誘発効果
「なんかカサカサ音がしてるんだけど!?」
「絶対黒光りしてるやつでござるよ!?」
「増殖してる奴かもしれん」
「飛翔もしちゃうかも」
「皆さん……何のことを言っているんですか?」
ミイラ達がうごめいていた場所を抜けると階段があり。
その階段を降りてみると、薄暗い暗闇から何かが聞こえた。
その何かは、日常生活において忌避される存在を連想させ、まるでその名前を出してはいけないかのように、連想ゲームよろしく伝えようとしているエルメル達。
どう考えても既に何かは予想がついているが、出来ればゲームとはいえあまり退治したくはない存在だが……。
「けど倒さなきゃいけないんだよな?」
「めたくそに嫌でござるけど、対峙しないと狩れない――つまりは経験値にならないわけで」
「くそっ! こんなことなら丸めた新聞紙とスリッパを用意しておくべきだった!!」
「もうさ、敵が思っている存在だったらさ、焼こ?」
薄暗い暗闇……つまりは明かりが届いていないその場所は、どうやらプレイヤーの周囲のみが照らされる仕様上の仕組みらしく。
音の正体を探るため、エルメルとごまイワシは意を決して歩を進め。
「い゛っ!?」
天井をびっしりと埋め尽くす量居た、思っていたGよりも丸く、大きな存在を見て、エルメルは叫びそうになるが。
「Gじゃないならまだ大丈夫でござるよ! 名称『スカラベ』! 数は一杯でござる!」
ごまイワシは、未だ敵の姿を確認していないマンチと†フィフィ†に敵の情報を伝達。
その情報である程度理解できた二人は、視界的なダメージを思考に入れつつエルメル達の後を追うが。
「ギャー!!」
「み゛ゃー!!」
天井を這う無数の虫という絵面は、やはり苦手な人にとって見ればダメージはデカいもので。
「うち無理!! こんなの相手にするの無理!!」
「慣れるとそうでもありませんよ?」
逃げ出そうとする†フィフィ†の横で、瞳から光を消して感情を消失してスカラベに立ち向かおうとするパルティ。
「待って。パルティに何があったの? なんか瞳の色消えてるけど!?」
「クランの人が、『ここは効率がいい』と言って二時間くらい籠ってたんですよ。そのせいで見慣れちゃいまして……」
先ほどまでよりも数段沈んだトーンで話すパルティは、長時間狩りを続ける秘訣、『楽しみながら行うか感情を殺して行う』を取得していたらしい。
……最も、取得しなければ平常心を保てなかっただけであるが。
「効率いいならなおさら頑張るでござるよ! ていうか、こいつら相手に攻撃許すと群がられるでござるよ!!」
「そうなったらログアウトするから!!」
「笑顔で勇気の切断宣言すんな! ほら、くるぞ! 気合入れろ!!」
ようやく下で騒ぐエルメル達に気が付いたか、『ざわっ』っと全体が震えたスカラベの大群は。
そのまま降ってくるという攻撃方法を選択。
天井に張り付いていた際には分からなかったが、手足にはまるで刀身を思わせる突起物が付いており、それらを体当たり時にぶつけることで攻撃とするらしい。
「災害警報!! お住まいの地域は雨模様!?」
「雨っつーか虫な! いって! クソが!! 数が多い!!」
降ってくるスカラベを避け、頭上で斬り、柄で吹っ飛ばして何とかダメージを抑えようとするエルメルと。
「まぁ、拙者は困らんのでござるよ。[流転]!」
あっさりとエルメルから。スカラベから距離を取り、攻撃範囲外へと逃げるごまイワシ。
「けどこのままだとエルメルやられるぞ! [オーラブレード]!!」
「私達、最初はあれに全員やられちゃったんですよね。[治癒光]」
「流石に虫を素手で殴りたくないなぁ……。はぁ――やんなきゃダメ?」
しかし、そのままエルメルを置いていったまんまであれば、即座に削られて床を舐めるのか目に見えている。
だからマンチは範囲外からではあるが遠距離攻撃を放つし、パルティは即座回復と持続回復がセットになった回復スキルをエルメルにかける。
しかし、遠距離スキルを持っていないごまイワシと†フィフィ†は攻撃するには近づかねばならず。
かと言って近づけば攻撃を受けてしまうというジレンマ。
「はっ!? 拙者は[切り抜け]で突撃して[乱雨斬]だけ放って[流転]で帰ってくればいいのでは?」
そんな中、ヒットアンドエスケープの動きを思いついたごまイワシはコメントが止める中実行。
結果――、
「すまぬパルティ。回復お願いするでござるよ」
大した成果もあげられぬまま、体力を減らして帰ってきた。
『だから言ったのに』
『スキルは行動中の硬直がデカいから得意のキャラコン使えなくてダメージ受けてて草』
なんてコメントが流れてごまイワシは多少は反省するが、それと同時に一つ思う。
『回避に拘らなけりゃ、エルメルも大概な動きしてるよな』
それは、コメントと全く同じ考えであり、現に回復を受けているとはいえ二桁後半。下手をすれば三桁に届こうかと数のスカラベの大群を相手に、未だ粘っているのだ。
それはもはや、並みのプレイヤーという実力ではない。
「そろそろしんどくなってきたんだが!?」
「線香くらいは立てるでござるよ」
「毎日のお祈りを欠かさないから」
「骨は拾う」
「いや、助けましょうよ!?」
しかし、流石に押され始めたエルメルが弱音を吐けば、既に諦めている三人と、そんな無慈悲な、と叫ぶパルティ。
――すると、
「うん? ……来た来た来たぁっ!!」
[オーラブレード]を放った直後、青白い光に包まれたマンチ。
それは、スキルマスタリーがアップした証拠。
「さぁ! 見せてもらおうか! 新しい性能とやらを!! [オーラブレード]!!」
追加された効果を読まないまま、放った追加効果を得たそのスキルは。
それまでと違い、密集したスカラベの大群を貫通しながら。
ピラミッド内部の壁に当たるまで……突き進んでいった。