格上に中指をおっ立てる覚悟
「早速ピラミッドに入ってみる?」
「だったら補給しときたい。どうせピラミッド内の敵の方が経験値うまいだろうし」
「籠り狩りする気満々で草。絶対動画映えしないだろ」
「けど狩り風景の絵は欲しいでござるねぇ。こんな感じで狩ってますよーって映像は、親近感なり湧くと思うでござるし」
視界に入るピラミッドに入るか否か。
その相談を四人で行っていると……、
『ピラミッド内の推奨レベル、イワシさん達+10くらいなんだけど』
というコメントが。
「てことは背伸び狩り出来るって事でござるね!? そんなもん行く以外の選択肢無いでござるよ!」
「さっきまで楽しむのが一番とか言ってたくせに、急に効率重視してて笑う。掌スクリューかよ」
「背伸び狩りするならポーション大量に欲しいな。ポーションがぶ飲みオンライン再開の予感」
「補給もだけどごまさんの武器調達しない? 流石にバナナじゃどうしようもないでしょ」
そのコメントを受け、テンションが急に上がるごまイワシへ冷静にツッコむマンチ。
一方で既に背伸び狩りをすることが決定しているように準備を行おうとするエルメルと†フィフィ†。
「武器調達賛成でござる。ただ、狩りする前に休憩したいところでござる」
「それな。なんだかんだどこまで配信するんかと思いながらプレイしてたわ」
†フィフィ†の提案に乗ったごまイワシだが、なんやかんやで徹夜していることには変わらず。
どうせ背伸び狩りをするなら――効率重視の狩りを行うのならば、エネルギーを充電したいと考えるのは通常の思考。
当然、徹夜しているとは知らない視聴者から、
『配信一時間も経ってないのに終わるの?』
という質問が寄せられるが、
「拙者たち、普通に徹夜してるんでござるよ。主に生産関係で」
「ニュータイプ専用音ゲーやってました」
「運を試行回数でねじ伏せてました」
「リアルの仕事に忙殺されてました」
一人だけ、生産の方向が違う†フィフィ†が居たが、四人がそう答えると、
『納得』
と、多数のコメントが。
「次の配信がどれくらい先かは明言できないでござるが、配信は必ずやるでござる。なんで、よければチャンネル登録と配信時に通知が来るようにしといて欲しいでござる」
「お、配信者っぽいコメントしてる」
「ぽいっていうかがっつり配信者でござるよ。んでんで、次の配信でござるが多分二日とかぶっ続けで配信すると思うので~、切り抜きとかするならかっこよく切り抜いて欲しいでござる」
「あ、切り抜きダメとかじゃないんだ?」
「四十八時間越えの動画を編集するとかそんな気力一切無いでござる」
「確かにないな」
配信の終わりを体現する様な、登録の呼びかけと次回配信の話に入るごまイワシと、そこに合いの手を挟む三人。
「というわけで、一旦配信は終わるでござる! また次回~」
「次回、ごまイワシ死す。デュエルスタンバイ!」
「また床舐めるのか……」
「ぶっちゃけ全員舐めそうだけどね」
配信が終わるギリギリまでネタをぶっこんだエルメルに、明日は我が身と静かに覚悟を決めたのは†フィフィ†。
ごまイワシがいくつか本人にしか見えないウィンドウを虚空で操って、
「というわけで配信を終えたでござるが、どうするでござる?」
「どうするって?」
「ん、いや……このまま落ちて各自休息か、相談とかやることあるならと思っただけでござるよ」
「相談てか質問なんだが、ごまはその武器でやるん?」
三人を振り返ってそう聞いたごまイワシに、逆に質問をするエルメル。
「まさか。けど、咄嗟の回避に使えそうではあるから持っておくでござるが」
「だよね。良かった。マジで回避以外取り柄のないショタ人魚になるのかと思ったからさ」
「失礼な、体力もあるでござる」
「そこじゃなくない? とりあえずうちは落ちるよ? お腹すいたし、眠いし」
「ん。じゃあ解散するでござるが、ログイン出来るようになったらまず自分に連絡欲しいでござる。全員揃ったらログインして配信始めるんで」
そろそろ限界、と、ゲームの中であるのに出てきた欠伸を隠しもせず、イエローデザートへのポータルへと足を進める†フィフィ†。
そんな†フィフィ†にも聞こえるように次の配信の段取りを説明したごまイワシは、
「んじゃあ、ゆっくり英気を養うでござるよ。……次の配信はガチの廃狩り予定であるので」
「こっわ。とづまりすとこ」
「お疲れー。ルームサービス何取ろっかなー」
そう言って締めくくり。
その言葉を聞いて、各々がイエローデザートへと帰還してログアウト。
一人だけ残ったごまイワシは、
「まぁ、この武器、リーチ短い代わりに攻撃力が破格なわけでござるが……流石にこの短さは慣れないと無理でござろうねぇ……」
渡されたモンキーバナナ……フルエンチャント済みの短剣武器を見ながら、ぼそりと呟いた。