最大の敵は飽き
「手先が器用選手権優勝は……エルメル!」
「ごめん、何の話?」
自分が生産をしている最中に、ごまイワシとマンチの二人でしていた会話ネタには流石に困惑を覚えるエルメル。
そんなエルメルからブレスレッドを受け取ったごまイワシとマンチは早速装備して。
「マンチニキは[ランダムエンチャント]の時間が伸びるだろうから分かるでござるが、何故に拙者までこの装備を?」
「[流転]の時間が伸びるイコール距離が増えるって解釈したんだけど間違ってる?」
明らかに時間制限付きで味方を強化するスキルを持つマンチはともかく、何故自分にも? と疑問を待ったごまイワシへの解答は、難癖に近いものであり。
「そんな格ゲーのルールが「何でもあり」だからって、相手がコンボ中に相手側に回ってボタン押して妨害しますみたいな解釈……」
「何それ酷い。何でもありの定義が広すぎる……」
「エルと似たようなこと言ってると思うが?」
ピンと来ない例えで表現すれば、エルメルは抗議を、マンチは同意を。
「まぁ、そんなコン〇イ語みたいな話は無いと思うでござるが」
それでも、もしかしたらという考えで。ついでに、無いよりはマシだとも考えて装備するごまイワシ。
「試しに撃ってみるでござるか。[流転]!」
実際に距離が伸びるのか。
まさか実戦でいきなり試すわけにもいかない確認を、即座に行ったごまイワシは、一瞬で建物の屋根の上に移動して。
「んん~? 気持ち距離が伸びたでござるか?」
腕を組み、首を傾げるごまイワシ。
そこへ、
「とりあえず降りてこい。人魚が波出しながら屋根の上にいるとか非日常過ぎて目を引くから」
端的に言えば目立っているという事を伝えるエルメル。
ただでさえこの前のPVPで、その姿はプロゲーマーが中身にいる事を認知されている。
それが目立てば、当然人は集まってきてしまうもので。
「めっちゃ人集まってきたから退散すっぞ」
マンチに連れられ、エルメルとごまイワシはその場を去るのだった。
*
「んで、撤退先がマンチの師匠の所、と」
「あれれ~、不思議だな~。偶然だな~」
「素直に自分も生産したくなったって言えばいいのに~」
「マンチはこれでも自分が最年長だからって色々押さえてんだよ。察して許容してあげなきゃ」
注目を集めたエルメル達が撤退先に選んだのは、街の中でも端の方にあり、滅多な事ではプレイヤーが来ないマンチの師匠の所。
選んだ、と言っても、ほとんどマンチの意思であるが。
「エル、そう言うのは口に出したら台無しになるって知ってるか?」
「知ってるが?」
「OK分かった。ちょっと裏で泣いてくる」
そして、その意志というのはまぁ……有体に行ってしまえばエルメルの生産を見て、自分も生産を行いたくなったというもので。
ずばり言い当てられ、さらには気遣いすらもかけられる最年長者は、心の隅で涙を流す。
「さて、気を取り直して。――師匠からクエスト受けりゃあいいんだよな?」
「俺の場合はそれで素材が貰えたけど……。ぶっちゃけ鍛冶に必要な材料って多いイメージなんだけど」
「言うて金属類だけだろ? いけるいける」
「炭鉱夫とか某狩りゲーでお腹いっぱいなんでござるよなぁ」
「んなこと言うなって。……これか」
鍛冶の素材となる金属の採取。
それだけで、げんなりとするエルメルとごまイワシだったが、
「あ、俺の場合は直接生産っぽいわ」
「は? ズッル!!」
「いや~、まいっちゃうな~。んじゃあちょっくら生産やってくるから!!」
ガイストと会話し、クエストを受けたマンチは、そのガイストに連れられて恐らく工房へ。
残されたエルメルとごまイワシは、先ほどエルメルが生産したブレスレットの話を。
「これ、(黄)って表記されてあるでござるが、他の色の効果も気になるところでござるね」
「一応属性が関係してる説ない? 黄色だと光とか雷?」
「それがスキル効果時間の延長になるでござる? まぁ、出来たのが(赤)で、効果がスキル火力上昇とかなら分かるでござるが」
大成功したことによって追加効果を得たブレスレット。
しかし、この廃人たちの意思は残念ながら底無しなわけで。
「確認の為にも、全種類出来るまで繰り返すか? まだ素材貰えるクエストが受注出来るならだが」
「それがいいと思うでござる。少しでもネタ振りとガチ振りの格差を埋めときたいでござる」
「んじゃあまぁ、全種類出来るまでやって効果の把握と、その中で一番各々に合いそうな効果のチョイスっと」
「†フィフィ†ネキ来るまでにやること決まったでござるね」
「余ったらフリマ的なのに流しゃあいいだろうし、作って損することはねぇべ」
大成功を複数回達成し、しかも追加の効果を全種類確認したうえで、それを人数分揃える。
そんなことを、さも当然のように口にする。
それが、廃人という生き物なのだ。
「んで? マンチは大成功出来るのかなっと」
「鍛冶師はスタイリッシュ音ゲー鉄叩きって言ってたし、マンチニキ音ゲー得意だから大丈夫じゃない?」
「何それ字面クッソおもろいんだけど。あー……もしかしてその流れで細工師が手先が器用選手権ってなったのか?」
「そうでござるよ?」
「まぁ、言い得て妙だったけどさ」
「何したんでござる?」
工房に消えたっきりのマンチを思い、そもそも細工師とは何をしたのかをエルメルに尋ねるごまイワシ。
すると……
「金で出来た糸で紙作って折り紙して切ったり貼ったり」
という解答が。
「聞くだけで面倒な気しかしないでござる」
「まぁ、面倒だけど面白かったぞ?」
その答えを聞いて顔の前で手を振るごまイワシだが、やった本人は面白さを見出したようで。
「や、それならいいでござるよ。面白くもない事を今後もやってくとなると苦痛なだけでござるから」
それを受けて、ごまイワシは胸を撫で下ろす。
少なくとも、エルメルは生産を面倒臭がり、拒否する可能性は今のところ薄くなったからである。
「まぁ、戦闘が基本的に売りなゲームですしおすし? それでちまちま生産を~ってなったら確かにつまらなく感じるプレイヤーはいるよな」
エルメルの言う通り、基本的にはモンスターを狩る、自キャラを成長させる、というのが大体のMMOゲームの醍醐味であり、『CeratoreOnline』も例外ではない。
つまるところ、ほとんどのプレイヤーがそう言った要素を目的にプレイしている。
……もちろん、例外も居るが。
そんな目的と違う事を要求されれば、息抜き程度であるならば楽しみを感じるかもしれないが、長時間、高頻度となれば苦痛を伴う。
だからこそ、生産を楽しいと感じたエルメルに、ごまイワシはほっと胸を撫で下ろした。
「お、戻ってきたな」
「どうだったでござる~?」
と、工房からマンチがゆっくりと出てきたことを確認し、二人は声をかけたが。
「あー……」
マンチは力なく声を出すと――。
「鍛冶師はクソゲーだわ」
そう言い残し、ばったりと前のめりに倒れた。