鍋の中身をひっくり返した状態
職業が多すぎる。
それは、この『CeratoreOnline』をプレイしたプレイヤーが持つ共通の感想である。
あまりに多岐にわたる職業に、そもそもどうやって戦うのかすら想像がつかないものまで存在し。
それでも、ある程度は持っている武器との連想で絞ることが出来るのだが……。
(手品師でステッキ持ってて最初に発動したスキルが攻撃スキルじゃねぇってことは、それを発動してないと戦えねぇって事だろ?)
初手で攻撃スキルではないスキルを発動したヘルミに対し、そのスキルの効果を探っていくエルメル。
――と、
「掠っても致命傷です。頑張ってください」
配信の事と相手の事を思いながら、そうわざわざ警告してヘルミの取った行動は、エルメルに肉薄しての……ステッキによる突き。
「ご丁寧にどうも」
突きを横から剣によって払い、ガードの無いボディへと蹴りを見舞い。
一瞬よろけた隙に今度は斬撃を繰り出す――が。
「は?」
どこから出て来たか、数羽のハトが出現し、その斬撃を受け止める。
「隙ありですよ」
そこへ、いつのまにか手に持っていたシルクハットをヘルミが投げると。
回転しながらエルメルに向かい、途中でシルクハットから刃が出現。
明らかに投擲武器として使用されたそのシルクハットを――、
「[薙ぎ払い]!!」
「へ?」
エルメルは……撃ち返した。
躱すか防ぐはず。エルメルの行動をそう断定し、距離を詰めようとダッシュしていたヘルミは、咄嗟の事で……それでも、体勢を大きく崩すことでそのシルクハットを間一髪で避ける。
すると、
「幼女とお姉さんの間に入るとか後で刺されそうで怖いんだが、これも勝負なんで勘弁な?」
等身高めの中性顔。それでも設定性別上は男であるマンチがその中に入ることで配信視聴者がどういった反応をするのか。
その反応を恐れたマンチ自身が、あらかじめ断りを入れながらヘルミに肉薄。
「[ブレードスイング]!!」
魔法剣士の初期スキルに、火属性を付与した横薙ぎでヘルミへと襲い掛かる。
「ぐっ!? ……セサミさんより痛い!?」
モロに入ったダメージを見て、ごまイワシよりもダメージが出ていることに驚くヘルミ。
「多分、装備とかの影響だろ。盗賊は火力よりも反応とか幸運上がるんじゃないの?」
「納得しました。てっきり火力極なのかと」
「ネタ振りの集団って聞いてない? 俺、均等振り」
「……キャラを作り直されてはいかがです?」
即座に体勢を立て直し、攻撃を受けた部分をはたいてエルメルとマンチを見据え、そんなことを言い放つ。
「普通に酷いぞその言葉……」
「いえ、均等振りは流石に初心者でもやりませんよ?」
一旦離れて相手の出方を窺う両者は、どちらかが行動を起こせば即座にそれに対応できる距離にいる。
……だが、ヘルミは想像していなかった。――いや、及んでいなかった。
エルメルが、近接職でありながら、遠距離攻撃が出来ることを。
「[ランダムエンチャント:緑]」
マンチが、その辺に転がっている石ころに属性を付与し、エルメルにトス。
それを、当然のように、
「[薙ぎ払い]!!」
ノックのように、ヘルミへと撃ち返す。
もちろん、ノックのようにバウンドさせない、ライナー性の当たりであるが。
「っ!?」
それを咄嗟に出現させたシルクハットで防ぎ、斬りかかってきたマンチをステッキでいなす。
――と、
「[起爆]」
「――っ!?」
突如としてステッキの先端が爆発し、マンチを巻き込むと。
シルクハットを三連でエルメルへと投げる。
一つだと撃ち返されるなら、もっと数を増やせばいい、と考えたらしい。
そして、それは大正解である。
「くっそ! 対応早えなちくしょう」
撃ち返せる量でなく、結果、避けることを選択したエルメルだが、その事を想定して投げられたシルクハット三つは。
そもそも、エルメルの行動を制限させ、予測しやすくするためのもの。
当たると思っていない、誘導の一手。
それは、レベル差から当たらないように動くだろうという、ヘルミの読みの思考だった。
「ようこそ、私の[領域]へ」
エルメルの眼前に現れたヘルミは、そう言いながら深々とお辞儀して。
突如、エルメルの周囲に、花が咲き誇り、フィールドの様なリングを作り出した。
*
「当たり前に矢を叩き落とすの、やめていただけませんかねぇ?」
「猫より早く木を登るのをやめてくれたら考えるでござるよ」
絶対的に有利なポジションである頭上……つまりは木の上を取り続けるビオチットと。
そんな頭上から降り注ぐ矢を、短剣で叩き落とし続けるごまイワシ。
どっちもどっちな戦い方に、お互いがお互いの文句を言う。
「マジで反射神経どうなってんの……。ていうか山なのに波出して移動してるの面白すぎるからやめて欲しい」
「拙者のアイデンティティでござるよ」
そして、人魚姿であることを試合開始前の情報開示で理解していたが、流石に移動方法までは表示されておらず。
初見で山から無理矢理波が出現して移動しているのを目撃したときは、吹き出しかけたビオチット。
その後遺症は、今なお移動を見るだけで面白さが込み上げてくる。
「ていうか、反射神経の事を言うならビオチットも大概でござる」
木の上に居るという性質上、咄嗟に回避できる範囲は決まっている。
それでも、今に至るまでのビオチットの被弾はゼロ。
というのも、ごまイワシが行動を起こす度に、木の上というポジションを放棄して逃げ、また即座に木の上に昇るという行動を繰り返しているからで。
それはつまり、ごまイワシの行動に対し、瞬時にどう動くのが適切かを導き出して行動しているという事で。
「小足見てから昇竜余裕でしたな二人なので正直予想通りっちゃ予想通りなんですけど、レベル差有って負けるなんてのは正直こっちとしても困るので」
「別に負けてくれていいんでござるが?」
「絶対に嫌ですけど?」
その打開として、ビオチットは仕掛ける。
――罠を。
「[準備]。じゃあ、ここらで一転攻勢といきますよ?」
「分かりましたって素直に言うと思ってないくせに」
これから攻める、と、わざと口に出して警戒させることで。
その警戒に割いた意識の隙間に、自分のやりたいことを捻じ込んでいく。
最初の行動は、正直な射撃。
何の変哲もない、けれど、ごまイワシのやや右寄りに偏ったその射撃は、誰が見ても誘導だと明らかに分かる。
当然、そんな誘導に乗るまいと、あえて右側に避けたごまイワシは、
「ビンゴ! [バウンドフロア]!」
再度空中へと跳ね上げられる。
そこへ追撃の矢を放つビオチットだが、
「[流転]!」
当然の様な瞬間移動で避けるごまイワシ。
ここまではビオチットの想定内。あとは、[流転]のクールタイム中に射撃を当てるだけ。
そう考えていたのだが、地上のどこにもごまイワシの姿はなく。
「[抜け切り]!!」
ごまイワシの居場所を理解したのは、頭上からスキルを使って斬られた直後だった。