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全員廃人

 頭上から降り注ぐ尻尾の連撃を体を逸らしながら剣で受け流し。

 左右から来るハサミには[後の先]でカウンターを取るか、[刃速華断]で無理やりに押し返す。

 全ての攻撃がこれまでの倍の回数でヒットするため、ある程度はそれで捌けるようになったが……。


(とはいえ今でクールタイムギリギリだし限界近ぇぞ?)


 先ほどまでごまイワシとヘイトを分け合い、お互いがクールタイム中はお互いがカバーに入っていた。

 そのカバーがなくなったことで、エルメルは追い詰められつつあった。

 もっとも、本来レイドボスは大人数での戦闘を前提に設定された難易度を持つものであり、それを相手に一人で攻撃を捌く、あるいは倒せるほどのダメージを与えるというのは無理に近いのだが。

 それを少しの時間とはいえこなせている時点で、エルメルはまともではない。


(やっば!?)


 右から来るハサミ。

 それに[後の先]を当て、追い返した直後。

 スキルによる行動の、その硬直に合わせるように、尻尾がエルメルへと振り下ろされる。

 思わずやられることを意識してしまい、思考すらも飛び。

 目を閉じそうになったところで――、


「[チンカチンク]!」


 視界が急に変わる。


「は?」


 思わず口から出たその言葉は、ただただ何が起こったか理解出来ないことの表れで。


「[流転]!!」


 理解が追い付かないエルメルが見たのは、先ほどまで自分がいたはずの、まさにオアシスイーターから襲われる直前の場所でスキルを発動するごまイワシの姿。


「間に合って何よりです」


 そして、後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには前回まるで歯が立たなかったスーツ姿の女性、ヘルミ。


「何したん?」

「瞬間移動のマジックはご存じで?」

「あー……。俺とごまを入れ替えたのか。……手品師何でもありだな」

「今は奇術師ですけどね。やれるなら加勢を。回復役を一人引っ張ってきていますので、回復が必要ならばそちらの方に」


 ヘルミが指をさした先には、幼女であるエルメルの身長の半分ほどしかない杖を持った男性が居た。

 真っ白で長い(ひげ)。地面につきそうな長さのその髭を揺蕩(たゆた)わせながら、そのハーフリングは笑う。


「回復は任せられよ。イケメン女性と幼女の役に立てるのならばそれは本望よ」


 杖を振り回し、削られたエルメルの体力を回復しながらそう話すハーフリングはなお楽しそうに笑う。


「ありがとうございます! 私、エルメルって言います!」


 頭上に名前の表示されていないキャラはプレイヤーの証。

 なので、相手に名乗らせるためにも先に名乗ったエルメル。

 マンチやごまイワシが聞いたら寒気や鳥肌を覚えるしゃべり方と声色であったが。


「ほっほっほ。ええ子じゃ。(わし)は【ウーア・マッハ】じゃ。ウーアとでもマッハとでも好きに呼ぶとよい」


 それを受け取り、ハーフリングも名乗り返し。

 

「じゃあウーアさんで。回復、ありがとうございました!」


 お礼もそこそこに、ごまイワシたちと合流しようとするエルメルへ、


「まぁ、ほんの少し待たれよ」


 そう促したウーアは……。


「[レーヴェ]!」


 スキルを一つ、エルメルに付与する。


「これは?」

「攻撃力アップじゃよ。お嬢ちゃん、遠巻きに見ておったが、手数はあれど火力に乏しそうだったのでな」


 その効果は、エルメルが一番欲しているといっても過言ではない攻撃力アップであり。

 ウーアの言う通り、今のところ理由は判明していないが、なぜかスキルが二重でヒットするようになったため、手数はガッツリと補えている。

 だからこそ、火力を欲していた。


「さんきゅ! じゃあ、行ってくる!」

「気を付けるんじゃよ~。……まぁ、儂もヘルミを回復するために近寄るんじゃがの」


 笑顔で手を振りごまイワシの方に向かったエルメルを、少し経ってから追いかけるウーアは、実はヘルミやビオチット、ごまイワシと同じチームに所属するプロゲーマーだったりする。

 ただ、ヘルミやビオチットのようにガッツリと『Ceratore Online』をプレイしているわけではなく、半ば息抜きとしてプレイしているいわばエンジョイ勢である。

 もちろん、そんなことをエルメルは知る由もないが。


「ごま、ただいま!」

「お早いお帰りでござるね! [流転]!!」


 エルメルがごまイワシと合流するなり、そのエルメルの後ろにスキルを使って回り込んだごまイワシは……、


「ちょっとポーション飲ませて欲しいでござるよ! スキル乱発しすぎて魔力カッツカツでござる!」

「任された! あれ? ヘルミは?」

「大がかりな仕掛けするってどっかに消えたでござる。無視して大丈夫なはずでござるよ」

「りょ。というわけでさっきぶりだなサソリ野郎。さっきまでの俺と思うなよ?」


 オアシスイーターがごまイワシを追っていると、視界からごまイワシが消え、現れたのは先ほどまで戦っていたエルメルの姿。

 現状、オアシスイーターのヘイトはこの二人にほぼほぼ均等に向いており。

 結果として、視界に入った方を攻撃する状態になっている。

 したがって、先ほどまで狙っていたごまイワシが消えたからと慌てず、止まらず、躊躇わず。

 尾による突き刺し攻撃を、エルメル目掛けて振り下ろす――が、


「何回それ繰り返すんだ!? いい加減学びやがれ!! [後の先]!!」


 何度目か分からないカウンターで弾き飛ばすと……。

 ビギリ!

 と、ひび割れるような音が周囲に響き……。


「確認。部位破壊出来そうです先生!」

「叩いて砕いてえっさっさー作戦、始動でござる!」


 サソリ特有の、尻尾の先端のとがった部分。

 そこに入った亀裂を確認したエルメルとごまイワシは、あからさまにテンションを上げるのだった。

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