1Fが見えるわけないじゃないですか
「んお? 詠唱中だと簡単に仰け反る系男子?」
マンチの[オーラブレード]の一撃を受け、最初は仰け反らなかったホルスの遣いが。
詠唱中である、という状態の時に受けると、仰け反って詠唱がキャンセルされて。
「見た目的に女子の方が好み系男子」
「完全同意。ていうかこれならハメられるのでは?」
好みをさらけ出しながら、詠唱中は些細な攻撃でも仰け反るのでは説から、完封できるかもと考えるエルメル。
けれども近寄ると先ほどの翼ビンタが待っているわけで。
だとすると、
「詠唱し始めるまで待って、即攻撃アンド距離を取る戦法でいける?」
「拙者それやってたでござるけど途中から近接メインに切り替わるでござるよぉ!!」
「切り替わる前に倒せばいい。つーかそうなったらマンチに遠距離チクチクしてもろて」
ようやく戦い方が分かったか? と思われたが、すでにごまイワシが試していたらしく。
しかも敵のAIは、愚直に魔法に頼り続けるということもないようで、戦い方を変えるとのこと。
……敵が戦い方を変えるのならば、こちらも戦い方を変えればいい。
ただし、遠距離攻撃が出来るのは現状マンチだけであるが。
「と言うわけで、ごまがまた床を舐めないようになるべく早く敵を倒そうキャンペーン!」
「いえーい!!」
ホルスの遣いが詠唱を始めるまで待ち、[幅断ち]にて距離を詰めながら一撃を放つ――と。
「出来た! 僕にもノックバック出来たよお兄ちゃん!」
「その声でお兄ちゃんとか呼ぶな! ときめくだろ!!」
特にノックバックの効果が無いエルメルの一撃ですら、ホルスの遣いは仰け反り詠唱を中断。
テンションが上がったエルメルが、マンチをからかう言葉を口にして。
その言葉は、画面の向こうで配信を見ていた視聴者に突き刺さった。
『男が中身って知っていてもキュンときた』
『俺今日からお兄ちゃんになるわ』
『後生だからお姉ちゃんっても言ってくれない?』
と。
今の所ごまイワシにしか見えない配信のコメントは、突き刺さった男性視聴者と、お姉ちゃんと呼んで欲しい女性視聴者の阿鼻叫喚なコメントで溢れかえる。
「エルたそ~。お兄ちゃんって言ったんだからお姉ちゃんても言って欲しいらしいでござるよ~」
「え、言われて言うの恥ずいんだけど?」
「そこを何とか」
『そこを何とか』
コメントの要望に答えさせようとリクエストしたごまイワシに対し、恥じらいを見せたエルメル。
最も、恥じらいを見せながらしっかりとホルスの遣いの詠唱は潰しているが。
そんなエルメルに対して、ごまイワシと視聴者のコメントが一致して。
「まぁ、今すぐはさっきも言ったけど恥ずかしいから言わないけど、折を見て言うか」
「助かるでござるよ」
『ずっと待ってる』
今すぐに、ではなくいずれ言う。
この約束で、一定数の視聴者を動画に縛り付けることに成功した。
だからこそ、ごまイワシの発言は助かるだったわけで。
ただ……そんな事をしなくてもその視聴者たちは配信を離れないだろうということだけは付け加えておく。
「お、一体目撃破!」
「割と耐久低めだったな! 次!」
「対策さえ分かればよゆーよゆー」
エルメル、マンチ、†フィフィ†の三人がかりで詠唱を潰し。
ノックバック中にも追撃をかけていると、割とあっさり一体を撃破。
その流れで次へと移ろうとしたときである。
「ん? なんか変な音した?」
キラン、と。
聞いたことのない効果音を出して、一つのアイテムをドロップするホルスの遣い。
それは――、
『ユニーク装備じゃん!?』
コメントにて何なのかが明かされた。
……ユニーク装備。特定のモンスターが極低確率でドロップする装備であり、希少性が高く。
加えて性能も高い事が多い事から、プレイヤー間の取引では高値で取引される場合が多い。
「俺拾っとくわ」
ドロップ品から一番近くにいたマンチがそれを拾い、
「【王家を守護する従僕の剣】だってさ。エル用装備だな」
装備の名前を読み上げて。
さらには、装備できる職一覧に、自分の魔法剣士は無く、エルメルの戦士を発見し、その事を報告。
「っしゃい! ユニーク装備、ゲットだぜ!」
「まず目の前の敵!」
「任せろ! 目の前に餌を吊るされた俺は一味違うぜぇ!!」
明らかにテンションが上がったエルメルが残りのホルスの遣いへとダッシュして。
スキルでも何でもない攻撃を振りかぶる。
詠唱中でないホルスの遣いは、それを迎撃すべく翼ビンタを見舞おうとするが……。
「不意打ちでもなけりゃあ余裕で対応出来るわ!! ビンタ見てからカウンター余裕でした!」
そのビンタに反応し、[薙ぎ払い]をカウンターのように合わせるエルメル。
結果、大きく跳ね飛ばされたホルスの遣いは、勢いよく壁に激突し。
「総員、攻撃せよ!」
「「了解!!」」
今が好機と、床に落ちたホルスの遣いが立ち上がる前に三人でタコ殴り。
二体目は、とてもスムーズと言っていい速度で倒したのだった。