見た目アドの重要性
消されたキャラをレベルカンストまで育てていたせいもあり、妙に見慣れた雰囲気と耳に届くBGMに安心感すら覚えた光樹は、目の前に出てきたキャラ作成画面の項目を直接タッチ。
とりあえず名前欄に使いたい名前を入力する。重複チェックを確認し、使用可能な名前である事に安堵して、今度は見た目を決めていく。
その直前に、
【現実の見た目と大きく乖離した見た目はプレイヤーの精神に大きな負担をかける場合があります】
という一文が出てくるが一切無視。
そんなもの、これまでの廃人生活でもロリ体を受肉し活動していた光樹にとって、考慮すらしない些細な事だった。
身長――幼女並。
種族――獣人。
見た目デフォ装備――狐耳、狐尻尾。
髪の毛は腰まで伸ばしたロングヘアで、綺麗な金髪。
その髪と溶け込むような金の瞳は、やや瞳孔を伸ばした猫目仕様。ロリの定番、八重歯を片方にのみ適用し、目を少しだけ吊り上げてやや目つきをきつくしてやれば、ここに光樹の好みに全ブッパしたキャラの見た目が完成した。
そこまでに時間をたっぷりとかけ、妥協せずに決めた光樹は、次の項目に目を通した時に一旦手が止まる。
手が止まった項目にはステータステーブルと表示されており、脇にある簡易説明には「レベルアップ時の各項目の上がりやすさ」と表記されていた。
(流石にここでは遊べねぇよな……)
四つに分かれた火力(与ダメ関連)、耐久(被ダメ関連)、補助(ステータス上昇下降スキル関連)、運(クリティカル発生率や回避率)という項目から、火力至上主義の光樹は自然な流れで火力を選ぶ。
そして――とうとうお待ちかねとも言うべきジョブの選択へと進んだ光樹は……そこからしばらく頭を悩ませる事となった。
――選べるジョブが多すぎたのだ。
戦士や魔法使い、盗賊といったオーソドックスなジョブはもちろんの事、召喚士にテイマーという珍しいジョブもあれば、専門学生や果てには無職というよく分からないものまで多数存在していて。
目移りを繰り返し、散々の試行錯誤の末に辿り着いたジョブは――。
(むしろこんだけ職業あるのに戦士とか選んだ方がネタになるんじゃね?)
という思考に至った結果の戦士だった。
ジョブを選択した瞬間に、目の前には巨大な鏡が現れて。
キャラメイクを今の設定で終えていいかという確認が表示される。
先ほど決めた狐耳尻尾付き金髪金眼幼女の戦士は、初期装備である布防具に身を包まれ、背中には大きめの剣を背負っていて。
(やべぇ……俺の性癖ドストライク。俺、オメガグッジョブ!)
鏡の前で一周回転した時に装備がめくれて危うく桃色の蕾がコンニチワしそうになりドキッとしたり、身を捩って自分の姿を確認した光樹は、普段より目線が低くなった姿に満足しつつボイスチャット環境の設定へと進む。
マイク設定とスピーカー設定、モノラルかステレオかを選択し、残すはマイクテストのみになり……ゴーグルと共に装着していたボイスチェンジャーのスイッチを入れ、発言する。
「こんな感じか?」
スピーカー越しに聞こえた自分の声は、今の見た目とマッチしたロリボイスであり、それを聞いて一人光樹は悶える。
ここに、光樹のプレイヤーキャラ、「エルメル」が爆誕した――瞬間、立っていた場所が……消えた。
「はぁぁぁっ!!?」
何の心の準備も出来ていないのにいきなり空へと投げ出されれば、人間誰しも叫び声を上げるだろう。
眼下に広がるはエメラルドグリーンの美しい海と、そこにポツンと浮いた緑の木々に包まれた島であり、海岸線では砂浜が光を反射して光って見える。
例えゲームの中だと分かっていても思わず息を飲むほどの絶景はしかし、今の光樹には――エルメルには、そんな余裕は無い。
声にならない悲鳴をあげながら自由落下をしているエルメルに、『CeratoreOnline』は無理矢理シナリオを見せてくる。
