労働の対価
「そういや、パルティは大丈夫でござるか?」
「へ? 何がですか?」
二波目のツタンサーペントの群れを捌き、パルティを除く四人がレベルアップして。
小休止を挟んだタイミングで、ごまイワシがパルティへと尋ねた。
「時間とか。拙者たち多分三日くらいここで狩ってるでござるが、好きなタイミングで抜けていいでござるからね?」
その真意は、パルティが移った時に流れた、『【ROOK WIZ】のトップ平じゃん』というコメントが気になったもので。
この【ROOK WIZ】というのは、現状ゲーム内で一、二を争う人数を誇るクランの名称である。
実力者だけを集める。をコンセプトとしているらしく、メンバーは募集しておらず紹介制。
そんなクランのトップ平……つまりはNO1のヒーラーと呼ばれたパルティが、クランメンバーではなく自分たちとパーティを組んで狩りをしている。
それが、時間とかに含まれた確認事項。
だからこそ、もし呼ばれたりしているのなら好きに抜けていい。という意味を含ませた言葉をかけたのだ。
「あ、大丈夫だと思います」
そこまで考えてか、それとも考えていないのか。
即答で曖昧な返事を返したパルティへ、
「とりあえずただ手伝って貰ってるってのも悪いし、お礼渡しとくか」
エルメルが個人取引を申請。
「?」
分からないままに承諾し、分からないままに何かを貰って取引終了。
貰った装備を身に着けると……、
「【緑】でござるか」
「平には要るだろ? 移動速度」
それは、エルメルが揃えた追加効果付与されたブレスレット。
しかも、一番価値があると言われた移動速度アップのブレスレットである。
「貰っていいんですか?」
「平をただ働きさせる趣味はねぇよ」
「貰っとくでござるよ。最悪売っていいんで」
「売るならフリーマーケットでプレイヤーに売りつけなー。間違っても店売りするんじゃねぇぞー」
「間違って店売りしちゃったらまたエルちゃんからせびりなー」
本当に貰っていいのかと尋ねるパルティだが、そもそもダメならば取引など行わない。
それに、エルメルが口にしたヒーラーをただ働きさせたくない。というのは偽りない本心であり、
「では、ありがたくいただきます。ありがとうございます!」
お礼含め、大事そうにブレスレットに手を当てる仕草をしてくれただけで、渡した甲斐があるというもの。
「うっし。んじゃあ引き続き頼むぜパルティ!」
「はい!」
またリポップしたツタンサーペントの群れを確認し、武器を構える五人は、一時間弱続く戦闘の渦へと、三度身を投げるのであった。
*
「パルティと連絡がつかない?」
「はい。何度かパーティ申請を飛ばしてはいるんですけど、他とすでに組んでいるようで……」
「ふむ。……まぁいいでしょう。他に手が空いているヒーラーを連れて行きましょう」
「分かりました」
イエローデザートの一角。砂レンガで作られたクラン拠点で、集まったクランメンバーと話す一人のプレイヤー。
『顔s』と名付けられたそのプレイヤーの見た目は重騎士そのもの。
全身顔すら肌を見せぬほどに鎧や兜に身を包んだその姿は、二次職【ヘビーナイト】専用の装備であった。
【ROOK WIZ】設立者にしてクランリーダーを務める顔s達は、これからピラミッド内の拠点ボスを討伐するために動こうとしていた。
――が、
「パルティ来ないってマジ? あいついた方が確実なんだけど?」
「知り合いとパーティを組んでいるみたいで、一応クランチャットでも呼びかけているんですけど見てないみたいですね」
「なんかペナルティ与えとけよ。必要な時に居ない平って価値ねぇっつうの」
「潰しが効く前線職より、人口が少ない治癒職を私は優先しますけどね。口が悪いのには目を瞑りますが、メンバーの悪口は許しません。追い出しますよ?」
「わ、悪かったよ」
クランの治癒職の中で、一番実力がある……というか、狩りに――戦闘に参加せずにひたすらヒーラーに徹するという点において、パルティに勝るメンバーはおらず。
腕のある治癒職は人気の為、既に数あるクランが治癒職を見かけてはスカウトしている現状、パルティ以上の治癒職を見つけられていない。
「それに、彼女は前回の侵攻の功績第二位です。治癒職でなくともその実力に追いつけていないあなたでは、彼女を批判できないのでは?」
先ほどパルティに対し、辛辣な事を言っていた曲刀を持った前線職のプレイヤーに、嫌味に近い言い方をする顔s。
顔s自体も前回の侵攻における功績第三位を獲得しており、そのネームバリューで様々なスカウトを成功させている。
だからこそ、同じ『功績持ち』という一つの看板であるパルティのわがままには、ある程度許容的である。
例えば、今回のような他人とパーティを組むという行為。
普段はクランメンバーとパーティを組んで狩りをするのが当たり前だが、こと彼女に関してはそのような事を伝えてはいない。
縛り過ぎるとそれを嫌に思ってクランを抜ける可能性があるし、何より話を聞けば彼女は初心者。
ゲーム初心者に行動を強要すれば、最悪引退の可能性すらある。
だからこそ、拠点ボス攻略も彼女以外のメンバーには伝えてはいたが、彼女だけには出発する直前に、同行出来るか? と聞くつもりだった。
――と、
「うん? パルティさんから返事がきました。『ピラミッド内部で知り合いと狩りをしている』そうです。途中で拾いますか?」
ここでパルティから連絡があったらしく、その事をクランメンバーに伝える顔s。
「知り合い次第じゃ一緒にボス討伐していいんじゃないの? どうせ討伐したって拠点制圧できないんだし」
という顔sの隣、占い師のようにヴェールで顔を覆い、これまた占い師のように大きな水晶を持ったプレイヤーの言葉に頷いた顔sは、
「では、【ツタンカーメン】討伐に向かいましょうか」
クラン全員に、そう告げて。
累計、十度目の拠点ボス討伐へと、乗り出した。