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滑り芸

「皆さん、先の侵攻(インベーション)でこの町以降の町は魔王軍の手に落ちてしまいました」


 エルメルから話を振られたフリックは、そう切り出した。

 恐らくほとんどのプレイヤーが、理不尽だと憤慨したその出来事は、当然のように四人の記憶にも新しい。


「そして、魔王軍は手に入れた町の支配を盤石にするために、“拠点”を作成しました」

「拠点?」

「はい。この町と、次の町である『グリーンフォレスト』。その中間にあたる部分に、建造物を産み出したのです」


 町から出れば直ぐに分かると思いますよ? と繋がり、フリックの説明はまだ止まらない。


「その建造物にはいわゆるボスモンスターが存在しており、先ほどのように定期的に町へとちょっかいをかけてくるんです」


 でっかい眼鏡を押し上げながら、困ったもんだとため息一つ。


「ですので、この町まで来た皆さんの為すべきことは二つ。一つは拠点にいるボスモンスターの討伐。そして、ボスモンスターを倒して拠点を制圧したら、今度は『グリーンフォレスト』の解放です」


 指を一本ずつあげながら説明していたフリックは、小さく「あっ」と呟いて。


「あと、『グリーンフォレスト』までの道も含めた町の外を統括するエリアボスも存在するのでそちらも……」


 と三本目の指をあげる。


「拠点ボスとエリアボスが居て、そいつらシバけって事だろ?」

「んでも俺らより先にかなりのプレイヤーが来てるのに倒せてないって事は、そう言う事だろ?」

「どういうことよ。……難易度ヤバめ的な?」

「ボスが見つからないとかも無きにしも非ずんば虎児を得ず。まぁその辺のプレイヤー捕まえて聞けば早いんでござろうがぁ」

「ござろうがぁ?」

「ぶっちゃけ自分の目で確かめた方が早いよねって事で早速町の外に行ってみよーのコーナー!」

「いえーい!! 武器の交換が先だけどな」


 そんなフリックを軽く無視し、まだエリアボスや拠点ボスが倒されていない事実を確認して作戦会議を始めるエルメル達。

 気が付けば周囲には他のプレイヤーの姿があり、どうやらイベントからの束縛からは解放されたようで。


「フリックだっけ?」

「はい。何でしょうか?」

「任せとけって。多分何とかなるから」


 少しだけ不機嫌にむくれたフリックに向かって、何の根拠もない慰めを口にしたエルメルは、


「というわけでお待たせ。君らが交換してくれるプレイヤーでいいのよね?」


 イベント後に戻ってきた場所で、出待ちよろしくエルメル達を待っていた四人のプレイヤーへと挨拶をした。



「おー。新武器っていいもんだねぇ」

「……」

「勝手なイメージだけど、刀身が細い方が魔法剣士っぽい感じがあって好き」

「……」

「リボンがメインってより、装飾の方がメインぽくない? この武器」

「……」


 交換を終え、それぞれが新しく手に入れた武器を眺めている中、唯一装備に関する感想を口にしないごまイワシは……。


「ん? どうしたごま? 喋らないとか配信者失格だぞ?」

「ひどい」


 エルメルの煽りに、ぼそりと。


「もはや拙者の場合武器ですらないでござるよ!!」


 手にした()()()を振り回しながら、そう喚いた。


「ネタ装備って言ってたから間違えてないじゃん」

「まさか()()()()バナナ渡すとか思わないでござるよ!」

「バナナ二刀流でいいじゃん。……ていうかそもそもそれって火力出るの?」


 もはや茶化すを越えた本気でごまイワシに向けてエルメルは言うが、ごまイワシが握っているバナナは、バナナはバナナでもモンキーバナナと呼ばれるかなり小さいサイズのもの。

 それまで使っていた道具屋で貰った短剣と比べても、そのリーチはざっと半分程度しかなく。

 本当の意味で、ネタ以外の使い道が無いような武器であり、


「攻撃力は普通に設定されているでござるが、このリーチに見合うかと言われると全く。ていうかこれに付いてるスキルも酷いんでござるよ!」


 ネタ武器の名に恥じないスキルを内蔵しているらしく。


「どんなのどんなの?」


 興味津々で尋ねた†フィフィ†への答えとして、


「こける」


 たった一言を口にする。


「へ?」

「だから、その場でこける。説明にはそうとしか書いてないでござる」

「せんせー、自分草いいっすかー?」

「きっと一般プレイヤーには使い道無くても、プロだったら華麗に使いこなしてくれるんだろうなー」

「生き生きとした表情で煽るじゃん。んでもなんて言うか、ごまさんなら普通に悪用しそうな感じはするよね」

「†フィフィ†ネキからめっちゃ期待されてるでござるが、拙者は初めから悪用できそうなスキルを悪用しているのであって、こけるっていう悪用の余地のないスキルはどう足掻いても――」


 謙遜ではなく、事実として。

 ネタ武器がネタ武器たる所以である、ネタ以外に使い道がない状態から、ネタ枠を脱却させることはごまイワシ――いや、全プレイヤーの手に余る現実である。

 ――が、


「咄嗟の回避とかに使えねぇか? その場でこけるんなら空中は?」


 エルメルのこの発言に、ごまイワシの脳みそは悪用方向への加速を開始。


「こけてる途中で[流転]使ったらどうなるでござる? 逆も試したい……。こけたまま高速移動出来るのであれば不意打ちに使える?」


 顎にバナナを持ったままの手を当て、考え始めるごまイワシを余所に、


「んじゃあ新スキルのお披露目兼素振り兼マップの把握目的で町の外に出ようぜ」


 エルメルの指揮のもと、三人は走り出して。


「んえ? あ、ちょ! 待つでござるよ~!!」


 遅れる形でごまイワシも、エリアボスに支配されたマップへと、駆けだしていった。

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