアルみてぇだな」
自分たちしか反応していない事を、対象が自分たちのみであるイベントと判断したエルメルは、
「噂になってるかどうかは知らねぇが、さっき学校を卒業したのは俺たちだぜ?」
そのNPCへと返答した。
*
「もぉマヂ無理」
「頑張れごま」
「ごまさんならいけるって」
「諦めたら、そこで試合終了ですよ?」
「えと……な、何とかなりますよ!」
あの後ジョルトからは、やはりチュートリアルを受諾でき。
その内容は最初の戦闘エリアで敵を倒してドロップ品を持って来いという定番も定番のもので。
戦闘が出来るぜひゃっほいとスキップ気味にポータルを潜ったのが十五分前。
戦闘を開始して五分でごまイワシを除く四人はクエストクリアに必要なドロップ品をあっさりと回収し、残るは……となってから――沼った。
まるで運から見放され笑われているかのように。
面白いくらいにごまのドロップ品が落ちないのだ。
「拙者、マジでリアルラック皆無でござるな」
「今に始まったことじゃねぇし、それに、戦闘に慣れるって考えりゃあ悪い事でもねぇし」
自分の運のなさを嘆くごまイワシに対しエルメルのフォローは果たして効果があったか。
……とはいえ、慣れるという重要性を考えれば、戦闘が長くなるのも別に悪い事というわけではなく。
ある程度再現されているとはいえ言ってしまえばゲームの中。
どうしても現実と違う部分が出てくるのは必然である。
それは、筋力然り、体力然り、膂力然り。
走った時の速度、跳んだ時の距離。それらを現実のズレから修正し、自分の意識の中に落とし込まなければならない。
特に、避けタンクという役割を地で行くごまイワシと、インファイトがスタイルのエルメルには必須であった。
「アプデ前と大差は無いでござるが、微妙にズレがあるでござるよなぁ」
「その辺加味して設定弄ったけど、今度はその設定に慣れなきゃいけない問題」
「ていうか回避の仕様変わってるでござるよね。見た目回避してても攻撃喰らった判定がちらほらあるでござる」
「攻撃に判定エリア的なのが出来てるよな。そのエリア外にいりゃあ確定回避っぽいけど、そのエリアにいたら当たってなくても確率で喰らうっぽい」
ホニラという毛玉に尻尾と星の模様のついた序盤特有の可愛めのモンスターを短剣で捌き、あるいは、大剣で真っ二つにしながら近接同士で意見交換するエルメルとごまイワシ。
「あの二人、操作上手ですね……」
「参考にしちゃだめよ? あの二人はキャラコンお化けなんだから」
「アプデ前はエンドコンテンツ初見気合避け全回避とかいう頭おかしいことしてたからな」
「……? 凄いんですね……」
そんな二人を巻き込まれないように遠巻きに見つめ、好き勝手に言うマンチ、†フィフィ†、パルティは、二人ほどとはいかずとも順調にホニラを討伐しており。
初心者のパルティを援護しながら自分の狙ったホニラもきっちりと倒していたマンチは、ふと。
「ていうかスキルを早くどうにかしてぇ。スキルの仕様も変えやがって……」
そんな事を呟くと。
「「それな!」」
「そうなんですか?」
いつメンからは賛同が、パルティからは質問が、それぞれ返ってくる。
「アプデ前はレベルでスキル覚えるか、職業の練度上げて覚えてたんだけどな」
「今みたいに装備にスキルが刻まれているってわけじゃなかったんですね」
「まぁな」
アップデートによって大きく変わった点。
その一つに、スキルの仕様がある。
これまでは言うなれば育てていれば勝手に覚えたのだ。
それがアップデートにより、装備に刻まれているスキルしか使えなくなった。
より正確に言えば、装備に刻まれたスキルを使い続ける事で習得できるようになった、である。
「まぁ、色んな装備使ってくれっていう運営の意図は分かるけどな。前みたく結論装備とかあまり好ましくなかったんだろうし」
「けどスキル習得って言う回り道しなきゃならんくなっただけで、結局結論装備は出てくると思うぞ?」
「それもスキル習得の有無で変わって来そうじゃないか? つーか必須スキル刻まれた装備の高騰の方が懸念材料だわ。ユニークに必須スキルあったらどうすんだよ」
ようやくドロップ品を手に入れたらしいごまイワシとエルメルが武器をしまいながら†フィフィ†達三人の元へと戻り。
戻ってきた二人の減った体力を、パルティが回復魔法で治癒。
「サンクス」
「ありがとん」
それぞれが礼を言うと、パルティの体が光に包まれて――、
「レベルアップおめっとー」
「僧侶系って回復で経験値入るのいいよね。火力振らなくてよさそう」
「実際問題ヒーラーの枯渇は前からあった訳で。治癒魔法取りながら狩りの為の攻撃スキル取って――ていうのがネックだったから今回の調整はマジで神」
杖による殴りでホニラを倒した分と、ごまイワシとエルメルを回復した分。
その経験値でレベルアップしたパルティは、自分にしか見えていないウィンドウを体ごと動かして確認し、諦めたようにそのウィンドウを閉じる。
「ていうか俺ら結構数倒した筈だけどレベル上がってねぇな」
「かなーり渋い経験値しか貰ってないね。まぁ、チュートリアルでバカバカレベル上がるのも考え物でござるが」
とりあえずチュートリアルクエストを完了したため、ジョルトへ報告へ向かうべく町に向かうポータルへ移動。
そして、全員でジョルトへとクエスト完了の報告をしていたその時。
――ごまイワシの姿が、突如として消えた。