喧嘩買います一回一スパ
『あー、あー。聞こえているでござるかー?』
動画サイトにて配信され始めたLIVE映像。
その初っ端は、ちゃんと音声が届いているか? と視聴者に問いかけるもので。
『映像とかも大丈夫でござるよねぇ?』
時点で、映像も付いているかと確認。
一時間前から予約をしていたその配信には、既に千人を超える視聴者が来ており。
配信者の問いかけに、何人もの視聴者が反応していく。
『おーけーおーけー。んじゃあ、早速、『ネタ振りに人権を委員会』の栄えある最初の活動でござるよ!』
そんな視聴者の反応を確認した配信者は、最初の配信の開始を、高らかに宣言した。
*
「まずは――いかれたメンバーを紹介するでござる! 体力極の避けタンク! 拙者、ごまイワシでござる!! にんにん!」
「えー……敏捷極のエルメルだぞぉ! きゃは☆」
「MP極のモデル、†フィフィ†で~す」
「均等振りの魔法剣士、マンチ。よろしくぅ!」
配信が始まり、最初に行ったのは自己紹介。
ゲーム内からの直接配信ということで、ゲームプレイ中のプレイヤーはもちろん、動画サイトから視聴している者も合算した現在の視聴者数は……およそ三千。
「思ったより視聴者さん居てくれてるね☆」
「まーあれだけ運営からも全面的にプッシュした配信の後でござるからなぁ。しかもビオチット達はとっくに配信してるでござるし? むしろ何してたんだって意見が多数かと……あー、ほらやっぱり」
「つーわけでツッコむか迷ったけどエル、お前のその口調がキャラだってバレバレだぞ?」
「チッ。いや、初見さんとかならワンチャン騙せそうかなって」
「騙してどうする気なのよ。……あ、配信遅れたのは私のせいなんで、本当に申し訳ないです」
そんな視聴者から、「今まで何していたの?」や、「ずっと待ってたぞ」と言ったコメントが多数寄せられ。
既に対戦配信の相手、ビオチットとヘルミのペアは、数日前から配信を始めている。
その二人より、何故遅れたかを気にする視聴者だったが。
「まぁ、その通りなんでござるが。とりあえず聞けし。あの戦闘を終えて、拙者よ~く考えたでござるよ。ひょっとして、このままじゃガチ振りには敵わないのではないか、と」
「結果、だったら人増やせばよくね? って話で。戦いは数だよアニキって結論に至り」
「配信に協力してくれて、かつプレイでも俺らについて来られる人を探してたら遅くなったってごまイワシが言ってた」
「然り」
配信責任者のごまイワシを筆頭に説明され、徐々に納得される。
――が、
『人数増やしていいなら誰でもネタ振りで勝てるだろ』
というコメントが流れてきて。
「んじゃあやって見ればいいでござるよ。どれくらいの規模までPvPが可能か知らんでござるが、ほぼオワタ式でプロゲーマー相手に勝てると思ってるのならプロ舐めすぎなわけで。……今度から拙者とタイマンするのを定例化するのもいいでござるな」
「プロとしての地雷に触れたか知らんけど喧嘩腰になるな。んで、さっきコメントしてくれた人へ。あの戦闘に一人加入した処でぶっちゃけどうにもならないと感じなかった?」
「それを俺らがどうにかしてこうって配信だからな? マジでドン引きする様な事するからな?」
若干口調が早くなり、もう少しで中指をおっ立てそうな勢いのごまイワシと、それをなだめながらコメント元へと問いかけるエルメルと、含みを持たせたことを言うマンチ。
『例えば?』
尋ねられて当然のそのコメントに、エルメルはドヤ顔で自分が作ったブレスレットを晒しながら。
「生産で大成功したときに追加される効果を検証するために、全種類出来るまでマラソンしてみました☆」
と。
それだけでコメントが驚愕の反応や爆笑を表すコメントで溢れかえるのだが。
「さ~ら~に~、その過程で出たダブり装備や、実際の効果を見て俺らが使わないと判断した装備は~」
「拙者たちが欲しい装備と交換しようと思うでござるよ。ちなみに今の所の対象装備は、剣か短剣かリボンでござる。装飾品も欲しいでござるが、まずは武器がいいでござるねぇ」
さらにその装備たちを、交換に出すといった瞬間コメントの熱量が増える。
そもそも金細工師を取得していないプレイヤーに取って、エルメルの作ったブレスレットは他のプレイヤーと交換するか、または購入するしか手に入る道はなく。
ましてや武器でも防具でもない装飾品は、言うなればかさばらない装備品であり。
重複しづらい箇所の装備として、非常に需要が高い。
結果、値段も、価値も上がっていくのだが……。
「ちなみに俺たちはシナリオで道具屋から貰った装備のままなので、それ以外だったら基本的にオッケー」
「拙者のプレイヤーアドレスを公開しておくから、交換希望者は拙者に交換に出す武器と、職を記載してメッセージを寄こすでござる」
「数に限りはあるけど、その職で腐らない追加効果を持った装飾品と交換させていただきます」
交換に出す武器は何でも構わない、と。
少なくとも、大成功させた生産武器でなくてもいいと宣言したエルメル達に。
――正確には、プレイヤーアドレスを公開したごまイワシに、メッセージが殺到した。
*
「さて、アホみたいな数のメッセージが来たわけでござるが」
「とりあえず狩りの前に交換は終えたいよね。スキルレベルマスタリーの事もあるし」
「ぶっちゃけ武器の性能より、スキルで何を持っているかが重要なわけで」
「そうなると俺って[ランダムエンチャント]スキルマスタリーアップしたのに武器変えなきゃなのか」
ネタバレ防止という名目で配信に乗る声をオフにし、シナリオを進めながら四人で話をするエルメル達。
「別に、[ランダムエンチャント]撃つ時だけ持ち替えりゃあいいじゃん」
「それだ! 天才かよ」
「マンチニキの頭が回ってないだけ定期」
「ごま知ってるか? 寝てない人間の、頭は悪い」
「俺も寝てないけどな。さて、レベルは足りてるはずだしジョルトさ~ん? 何をすればいいので~?」
ジョルトを見つけ、話しかけると――、
「次の町を目指せ。そこに新しい教官役がいるから、詳しい事はそいつから」
と言われ。
『シナリオクエスト:新たなる場所へ が開始されました』
配信に乗らないシステムメッセージによって、そう告げられた。