乱数は悪い文明
「運命には抗えない」
計四回。リフレッシュも含めて上空へとペンダントを打ち上げる作業を行ったエルメルはがっくりと肩を落として振り返り。
その行動ですべてを察した三人が、それぞれ慰めの言葉を口にする。
「まぁ、流石にその回数で最大値三回は難しいって」
「出来た方がむしろ怖いまである」
「残念だったでござるなぁw エルたそw」
特にごまイワシは嬉しがり、エルメルの肩にポンと手を置くほど。
――だが、
「だから、運命捻じ曲げることにしたわ」
「へ?」
顔を上げ、満面の笑みでごまイワシを見たエルメルは。
「ごまとは違うのだよごまとは!! 三スロット全部最大値の『-3』だおらぁっ!」
どや顔でごまイワシへと中指をおっ立てる。
「は? マジで?」
「ここで嘘つく意味あるぅ~?」
「ごまさん煽れる」
「あったわ。悪い」
「でも本当に成し遂げたんだ?」
「もちのろん」
奇跡か、いたずらか。本当に試行回数四回で最大値を三回引くことに成功したエルメル。
「もしかして、最大値付近を引ける確率高いでござる?」
「わかんね。低レベル装備だからって補正はありそうではあるけど」
そのエルメルの成功の報を受け、もしかしたら自分も最大値付近を引けるのでは? と期待したごまイワシは。
「拙者もとりあえずやってみるでござるか。……最大HP上げる素材は『スカラベの太い脚』っと」
素材とペンダントを渡し、ワクワクしながら落ちるのを待ち。
拾い上げ、渡された装備を確認すると……、
「ほら! 『+863』!! 上限値に割と近いでござる! これなら拙者もすぐ終わらせられそうでござる!!」
ごまイワシにしては珍しい、乱数で高い数字を引き当てて。
その嬉しさからか、テンションが上がり、連続でエンチャントを行う。
――が、
「『+142』。……あれ?」
今度は見事に最低値に近い数字を引き当てる。
「なんだ、一瞬の運だったか」
「ごまさんがここから沼る未来が見える」
「い つ も の」
その結果を受け、三人から煽られて。
悔しいからと、最後のエンチャントをリフレッシュしてもう一度エンチャントをすると……、
「……『+112』」
「実家のような安心感」
「親の顔より見たノーラック」
「もっと親の豪運見て」
さらに数値は悪化。
これには三人も視聴者も爆笑である。
「り、リフレッシュしてもう一回……」
さすがにこのままでは終われないともう一度リフレッシュしてエンチャントをしようとすると、
「あ、素材がないでござる」
素材が枯渇してしまい続行できず。
「は~い、次うちの番!」
仕方なく†フィフィ†に出番を譲ると、
「あ、『+993』ツモ」
一発でほぼ最大値を引き当てて。
「何故でござるぅっ!!?」
ごまイワシは膝から崩れ落ちるも、すぐに立ち直り。
「いや、拙者だって一度は八百後半を引いている身。この程度で取り乱したりは――」
「あ、『+790』」
「何故だぁっ!!?」
即座に引かれる高数値に再び膝が折れる。
「あまりにもごまが可哀そうで飯がうまい」
「他人の不幸が蜜の味過ぎて」
「なんかごめん、ごまさん」
「謝られる方がダメージでかいでござる。むしろ笑ってほしいでござるよ」
それを見て爆笑するエルメルとマンチと、ダメージを与えた本人として謝罪する†フィフィ†だが。
ごまイワシはむしろ笑えと言ってきて。
「まぁ、うちはこれでとりあえず妥協なんだけど、ごまさんは?」
そんなごまイワシに、答えの決まっている質問を投げかける。
「いや、絶対にこれで納得はしないでござるよ」
「てことは?」
「もちろん?」
「素材狩の時間でござるぅ!!」
決まっているだろう? と、勢いよくピラミッドに向けて走り出したごまイワシを三人は追いかけて。
目指すはスカラベ地帯。敵の数が多く、見た目にさえ目を瞑れば効率的には美味しい狩場に。
経験値目的ではなく、素材目的で籠るのだった。
*
「なぁ、ヘルミ?」
「何ですか?」
「最初にこのマップに来た時、オアシスなんてあったか?」
「なかったですよ」
「だよな?」
「ええ」
あまりにも見つからないエリアボス。
そのエリアボスを探してフィールドをさまよっていたビオチットとヘルミは、これまでは出現していなかった緑地。
湖を中心としたその場所は、明らかに怪しさ満点であり。
ビオチットもヘルミも、ゆっくりと警戒して進んでいくと……。
「っ!?」
「なんだ!?」
突如として、地面が揺れた。
急いでオアシスから遠ざかれば、そのオアシスはぐんぐんと盛り上がっていく。
そして……、
『レイドボス:オアシスイーターが出現しました。付近のプレイヤー間のパーティを解除しました。付近のプレイヤー全員がレイドパーティに参加しました』
というシステムアナウンスが流れ、二人で組んでいたパーティが解除され、周囲のプレイヤーでパーティが結成される。
「おい!? 何だよあれ!」
まるで事態を把握できていないプレイヤーが、目の前にそびえるモンスターを指差して、叫ぶ。
そこには、大きなハサミ型の触肢を持つ節足動物――サソリが存在し。
その背には、辛うじて先ほどまであった緑地の木が覗き見える。
「砂に埋まって獲物が来るまで待ってましたってか?」
「背中のオアシスは獲物をおびき寄せる餌ということでしょうね」
弓矢を構え、戦闘態勢に入るビオチットと。
その前で、ステッキを振り回して準備するヘルミ。
周囲のプレイヤーも続々と武器を構え、準備を整える中、
「[トリックアート]!!」
一番最初に動いたのは……ヘルミだった。