一定数いるそうな
「くっそかてぇな」
ごまイワシやエルメルから離れた、オアシスイーターの右後ろ脚部分。
ハンマーや斧といった、重量級の装備の前衛職が集って攻撃しているその個所は、未だびくともしていない。
どころか、多人数で攻撃しているにもかかわらず、エルメルやごまイワシからヘイトが奪えていない時点で、彼らよりもダメージが出ていないことは明白で。
何かを変えなければ――いや、何かきっかけを掴まなければ、このままほとんどダメージを与えることができない。
そんな時。
「どいて! [罰雷]!!」
近接職の合間を縫って、一人のプレイヤーがオアシスイーターの足へと肉薄し。
足をぶん殴ると同時にスキルを発動。
すると、殴った個所に電気の走るエフェクトが発生し、瞬く間に右後ろ脚全体へと広がって。
初めて、攻撃を受けて脚が怯むという現象が起こった。
その光景にどよめきが起こるが、怯ませた本人は……、
「こいつ、雷属性が弱点らしいから雷属性のスキル持ってる人はそっち使って!」
どこから得た情報か、オアシスイーターの弱点属性を周囲に通達。
「ランダムだけどそれでもいいか!?」
それを聞いたマンチは、自分の意志でどの属性を付与するかを選択できないバフスキルの使用許可願いを提出。
「どの属性でもないよりはマシ!」
「了解! [ランダムエンチャント:多数]!!」
範囲を個人からパーティ単位へと変化させたランダムエンチャントにより、周囲の近接職の皆さんに属性追撃を付与したマンチは。
「とりあえずだけどこれでいいか?」
弱点を叫んだプレイヤーへ、念のための確認。
「あるならもっと前に使ってて欲しかった」
「いや、属性吸収とかあったら嫌じゃんか? 俺は戦犯になりたくはねぇぞ?」
「属性吸収とか無いし。ていうか、あいつの情報手に入れてないの!?」
「その口ぶりだとどっかにあいつの情報あったの?」
弱点属性を知っていたのは、どうやらどこかしらから情報を手に入れていたかららしいそのプレイヤーは、むしろ情報を手に入れていないことに驚いて。
ならばどこで手に入れたのかと尋ねる†フィフィ†に、
「イエローデザートの図書館。周囲にいるモンスターの情報とか載ってて、その中にあったけど?」
あっけらかんと。
情報元を晒した。
「図書館なんてあったんだ、あの町」
「初耳だな」
「まぁ、私もあるって気が付いたのは最近だけど。あんまりにもエリアボスも拠点ボスも見つからないから探してたのよね」
「なるへそ」
それまで立ち止まっていたマンチたちは、情報を持つプレイヤーが動いたのを合図に同じように動き始める。
「なに?」
それを不思議に思われたが、
「見たところ近魔だろ? 護衛ならやれるぞ?」
「うちら火力無くてねー。もっぱらサポート専門なの」
と説明。
近魔とは、近接で戦う魔法職のことである。
魔法攻撃の射程という強みを全て火力へと転じさせているそのスタイルは、近接物理職よりも明らかに火力は出る。
ただ、魔法職であるために詠唱が必要な点。物理職と違い、防具による防御補正が弱い点が明確な弱点となっており、瞬間火力は他の追随を許さないが、長期的に見れば床を舐めるリスクが高く。
結果として、魅力的な戦い方で好むプレイヤーも多いが、性能がピーキー過ぎて使い手を選ぶ、という戦い方である。
したがって、詠唱中や攻撃を集中されたときなどは、護衛が居ればと思うことが多い。
「あー。助かるは助かる。けど、貢献値稼がなくていいの?」
だからこそ、二人の申し出をありがたく受け取る……が。
レイドボスの討伐報酬に影響する、いかに討伐に貢献したかという数値。
護衛はこれを稼ぐことが難しいため、本当にそれでいいのかと尋ねられ。
「人間、長生きの秘訣は高望みしないこと。まだ活躍できるようなステータスじゃねぇし、やれることやろうって思ってさ」
「それに、うちらが活躍しなくても連れがどーせ貢献値稼ぎまくってるだろうし」
マンチと†フィフィ†がそれぞれ回答。
「そ。だったらお願いしようかな。私は【紫陽花】。よろしく」
「マンチってんだ。よろしく」
「†フィフィ†だよーん。よ~ろりん」
「マンチさん? ……てことは――」
三人が自己紹介を済ませ。
紫陽花がマンチという名前に引っ掛かりを覚えた時。
三人のすぐ横に、何かが降ってきた。
思わず身構える三人。
――しかし、
「くっそ。しくった……」
「エルちゃん大丈夫?」
降ってきたのはエルメルであり、どうもオアシスイーターの攻撃を喰らって吹き飛ばされたらしい。
「ぜんっぜん大丈夫じゃない。ハサミ攻撃正面から受けちまって、防いだはいいけど虫の息だわ」
「虫の息ならまだ息してるじゃん。へーきへーき」
「死にかけなんですけどねぇ!?」
と言いながらHPポーションをがぶ飲みするエルメルへ、
「嘘……。マジでエルメルさん?」
何故か目を見開いて驚愕する紫陽花。
「ん? エルメルだけど……何?」
名前を呼ばれ、振り向いたエルメルへ。
「プロと戦ってる配信からファンです!」
突然の熱い思いをぶつけるのだった。