次の生産までやろうの構え
マンチ曰く、
「叩くタイミングも場所も指定されない状態でやらされる初見曲」
という評価が下された鍛冶師の生産は。
「ぶっちゃけスタイリッシュ音ゲーってよりはニュータイプ専用音ゲーって感じ」
とのこと。
ただ、
「絶対コツがあるはずだしそれを掴んでくる」
と言い残して工房へと姿を消したマンチを見送り、エルメルとごまは再びエルメルの師匠、マカラの元へ。
「というわけで~」
そこで、先ほどクリアし、金細工の素材を手に入れたクエストが、再度受注可能であることを確認。
ごまイワシと悪い顔をして見合わせて、
「全部の大成功時に付与される効果を見よう。及び、各人に適切だと思われるものを造っちゃおうのコーナー!」
「いえーい!!」
かつて行っていたよりもかなり規模が小さい……けれども、そう呼んで差し支えない行為を決行することを表明。
その行為の名は――マラソンである。
*
「ん~……。缶詰ははかどるナ~」
徹夜中の変なテンションで。
栄養ドリンクにストローをぶっ刺して吸いながら、変なイントネーションの語尾でそう呟いた真智。
半ば自暴自棄にもとれるそんな発言だが、彼女が「バラ―ジュホテル」に移動してからの期間で、すでにこなす仕事の半分は捌いており。
ただでさえ周囲の人間が驚く速度で仕事をこなす彼女が、さらに効率を上げて作業をしていた。
「ぶっちゃけ環境として良すぎるのよね。マジでここに住みたい」
電話一本で部屋までマッサージしに来てくれて、食事も、飲み物も届けてくれる。
至れり尽くせりが極まったそのサービスに、このホテルでの生活を夢見る……が。
「まぁ、ふっつーに高いけどさ。あと、プロゲーマー支援だからか一般人はあまり長居出来ないらしいし」
ホテルにはごまイワシたちのチーム、ZJKに招待されたため、基本料金はかからない。
それでも、やはり社会人としては値段が気になるもので。
ごまイワシに聞いてみたら、プロゲーマーのチーム割引があってこれくらい。
一般人ならこれくらい。と教えられた金額は、少なくとも長期の利用を断念するくらいには高額であった。
「しょうがないと思うけどね。今やプロゲーマーって宣伝力も人気も凄いんだし」
そう納得し、ならば今を最大限に活用しよう。
そう考え、小休止を終えて止めていた手を動かし始める。
「一応、あいつらの事だからそこまで先に進んでないとは思うけど……。ん~、やっぱり一人置いて行かれるってのは寂しいものがあるよねぇ」
一刻も早く、エルメル達とプレイするために。
*
「(青)、(黄)、(緑)、(白)……四つか」
「大変でござるねぇ」
あれから、何度となく生産を行って分かったことがある。
まず、素材が手に入るクエストをクリアすると、そのまま生産に入らなければならないということ。
次に、エルメルが一発で大成功を達成したのは、かなり運が良かったこと。
そして、明らかに付与される効果の確率が、片寄っていることである。
「手順通り完璧に作ったうえで、さらに確率で大成功判定になるなんてな……」
「あの時のドヤ顔を返して欲しいでござるよ」
大成功を繰り返せばすぐ。
そう思っていた時期が、エルメル達にもありました。
ところが、最初と何ら変わらない手順で作った二度目はただの成功判定。
付与効果すらない金糸のブレスレットが出来上がり。
嫌な予感を感じながらも生産を続ければ、そこから五回目でようやく二回目の大成功。
ただし、付与されたのは一回目と同じ(黄)の効果で。
次の大成功でようやく(青)が付与され、また(黄)。
その辺りで、エルメル達は何となく察した。
滅茶苦茶に時間かかる奴だ、と。
「むしろ確率通してるんだからあのドヤ顔じゃ足りないまである」
「残りは恐らく(赤)は確定で、(白)があるから(黒)でござるか?」
色が各属性を表しているのなら、火属性に当たる(赤)、そして、闇属性に当たる(黒)。
それらの効果が出ていないことになるが……。
「あと(茶)な。マンチの属性付与で出てたし、そこも確定」
「火力アップと防御アップ? 闇はなんでござろうな」
これまでに手に入れた付与効果を加味し、残りの効果を予想するごまイワシ。
ちなみにこれまで出た付与効果は――、
(青)……回避率アップ。
(黄)……スキル接続時間アップ。
(緑)……移動速度アップ。
(白)……被ダメージを一部吸収。
である。
「吸収の対ってんなら反射じゃね? 光と闇が強すぎる気もするけど」
「割合次第でござろう。被ダメの五割を反射吸収ならぶっ壊れでござるが、1%を反射吸収なら雀の涙でござる」
「というわけで~」
「いうわけで~?」
「体力が多くて計算がやりやすいごまに装備してもらって検証しようのコーナー!」
「いえーい!!」
マラソン中のエルメル達の心理は二つ。
ハイになっているか、何も感じない凪の状態か、である。
そして、今現在はハイの方に振れており。
「どーせマンチニキもまだでござるし、こーなったらとことんやるでござるよ!!」
「ゴーゴー!!」
彼らを止める者は、近くに存在しなかった。