ニュータイプ入門
「ん~、ひっさびさのログインだぁ……」
仕事を終わらせ、他の三人の様子を見に来た†フィフィ†は、伸びをしながら周囲を見渡す。
けれど、生産に勤しむ三人の姿は確認できず、フレンド枠からごまイワシに個人チャットを飛ばす。
(ログインしたけどどこいるの~?)
(おっ!? お疲れ様でござるよ。ちょっと待ってて。迎えに行くでござる)
即座に反応があり、どうやら迎えに来てくれるとのこと。
その言葉に甘え、その場で待機していると……。
「おいーっす。お疲れ様でござる~」
そんなに時間がかからないうちに、ごまイワシが登場。
「あれ? 他の二人は?」
「マンチニキがニュータイプ専用音ゲーに勤しんでて、エルたそは確率の壁に喧嘩売ってるでござる」
「???」
一人で†フィフィ†を迎えに来たごまイワシに、残りは? と尋ねると。
間違ってはいないが、何のことか把握していない†フィフィ†には意味不明な説明をするごまイワシ。
「まぁ、生産中なのでござるよ」
「う~ん。分かった様な分からないような……?」
とりあえず二人が何をしているかの概要を伝え。
伝えられた†フィフィ†本人は首を傾げているが、
「とりあえずエルたその所へ行こうず」
「賛成。そう言えばあの二人生産職何取ったの?」
いつ終わるか分からないマンチではなく、生産終了という区切りがあるエルメルの方へ案内しようとすると、そもそも二人はどの生産職を選んだのかと問う†フィフィ†。
「エルたそは金細工師で、マンチニキが鍛冶師。んで、マンチニキの鍛冶師は短刀と籠手を生産可能」
「絶妙に誰も装備できない感じじゃん」
「剣二人と短剣とリボンでござるしねぇ」
「まぁ、フリマに流せば必要なの拾えるっしょ」
「そのフリマに流す弾はエルたそが量産中」
思考が三人と同じ†フィフィ†だが、流石にごまイワシの発言の意図は汲み取れず。
「? エルちゃんの金細工師ってレアな生産職なの?」
生産職自体の珍しさから売れる装備になるのかと考えるが、
「いや、大成功判定で追加効果が付与されるんでござるが、エルたそはそれをコンプリートしようとしてて」
とのこと。
そして、それがどんな意味なのかを即座に理解する†フィフィ†。
「把握。ダブりとか出たらフリマに流せる。と」
「そそ。流石にそろそろ揃ってそうでござるが……」
なんて会話をしながら、金細工の工房前にやってくると――、
「だぁっしゃおらぁっ!! コンプリートだ畜生!!」
およそ幼女が吐かない勢いと口調でそう叫び出てくるエルメル。
「エルちゃんお久~。んで、お疲れ~」
「おう、コリンか。インしたって事は大丈夫なんだな」
「まぁね~。これで心置きなく没頭できるよ」
そんなエルメルに†フィフィ†が声をかければ、リアルの事情を知っているエルメルが†フィフィ†のリアルを心配し。
大丈夫、と返す。
「とはいえ俺らは徹夜してっからな……。配信するなら一旦仮眠取ってからを希望したい」
「最初だからそんなに長く配信しなくてもいい気がするでござるが?」
「流石に初回配信が72時間とかだと初見さん引くよ?」
そして、メンバーが揃ったことで、配信を行う話題になるが、いつも通りの配信を考えていたエルメルにツッコミが殺到。
「なら寝なくていいや。……マンチの奴は?」
「まだ鉄叩いてるのでは?」
「視覚情報なしの音ゲーとか物理的に無理なんだから諦めりゃあいいものを」
「それはゲームではないよね?」
次いで、離れている残りの一人の事を気にするが、この場に居ないということはそう言うこと。
「しゃあない。迎えに行ってやるか」
「全員揃ったら一応流れ的なのも決めときたいでござる」
「その辺はごまさんにお任せ~」
「当たり強めで。あとは流れでお願いします」
マンチの居る鍛冶師の工房へと足を運びながら、三人はどんな挨拶にするかを話し合うのだった。
*
地面に転がるのは今までに出来た短刀の数々。
しかし、どこか曲がっていたり、歪んでいたり、刃が欠けていたりと、まともなものは一本もなく。
それはつまり、一度も生産に成功していないということで。
ハンマーを振るうマンチは、一度無意識に伝わない筈の汗を拭う動作を。
そして、深く深呼吸し……集中。
直後、一心不乱に叩き始めたその音は、工房を満たしていく。
……それから、三分。
ようやく鳴りやんだハンマーの音と、今度は深いため息の音。
それまでマンチが打っていた短刀は、床に転がる出来損ないとは違い、真っすぐに。
鏡のような表面で、妖しく光る紫のオーラを纏ったもので。
「ほぅ。こいつぁ凄え」
と、師匠であるガイストを唸らせる出来栄えであり。
「やっと」
ようやくまともに出来たそのひと振りの短刀を持ち上げ……、
「やっと……一本」
マンチは、真っ白に燃え尽きた。