かつてこの世界は神の加護と恩恵を受けて栄えていた。 しかし、突如として現れた魔王は、魔物達を率いてその加護と恩恵を破壊してしまった。
結果、神は身の危険を感じ、世界の事を放り出してその姿をくらませてしまい、この世界の住人はいつ魔物達から襲われるか分からない恐怖の中にある。
そんな神の加護と恩恵を失ってしまったこの世界、『Tachyon』を救うためには、姿を消してしまった神を探し出すしか方法が無い。
その使命を胸に、君は冒険者学校を卒業した。
まとめるとそのような感じになるストーリーは映像付きでおよそ5分ほど続き――。
その間落ち続けている光樹には、果たしてどれだけ頭に残っただろうか……。
ストーリーが終わり、急に視界が眩しくなったと思えば、それまでの浮遊感が消え……。
しっかりと大地を踏みしめる感覚と、全身を襲っていた風は頬を撫でる潮風に変わり。
気が付けば『始まりの町 ブルーリゾート』とでかでかと書かれた門の前に居た。
(無駄にヌルヌル動く映像からの繋ぎが雑すぎるだろ……。力を入れるところがズレてると思うのは気のせいか?)
一人で運営への不安感を抱きながら門の奥を見ようとするが、どうやら町の中の様子は門をくぐらなければ確認出来ないらしく、門の中は謎の光に包まれていた。
渋々町へと足を運ぶメルエルは、ふと突然に立ち止まり、何も無い虚空をタッチしてメニューウィンドウを表示して。
視線を動かし、目的の項目に触れたエルメルの姿は、光の粒子となって景色に溶け込んだ。
エルメルの向かった先は……マイショップである。
(見た目はそそるけどこんなダサい装備は早々におさらばしたい……)
そう考えた光樹は、防具性能の無い完全なファッション目的の為に存在する衣装(課金)を揃えるために、課金アイテムを取り扱っている特殊ショップ――マイショップへと移動したのだ。
メニュー画面からワンタッチで移動できるそこは、時間泥棒として大型アップデートの前からプレイヤーに親しまれてきた。
多くの衣装やアクセサリー、髪型変更券や性別変更券等、着せ替えをさせるには十二分以上に揃ったラインナップであるため、様々な衣装に目移りしてしまうし、試着だけならば無料である為、目の保養に……と狩りの休憩中にこのマイショップを利用する者も居たほどだ。
もちろん、敵に襲われるような場所からでは移動する事は不可能だが。
そんなマイショップにやってきた光樹――エルメルはさっそくマイショップメニューから衣装の絞り込みをかけ始める。
(ゴテゴテのゴスロリ衣装も捨てがたいし、奇をてらってスーツっていうのも素晴らしい筈だ。――というかこのキャラが可愛すぎて何でも似合いそうだな……)
エルメルの見た目を自画自賛しつつ、ああでも無いこうでも無いと目に留まった衣装を試着してはキャンセルを繰り返す事しばらく。
ようやくこれは、と思う納得できた衣装に身を包んだエルメルは、着用している衣装とアクセサリー全てを購入してマイショップを後にする。 割と気になる課金額にはなったが、光樹の満足はプライスレス――お金で買えない価値があった。
(さて、いよいよか。……流石にあいつらはもう来てるよな)
視線を動かし、ゲーム起動からどれくらいの時間が経ったかを記録しているタイマーを確認すると、すでに一時間半も経っていて。
キャラメイクと衣装にそれだけの時間悩んでいた事を客観的に突きつけてくる。
(マジで時間泥棒過ぎるわっ!!? やっべぇ急がねぇと!)
ブルーリゾートの門の前、光の粒子となって姿を消したその場所に、逆再生するように光の粒子が集まって姿を現したエルメルは周りに一目もくれずに門へとダッシュをかます。
その後ろに、『ごまイワシ』というプレイヤーが居た事には――気が付かなかった。