有能の証明
「ちょいと通るでござるよ!」
そんな二体のホルスの遣いに一撃を与え、ターゲットを自分に向けさせるごまイワシ。
さらに、四人と離れて。
四人が引き付けたホルスの遣いを倒すまでの時間稼ぎを行うつもりらしい。
「パルティ、ごまの方を重点的に回復してやってくれ」
「わ、分かりました!」
「と言うわけで亡くなったごまイワシに追悼の意を示し、このホルスの遣いだけは確実に倒すぞ!」
「拙者まだ生きてるでござるぅ!!」
「エルちゃん助けて! 死んだごまさんの幻聴が聞こえる!」
「死者からの誘いに耳を貸すな! 持っていかれるぞ!!」
「言ってる間に魔法来るぞ!!」
詠唱を行っている証のオーラのようなもの。
緑色のそれを発生させているホルスの遣いを見て叫んだマンチだが、まだそのホルスの遣いにはマンチ以外攻撃を仕掛けておらず。
自動的に標的はマンチとなるわけで。
「マンチ、お前の死は無駄にしない」
「惜しい人を亡くした」
先ほどの記憶のせいで、耐えられないと判断したエルメルと†フィフィ†。
二人ともが、マンチに向けて煽りに近い言葉を投げる。
――が、
「うん? 半分も減ってないが?」
先ほどと違い、魔法防御にバフが入ったマンチは、魔法をあっさりと耐え。
切り返しに[オーラブレード]で遠距離攻撃を行う……が。
「あ、やべ」
「マンチさぁ……」
「ま~た増えたんですけど」
貫通するという性質上、ターゲットにした敵の延長線上に敵がいれば巻き込むわけで。
そのせいで先ほど二体多く釣ってしまったわけで。
今回の攻撃で、さらに追加で一体引き寄せることとなった。
「ごま~、もう一体お客様来店だぞ~」
「入店拒否でござる。ていうか二体でも結構危ないでござる!」
「チッ。しゃーないから倒すか」
「ノックバックすると詠唱やり直しっぽいから、ギリギリで中断させてで時間なら稼げるっぽい」
再度魔法を詠唱していたホルスの遣いへ、†フィフィ†が[ハイキック]を放ち。
纏っていたオーラが消え、再度オーラを纏う姿にそう分析した†フィフィ†が情報を共有。
「ノックバック出来るスキルを持ってない場合はどうすればいいですか?」
「レベルを上げて物理で殴れ」
「そこに回帰してくるのか……」
現状、強制的にノックバックを発生させるスキルは†フィフィ†の持つ[ハイキック]しかなく。
その[ハイキック]も、敵が詠唱を終える時間よりも長い時間のクールタイムが設けられている。
ということは、一回は止めることは可能でも、連続して詠唱を中断させることは出来ないということで。
結果、
「とりあえず死ぬまでなぐりゃあいいんだろ?」
「間違いじゃない」
詠唱が中断されて攻撃間隔があいた分、回避に専念する時間を攻撃に当てて素早く倒そうキャンペーンが発動。
「[幅断ち]!!」
再び詠唱を始めたホルスの遣いへ、ダッシュからの斜め振り下ろしの一撃を放ったエルメルは――、
「へぶっ!?」
詠唱を中断したホルスの遣いの、翼によるビンタで吹き飛ばされる。
「いってぇ……。近接攻撃も出来んのかよ……」
魔法による攻撃しかないと油断しており、何の防御も出来ないままに直撃した攻撃は、エルメルの体力をミリ単位まで削る。
しかし、即死でなければ、
「大丈夫ですか!?」
パルティの回復が飛んできてくれる。
「あったけぇ。その回復あったけぇよぉ」
「その分拙者が厳しくなるんでござるけどね!!」
スキルを巧妙に回しながら。
なるだけ少ない被弾で、少しずつではあるが片方のホルスの遣いの体力を減らし続けているごまイワシ。
もちろん、被弾ゼロとはいかないが、回復が間に合う程度の被弾頻度であり、安定はしていた。
しかし、一回分回復が来ないとなると即座に体力が厳しくなる。
そんな中、
「来たれ祝福。歓喜の渦を、我中心に発せたまえ。響け、福音よ」
四人が聞いたことのない詠唱を唱えるパルティは、
「[ヒールステージ]!!」
自信を中心に広がる魔法陣を展開。
その範囲は広く、半径にしておよそ十メートル前後であろうか。
そこへ入っていた四人が、
「あ、体力が回復していくでござる」
「持続回復の魔法陣? 強くない?」
「範囲回復って言うのが偉いな。治癒職優遇されてるんじゃないのやっぱ」
「あったけぇよぉ……」
見る見るうちに体力を回復していく。
「MP消費が大きいのと、再使用までに時間がかかるのであまり連発は出来ませんが……」
「いや、十分すぎるって。助かるわ」
「ありがとうでござるよ!」
あまりMP効率が良くなく、加えてクールタイムも長いスキルではあるが、その場しのぎと言うには十分すぎる成果をあげてくれ。
おかげでエルメル達も、ごまイワシも、体勢を整えることが出来た。
「あとは殴るだけだな!」
「また貫通させてターゲット増やすなよ!?」
「こうすりゃいいんだろ?」
そうして体勢を立て直すと、張り切るマンチだったが。
先ほどまでの二連続のターゲット増加の戦犯行為について咎められ。
出した答えは、
「壁に向かって放ちゃあ巻き込まねぇべ」
壁に向かって撃てるように対象との位置取りを変える、である。
「いや、ドヤって言われても」
「基本中の基本でござる」
「次さっきの事やったら口きかねぇからな」
ただ、三人の反応は冷たく、
「まぁ、うん。悪かった」
これには、マンチもただ平謝りするしかなかった。




