魅力復活伏兵
「まぁ、話は分かったんだけどさ」
「分かったけど?」
「ちょっと忙しくなりそうでログイン頻度落ちるかも」
「お仕事関係ね、了解」
ごまイワシの提案を聞いた†フィフィ†の返答は前向き。
しかし、直近が忙しいと伝え、
「んで、『バラ―ジュホテル』でプレイできるって話の方なんだけど」
「ほいほい」
「私の仕事道具っていうか、私物持ち込みってどれくらいの範囲で許可される?」
むしろ食いついたのは、ホテルの方で。
「拙者、少なくとも†フィフィ†ネキはエルたそやマンチニキと違って常識人だと思っているので~」
「おい」
「思っているので?」
「流石に女の子は荷物が多くなると思って、部屋を余分に確保してたりするでござるよ」
「そういや部屋を四つ確保したって言ってたな」
ごまイワシは既にホテルを利用している以上、追加で必要な部屋数はエルメル、マンチ、†フィフィ†の三つのはず。
それを、わざわざ一つ多く確保したという事実は、それほどまでに無茶を言ってもいつメンを揃えたかったという意思表示。
「え、ズルない?」
「コリンだけ依怙贔屓だ~」
「ちなみにマンチニキにはルームサービスでアルコール類飲み放題を付けているでござる」
「エル、我がまま言うんじゃありません。ごまが困っているだろう?」
「変わり身はっや。掌スクリューかよ」
「んで、もちろんエルたそにも特典を付けているでござるが~」
「ござるが~?」
「サプライズとしてホテルに来るまでは秘密でござる」
実際の所、聞かれれば答えたし別段隠す必要もない。
けれども、ごまイワシはあえてサプライズとして三人へのそれぞれ別の優遇を口にした。
……焦らされているエルメルだけは別であるが。
「ちなみに利用期間は上と応相談なんだけど、ぶっちゃけ配信手伝って貰ってる間は追い出すわけにもいかないと思うので」
「協力している限りは利用可能か。おれZJKに就職しようかな」
「よっぽど強いかよっぽど人気ある配信者かメンバーが認める化け物以外は無理でござる」
「化け物が言うと説得力違うわな」
「ちなみに明日からでも大丈夫でござる」
いつもの三人に話をしたことで、明確な利用期間の話に。
と言っても、ごまイワシの言う通り、よもや協力をしてもらうための飴を、協力期間中に剥ぎ取るわけにもいかないだろう。
また、確保したということは、今すぐにでも利用可能という事。
それを聞いた上で、たった今ログインしてきた†フィフィ†は、
「ちょっと荷物まとめてホテルに送る手配してくるから落ちるね!」
「行動力の化身過ぎる……」
「いや、正直仕事溜まり過ぎててしばらく無理って伝えるためにログインしたんだけど、なんか作業効率が捗りそうな場所を提供するって言われてるじゃん? これはもう、行くしかないなって」
そう言ってさっさとログアウトしようとするが、
「あー、一応個チャでいいから本名送るでござるよ。チェックインに必要だし、念のため」
それをごまイワシが引き留める。
「ほいほ~い了解。んじゃ、ごまさんはホテルで会おう。どうせ二人も追っかけで来るんだろうけど」
それを抵抗なく実行し、またね~と手を振ってそそくさとログアウトしてしまう†フィフィ†。
「まぁ、行くけどさ」
「断る理由がねぇ」
言われた通り、追っかける気満々だったエルメルとマンチだが、マンチはともかくエルメルには一つ、懸念があった。
「とりあえず、俺も用意するか……」
「あ、ちゃんと家族の許可を貰うでござるよ?」
「うん……。それが一番難関そうで……」
「配信とかゲームで生活するなら避けて通れぬ道。理解されなきゃされるまで土下座するが吉」
「経験者は語るってか?」
「や、拙者はまだファッキンジャパニーズウェポンまでは手を出してないでござる」
「言い方ぁっ!!」
茶化されたエルメルだが、確実に必要になる家族への説明は、つい先日『そろそろ死ぬか小僧?』と電話してきた母親への説明に他ならず。
果たしてすんなりOKが出るのか、という懸念。
しかし、
「変に隠したり悩んだりするより、とにかく話して、ダメって言われたらどうしてダメかを聞いてみればいい。大体のダメな理由はごまに相談すりゃあ解消されるだろ」
年長者らしいマンチのアドバイスに、納得し、
「この話を持って来た人と話をしたいって言われたら?」
「即詰みだからその話題にならないように頑張れ」
一番絶望的な質問が来た時の対処法を聞けば、無慈悲にも諦めろ、と。
「いや、拙者、外面だけはいいでござるからね?」
「納得できるようなエピソードをくれ」
それに対する抗議をごまイワシがすれば、証拠を見せろとエルメル。
それを受け、少しだけ考えたごまイワシは……、
「加入初期は、クソ真面目過ぎてコメントで指示してくる奴らとかの言う事全部聞いていたでござる」
「今は?」
「的外れな指摘には中指おっ立てて煽り散らすでござるが?」
「外面いい要素何処だよ」
何のフォローにもならない話を繰り出した。
「まぁ、別にエルたそが来れなくなったらマンチニキの利用する部屋が一部屋増えるだけでござる」
「お、マジで? エル、あまり無理言って親御さんを困らせるなよ?」
「意地でも説得するわ」
武運を祈るでござる~、とログアウトするエルメルを見送るごまイワシの姿を最後に、エルメル――光樹はゲームからログアウト。
脇にあった携帯をすぐに手に取り、親へと電話をかける。
「あ、もしもし母さん? ちょっと相談があるんだけどさ」
それは、エルメルの……光樹のこれまでの人生の中で、最も大きなイベントかもしれない。
だからこそ、何としても成し遂げる。
その決意を胸に、母親へとごまイワシが持って来た話を、切り出すのだった。