開いたセンス
[クエスト名:素材調達の手伝い]
マカラより受けることが出来たクエストは、そんな名前であり。
クエスト内容は、パコスの居た場所よりもさらに奥。
具体的にはもう次の町が見えるような場所に生息する『つぶり貝』というモンスターのドロップ品の収集。
ヤドカリに酷似した見た目のそのモンスターは、殻を背負っているという事もあり防御力が高く。
弱点であろう中身も、顔と手以外は貝の外に出さないために物理職では倒すのに時間がかかる――筈だった。
興味本位で行った、[横薙ぎ]による斬撃ではなく殴打は、スキルマスタリーアップによって撃ち返せるようになった仕様上、つぶり貝を弾き飛ばすことに成功し。
それを、フィールドに点在する岩に向けて放つことで、つぶり貝の殻を破壊することに成功。
部位破壊による追加のドロップ品と、殻が無くなり全身弱点となって倒しやすくなったつぶり貝、という一粒で二度美味しい展開に持ち込めるその結果に、エルメルは一人満足していた。
「効果読んだときはそんなに使わないと思ってたけど、[横薙ぎ]無双してるな」
「相手の飛び道具反射、キャラクター飛ばせてモンスターも弾けるとか普通にオーバースペックだよな」
「ぶっちゃけエルたそが悪用しまくってるだけな気がするでござるよ。……んで? クエ品は集まったかにゃ?」
呟いた言葉に、マンチとごまイワシが反応。
「ちゃんと集まったぞ。俺、ごまじゃないんで」
「説明を要求するでござるよ」
「リアルラック低くないんで」
「せめてオブラートに包んでくれでござる」
部位破壊によるドロップ品追加の恩恵が大きく、ものの数体狩るだけで手に入ったクエスト品を引っ提げ、エルメル達は町に戻る。
そのままマカラにそれを渡せば。
「助かったぞ弟子一号~。いい子いい子してあげる~」
素材を受け取り、エルメルの頭を撫で始めるマカラ。
「あ、いいな。ほんわかお姉さんに頭撫でて貰ってやがる」
「師匠が女性だとあんな展開もあるでござるか。……ていうか絵面的に配信で映えそうだからそっちで使いたかったでござるなぁ」
そんな光景を見て羨ましがるマンチとごまイワシだったが、撫でられている当のエルメルはそんなことはどうでもいいと撫でるマカラの手を押さえ。
「そんなことより、金細工の材料をくれよ」
直球で、クエストの報酬を要求する。
「はいはい~。全く、師匠が褒めているんだからもう少し喜べばいいのに~」
と、ちょっぴり頬を膨らませたマカラだったが、
「それじゃあ、これが報酬だよ」
という言葉と共に、
[クエスト完了:素材調達の手伝い]
という表示が、受注していたエルメルにだけ表示され、金細工の素材である『金糸の玉』がアイテム欄に。
「んで、そのまま生産を行いたいんだが?」
「ほいほい~。んじゃあ~今回は特別に師匠の工房を貸してあげよ~」
それを確認し、すぐに生産へ、とマカラへと伝えれば。
今回は自分が使っている工房にて生産していいよ、との声が。
それが果たしてデフォルトなのか判断に困るが、別に拒否する必要もないので素直に受け入れる。
「生産ってどうするんだ?」
「師匠が今から手取り足取り教えてしんぜよ~」
ごまイワシとマンチの二人を置いて作業台の前へ行くと、隣にマカラが並んで立ち。
「ま~、まずは何作るかって話で~、最初はブレスレッドがいいかな~」
と、作業台の上のレシピを漁って『金糸のブレスレッド』というレシピを掘り出したマカラは、
「このレシピど~りに作ってみよ~」
特に細かい説明をせずに、エルメルへと全てをぶん投げた。
*
「マンチニキ、生産ってどんな風にやるんでござる?」
「攻略掲示板見る限り、ミニゲームっぽいな。鍛冶師の生産がスタイリッシュ音ゲー鉄叩きとか言われてるの普通におもろい」
「細工師はなんて?」
「手先が器用選手権」
「具体性皆無……」
エルメルを待つ間、生産がどのように行われるかを調べていた二人はそんな会話をしていると、
「お、戻ってきた」
「だいぶ早いな。即行失敗したか?」
工房に入ってすぐなのに、もう戻ってきたエルメルにそう声をかけるが……。
「お前らは、俺を神と崇めろ」
渾身のドヤ顔で作成したであろう二つのブレスレッドを見せるエルメル。
エルメルが手に持つブレスレッドは、よく見ればぼんやりと黄色の光を纏っており。
それらをそれぞれごまイワシとマンチに渡す。
「やる。お前らが持ってた方が強いタイプの装備だわ」
「ん~? どういう事でござる?」
雑な説明を受けてブレスレッドを受け取ったごまイワシは、そのブレスレッドの説明を読んでみると……。
『金糸のブレスレッド(黄):初級細工によって作られたブレスレッド。生産に大成功しており、ほのかに魔力を帯びている』
という説明。さらに効果には、通常の能力であろう僅かな防御力上昇と、
『(黄):装備時、スキルの接続時間が少し増加します』
追加で付与されたであろう特殊な効果が記載されていて。
「俺分かった。細工師に向いてたわ」
というエルメルの言葉から分かる通り、どうやら、生産の大成功を達成したらしい。