そびえたつ壁
「痛ぇ……。直撃貰うとはな……」
初めてとも言える致命傷の直撃は、
「エル! 次来てるぞ!!」
「わぁってるよ!!」
それでも、エルメルは動きを止めない。
次攻撃を喰らうと終わり。その事実があっても、エルメルは安定に走らない。
守りなど固めて勝てるものか。それは状況にもよるだろうが今の状況では当然否。
だから、
「遠距離も近距離もデバフも与えられるとかその職贅沢過ぎんだよ!!」
悪態をつきながらもヘルミへ向けて駆けだして。
投げられていたシルクハットは、弾き返さず。
「こんな芸当も出来たりするんだぜ?」
剣に沿わせて、軌道をズラす。
「存じておりますが?」
その光景を見たヘルミは、けれども特に動揺することもなく。
というよりも、この程度でエルメルを倒せるとも思っておらず。
正真正銘のオワタ式になったことで、むしろさっきまでよりも厄介になるだろうと予測する。
なぜならば、引き籠りセサミが――ごまイワシがそういうプレイヤーだからで。
エルメルからも、同種の匂いを感じ取っていたからで。
「ですが、私の攻撃手段は一つではありませんので」
だからこそ、ヘルミは真っすぐにエルメルへと向かう。
残ったシルクハットを煙を出しながらステッキに変え、内ポケットからトランプを取り出して。
そのトランプを、向かってくるエルメルへけん制として投擲。
――すると。
――シュンッ! と。
何かが頬を掠める音が聞こえてきて。
咄嗟に振り替えれば、マンチが投球を終えたようなポーズで存在しており。
彼の手には、本来持っているはずの得物の姿が見受けられない。
(不意打ちで武器を投げて攻撃? それとも、目の前のエルメルさんから私の気を逸らす狙い? どちらにせよ、武器は当たらなかったので、エルメルさんだけに注意を……)
咄嗟に振り返ってしまった件。
そして、近くに迫っているエルメルから、ほんの僅かにでも目を離してしまったこと。
さらに言えば、この動きが、事前にエルメルとマンチの両者で打ち合わせ済みだったことが、ヘルミを窮地へと追いやる結果となる。
「[横薙ぎ]!!」
すぐ近くで聞こえた、スキルの宣言。
振り返りざまに受けようと、ステッキを前に出して構えた瞬間……。
ドムッ! と。腹部に知らない衝撃が。
何事かと確認すれば、ヘルミの腹部にはマンチが投げ、エルメルが撃ち返した剣の柄が突き刺さっていた。
次いで当然のように襲ってくるエルメル――だったが、
「まぁ……無理だわ……な」
ヘルミの投げたトランプを受け、体力が消し飛んで。
突っ込んできた慣性のまま、前のめりに倒れてヘルミへとダイブ。
そのタックルを受け、さらには先ほどの衝撃で後ろへとよろけてこけたヘルミへ――、
「女性を殴る趣味は無いんだが、悲しいけど、これって戦争なのよね」
マンチは、腕を回しながらゆっくりと歩いていき……。
「[起爆]」
ステッキの先端の爆発に巻き込まれ、床を舐めることとなった。
*
『プレイヤー:エルメル・マンチがダウンしました』
矢の一撃を受けたごまイワシが一先ず木の陰に隠れ、[流転]のクールタイムを稼いでいると、そんなアナウンスが告知され。
「お、向こうは終わったみたいだよ?」
「まぁ、この結果は納得でござるよ。エルたそやマンチニキでも、レベル差と装備差は如何ともしがたいだろうし」
「まるでレベルや装備が同等なら勝ってるみたいな言い分だけど?」
「どうでござろうなぁ? 拙者といい勝負のエルたそならあるいは? それにマンチニキも入っていればワンチャン?」
もはや隠れる意味は無い。
時間が経てばヘルミが合流してくるであろうし、そもそもエルメルとマンチがやられたとなればごまイワシには勝ち目はない。
「今後の成長に期待って言っておくよ。ネタ振りでどこまで頑張れるか見せてね」
「真っ当に火力至上主義の道を歩むといいでござるよ。絶対その鼻っ面、へし折ってやるでござるから」
かと言って、素直に負けを認めるごまイワシでもない。
「勝負が終わる前に、視聴者や観戦者に言い残す事は?」
「全力での命乞いを開始するでござる。我の雄姿を見晒せぇっ!!」
「……っ!?」
弓を構えたままごまイワシが身を隠している木へと狙いをつけていたビオチットは、突如として懐に瞬間移動してきたごまイワシの姿に驚愕。
よもや、馬鹿正直に間合いを詰めてくるとは思っていなかったのだ。
「ふははは、油断は命取りでござるよ!!」
攻撃が――、そう考えたビオチットだったが、狙われたのは得物の方。
弓を蹴り上げ、手から浮かせて蹴り飛ばし。
してやったりとドヤ顔をかますごまイワシ。
「[弧月]」
だったが、ビオチットが内ポケットから取り出した短剣から繰り出された弧を描く斬り上げによって、その顔を歪ませた。
「何……だと……」
「いや、装備にスキルが付いてるなら、装備可能な武器種は携帯して常に交換できるようにしとくでしょ」
「……無念」
スキルでも何でもない一撃を追撃し、それがごまイワシに床を舐めさせる一撃となった。
*
『勝敗が決しました』
そのアナウンスが流れ、スタジアムのロビーへと転送されたエルメル、ごまイワシ、マンチは……。
「知ってたけど、無理だったわな」
「ダメージ通らないのが一番きついでござるよ」
「こっちは二確なのもさらにきつかったな。あれじゃあエンドコンテンツのがマシまである」
まぁ勝てなかったと笑って済ます。
ただ、
「いずれ絶対負かすけどな」
「それ。やられっぱなしとか趣味じゃねぇし」
「あの二人も絶対『次も負けない』とか思ってるでござる。何で、強くなることは急務として」
「装備と、スキルと、レベ上げと……」
「次はコリンも巻き込もうぜ。二体一作りゃあ幾分かマシだろ」
次また戦う時まで、負けるつもりはない。と。
メラメラと戦意を燃やしながらスタジアムを後にした。
すると、タイミングがいい事に、
『フレンド:†フィフィ†がログインしました』
とメッセージ。
「あ、一旦配信切るでござるよ。ちょっと出演OKか聞いてないフレンドが来たでござるから」
そう視聴者に告げ、配信枠を閉じたごまイワシは。
「†フィフィ†ネキー! ちょおぉぉっと大事な話があるでござる~!!」
「は? え? ちょ!? いきなり何!?」
ログインしたばかりの†フィフィ†へと、飛びついていった。
通報回数が一回増えた。




