それならこちらはエビフライ
「なんか凄いの出た!! 今の見た!? 何か凄いの出たんだけど!?」
「マンチが珍しくはしゃいでやがる……」
「マンチさんから凄い何かが出たって普通に聞いたら事案だけどね」
「何かを出して興奮するプレイヤーがいるらしい」
「情報がどんどん酷くなってやがる!?」
単発の遠距離攻撃。
そうであったはずのスキルが、マスタリーがアップしたことによって貫通効果――すなわち範囲攻撃になった。
その程度……と他のプレイヤーなら思うかもしれないが、エルメル達は総じて火力不足である。
であるならば、多少でも複数の敵の体力を減らせる範囲攻撃と言うのは、他のプレイヤーたちに比べて重要度が増す。
それだけ、一度に集団の敵の体力を総量的に見て減らせるためである。
「けどクールタイムは若干伸びてるな」
「まぁ、多少のデメリットはやむなしだろ。……マンチ! 行ったぞ!!」
先ほどまでほとんどの敵のヘイトを貰っていたエルメルだったが、先の一撃によってマンチにもターゲットが流れ。
それを伝えるために叫べば、それを聞いて待ってましたと横から絡んでくる影が一人。
「密集してなきゃ割と慣れた。[ハイキック]!!」
スカラベの一体を蹴り上げ、落ちてくるところを追撃しようとした†フィフィ†に、
「ありゃ? マスタリーアップラッシュ来た?」
先ほどのマンチ同様、青白い光が集まり。
「へー。連撃化するんだ。使ってみよ」
追撃よりもスキルがどう変化したかを優先した†フィフィ†は、その場でスキル画面を確認。
どうやら、スキルによる連撃が出来るようになったらしく、打ち上げたスカラベに再度ターゲットを合わせ……。
「[ハイキック]! か~ら~の~!? ――[エアキック]!!」
打ち上げた敵を追いかけ、空中で地面に叩きつける蹴りをお見舞いする†フィフィ†。
勢い良く地面に叩きつけられたスカラベは撃破判定となり姿は消え、それを†フィフィ†は喜ぶが。
「あー、これ着地まで行動不能なんだ」
スキルによって飛び上がった事により、空中ではアクションが取れないらしく。
どう考えても無防備な着地を晒す羽目に。
当然、そこに殺到するスカラベだが、
「そうはイカの〇ンタマ」
「タコの足」
ごまイワシとマンチのフォローにより、着地狩りで床を舐めるような事態にはならなかった。
「マンチ、テンション上がってっけど配信されてるからな? さっきの発言普通にあぶねぇぞ?」
「配信が中断喰らったら恨むでござるよ」
「悪い。けどごまも乗ってきたじゃんか」
「それはそれ、これはこれ」
放送コード的によろしくない発言があったが、どうやらそれが原因で即配信が切られることは無さそうで。
「だいぶ数減ってきたし一気に行くぞ」
「話題変えたでござる。……けどまぁ、そろそろエルたそが限界っぽいし、頑張るでござるよ」
「普通に捌き切ってるの人外だけどね」
「先ほどよりは被弾増えてるみたいですよ?」
自ら話題を変え、窮地を脱するマンチ。
そして、皆が言うように最初よりも被弾が増え、パルティの回復があっても体力の消耗がギリギリになってきたエルメルに床を舐めさせないために。
パルティを除く三人は、エルメルに近づいて敵からのターゲットを分散させる。
そうしてスカラベを倒すこと二十分。
ようやく最初の波を終えた五人は、降りてきた階段付近に移動して態勢を整える。
「プハッ。割と死ぬかと思った」
「実際あの数のスカラベは、私のいるクランの人たちもやられたみたいですよ?」
「や、エルたそがバグってるだけでござる。両手剣でガードと攻撃とカウンターを使い分けて対応とか拙者は無理」
「ごまの場合はガードが回避になるだけだろ。にしても、今のだけで滅茶苦茶経験値手に入ったな」
敵がリポップするまでの少しの時間。
それが、五人の緊張の糸が弛緩出来る時間。
その中で、先ほどの戦闘を振り返るエルメル達。
「次さ、遠距離からマンチに攻撃させて少数をおびき寄せない? またあの数来られたら俺無理な自信があるんだけど」
「それは賛成。というか、正攻法はそれでござろうな」
「魔法型が居ないのが響いてるねー」
「一応魔法剣士なら居るんだが、な」
次からは集団相手に真っ向から喧嘩を売るのではなく。
少量ずつ相手にしていくことを決めたらしい。
「ていうかあれだ。スキルマスタリーアップな。コリンのスキルは使う場面選びそうだな」
「そだねー。ごまさんみたいにスキル中に発動できるスキルがあれば隙消せるんだけど、今の所無いからなー」
「でも火力は魅力的でござったよね。タイマンであればガンガン使えそうではあったでござる」
「ただ数を狩るのには向いてないって感じだったな」
†フィフィ†の[ハイキック]のマスタリーアップによって得た追加攻撃。
その攻撃に関しては、四人の意見が「隙はデカいけど一対一なら積極的に狙っていける攻撃」という認識が一致。
そして、
「マンチから出る凄いのに関してはいいなーって感想しかない。俺も範囲攻撃欲しい」
「さっきのマンチニキの発言からの凄いのはもう色々とアウトでござるよ」
「俺は言ってないぞ? けど、貫通って言う特性上、密集してるか列になってるかじゃないとうまく範囲に巻き込めないんだよな」
「ブレスレットの追加効果、(黄)から(緑)に変えるか? 位置取り重要になってくるだろ?」
マンチの貫通効果が追加されたスキルの話も話題に上がり、それをどう運用していくかという話へ。
「けど、[ランダムエンチャント]の接続時間延ばした方が総合的な火力は出るだろ?」
「難しいところでござるな。移動速度上がってれば生存率にも関わってくるでござるし、こればっかりは使ってみて臨機応変に……としか」
「臨機応変にと言えば、俺火力の(赤)装備してるけど、さっきみたいになるなら(白)でもいい気がしてきた」
「あー。被弾前提で粘るって事なら悪くなさそうでござる」
その流れでエルメルの装備に関する話題に。
そうした話題で盛り上がっている中、リポップしたスカラベたちが真上に出現したことを、エルメル達はまだ気が付いていなかった。




