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爽快感+1

 レイドボス、【オアシスイーター】から離れた岩の上。

 そこには二つの人影があった。

 一人は座り込んで目頭を押さえており、もう一人は岩の上で腹ばいになって獲物を構えていた。


「空の目と接続完了。状況把握に入ります」

「任せた」


 座り込んでいた方がそう口にして、腹ばいの方は座り込んでいた方へと全任。

 すると、彼らの上空に一匹の鷹が出現し、オアシスイーターの方へと向かっていく。


「現状戦闘中。ただ、敵側に目立ったダメージは見受けられません」

「最初の照準は?」

「四肢の末端。あるいは付け根。尻尾の先でも可ですが……」

「あの動いている尻尾に当たるか?」


 獲物についたスコープを覗きながら、座り込んでいる方へと返す腹ばいの方。


「そこは琥珀様の腕次第かと」

「いくら私でも不規則に動きまくる的には当てられないが?」


 琥珀と呼ばれた腹ばいの方は、スコープから目を離してジト目で座り込んでいる方を見て。

 けれどもそれを無視したか、あるいは気が付いていない座り込んだ方は、琥珀へと尋ねる。


「私はこのまま鷹で戦闘に参加しますか?」

「いや、いい。一番おいしいところを一撃で持っていきたい。観察と待機に徹せ」

「御意。何かあれば何なりと」

「頼りにしているぞ、黒曜」


 来るべき一撃に備え、再びスコープを覗く琥珀の視界には、オアシスイーターの正面で動き回る人魚と幼女の姿が映っていた。



「体がでかい分動作が分かりやすいな」

「その分範囲が広くて一苦労でござるけどね」


 オアシスイーターの真正面。それこそ目と鼻の先でまるで談笑しているようなノリでひとまずの感想を言い合うエルメルとごまイワシ。

 噛みつき、ハサミでの攻撃、尻尾での突き刺し。

 おおよその攻撃パターンがその三つ。

 正直なところ、そんな分かりやすい攻撃は、二人にとって避けることなど造作もないことで。

 けれども二人の仕事はそれだけではないわけで。


「何とかしてひっくり返すとっかかり作んなきゃな」

「ビオチットのスキルに、地面を踏んだ相手を弾ませるってスキルがあるから、それで浮けば楽なんでござるが」

「この巨体が浮くとは思えんし、浮いても数センチとかじゃねそれ」

「その数センチの隙間に入り込んで、さらに浮かせる攻撃をするでござる? †フィフィ†ネキの[ハイキック]みたいなスキルとかで」

「浮かせられなくて、押しつぶされて全滅しそう」

「さもありなん」


 空中へ、大きな動きでハサミを避けた瞬間、尾による突きがごまイワシを襲うが……。


「狙う方を間違えてるでござるよ。[滑転]」


 空中でモンキーバナナに持ち替え、スキルを発動。

 使い道が無いと思われたただその場で転ぶだけのスキルは、空中で発動すると、なんと地上に瞬間移動してから転ぶ仕様らしく。

 オアシスイーターの尾による攻撃を躱して地面に瞬間移動したごまイワシは、


「[流転]! さぁさぁ! 角出せ槍出せ目玉出せでござるよ!!」


 転倒をスキルでキャンセルし、無防備になっているオアシスイーターの目へと攻撃。


「[乱雨斬(みだれぎり)]!!」


 五連撃を見舞うごまイワシに続くように、


「[刃速華断]!!」


 エルメルも、四連撃を一気に放つ。

 すると――、


「んおっ!? 何だ!?」


 今までになかった異様な手応えに戸惑うエルメル。

 その異様な手応えの正体は……。


「なんか音重なってねぇか!?」


 攻撃のヒット音が、四連撃のはずなのに()()聞こえ。

 その全てで、ダメージが発生しているらしく。


「明らかにエルたそ狙っているでござるよ?」


 先ほどまで狙っていたごまイワシではなく。

 厄介なのはこちら、とでも言いたげに、エルメルへと噛みついてくるオアシスイーター。


「ちょっ!? [後の先]!!」


 咄嗟にカウンターを発動し、噛みつきを剣で受け止めて斬り返す。


「こっちも2ヒットしてんな!」


 そうして行ったカウンターも、やはり先ほどのスキル同様二回ヒット音が聞こえ。


「何が起きてるでござる!?」

「わからん!!」


 事態は呑み込めない。けれども、それでエルメル達が不利になるわけでもないため、ひとまずその原因追及は後回し。


「けど、今までの二倍ダメージ出るならありがてぇ!」

「三倍になったら全身赤く染め上げるでござるよ」


 また尻尾により突きを、今度は横に飛んで躱し、次の狙いを目ではなく足へ。


「部位破壊は可能だと思うか!?」

「やってやれないことはないでござるよ!」


 エルメルとごまイワシ、二人がそれぞれ、左右の足を狙ったことで、オアシスイーターのヘイトが今、誰に向いているのかが明確となり。

 オアシスイーターが追ったのは、エルメルの方。


「前衛組! 足を狙ってぶっ壊せないか試してほしいでござる!」


 自分が狙われていない。つまり、自分の周囲は現状安全であると考えたごまイワシは、自分たち以外の前線へと声をかける。

 剣、斧、槌、鉄球。

 レパートリー豊富な破壊武器の皆様方が集まって、ごまイワシの意図を組んで一つの足へと攻撃を集中させ。


「お前は攻撃しねぇのか!?」

「向こうでヘイト買ってるプレイヤーと交代してくるでござるよ! 火力ないからうざさだけが取り柄で候!!」


 足を攻撃するプレイヤーの一人から、暗に働けと言われるが。

 その働きは自分の専門外と、エルメルの負担を減らすために動くごまイワシ。


「お供しますよ」


 そんなごまイワシといつの間にか並走していたのは……、


「お、ヘルミちゃんでござるか」

「ちゃんはちょっと……」


 何やらトランプとシルクハットを自分の周囲に漂わせた、ヘルミだった。

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