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火蓋に油とガソリンと

『公認ストリーマー同士のPvPが開始されます。希望者は観戦することが出来ます』


 エルメル達がステージに侵入すると、そんなメッセージが表示され。


「ゲーム内でも見れるようになってんのか」

「これは拙者も知らなかったでござるねぇ」


 元々配信される気だったエルメルは素直に感心するが、何も知らされてなかったらしいごまイワシは少し渋い顔。


「まぁ、拙者視点で見れるからこっちの配信にも人は来ると思うでござるがぁ――」


 既に一分のカウントダウンは始まっているが、三人の中のバフはマンチの属性付与のみ。

 早々に発動し、ステージの中で有利そうなポジションを見つけるために走る。

 ステージは山林。高低差のある山と、森程に木々が密集していない、まばらに配置された林。

 視界全てを遮るほどではないが、絶妙に視界に死角が出来るような、嫌らしい配置。

 そして、エルメル達の視界の上部には、対戦相手となる二人のプレイヤーの名前と見た目とレベルなどの大まかな情報が表示され……。


「うわぁ……。マジでレベル15でやんの」


 レベルを見て呆れるエルメルと、


「職業手品師なんてのもあるんでござるか……」


 敵側の【ヘルミ】というキャラの職業を見て驚くごまイワシと、


「ていうか長身スーツ眼鏡のお姉さんとか俺絶対に殴れねぇぞ?」


 そのヘルミの容姿を見て、何やらときめいているマンチ。

 マンチの言う通り、職業手品師のヘルミの見た目は高身長でスーツを着込み、眼鏡まで装備しているという秘書と言われれば納得する見た目の女性キャラ。

 そして、もう一人の【ビオチット】というキャラは、職業にはレンジャーと表記され。

 獣の毛皮で作られ、アライグマの尻尾が特徴なクロケットハットを着用し。

 これまた獣の毛皮で作られたコートで全身を覆っている。

 触り心地の良さそうな見た目に、エルメルは内心モフりたい衝動に駆られる。


「マンチニキ、既に配信始まってるから今の発言拾われるでござるよ?」

「俺の第一声が性癖暴露とかもう放送事故だろ枠閉じろ」

「ネタになるから全力で続ける一択だろ。ん~……見晴らし的にこの辺りで良さそうじゃね?」


 口と一緒に足を動かして、辿り着いたのは山の部分のほぼ頂上。

 ただし、完全に頂上に陣取ると、見上げた時に全方向から見つかってしまうため、それを嫌って頂上よりやや下の位置で停止した。


「開始時間が来るまでは敵の姿は隠されているでござるから、下手すりゃ開始と同時に鉢合わせなんてのもあり得るでござるな」

「そうなったらごまを囮にマンチと二人で引いて、不意打ち奇襲で片方持って行ってやられることにするわ」

「それが現実的だな」


 などと、運が悪かった場合の話をし始める三人は忘れている。

 というか、こんなところにまで及んでいると思っていない。

 ごまイワシの、リアルラックの壊滅状態を。


『Get ready?』


 そうPvPに参加する五人のプレイヤーの眼前に表示され、各々が得物を構え音を殺す。


『Fight!!』


 宣言された瞬間。

 エルメル達の目の前に、先ほど確認した相手の姿の片方、ヘルミの姿があり。


「「!!?」」

「[抜け切り]!」


 一瞬呆気に取られるが、即座に行動に移る。

 最も動きの早かったのはごまイワシ。

 目の前――つまり射程圏内だったことにより迷わずにスキルを発動させ、ヘルミへと襲い掛かる。


「いきなりですか!?」


 そんなごまイワシからの襲撃から守るように、ステッキを構えたヘルミは……防御もむなしくごまイワシに斬りつけられる。

 ――が、


「あら? こんなものです?」


 意外と……というか、ほとんどダメージが入っていないことに驚いて首を傾げるヘルミ。

 ナチュラルに火力をディスられたごまは振り向きざまに、今度はスキルを使わずに襲い掛かり。

 マンチは正面からヘルミへと斬りかかる。

 ……しかし、


「[バウンドフロア]!」


 どこからか響いた声の後、ごまイワシの居る地面が急に盛り上がり、その体を空中へと放り上げ。


「[デュアルショット]!!」


 さらに響いた声から、2本の矢が向かって来て。


「[流転]!」


 その矢を避けるために地上へと瞬間移動したごまイワシは、エルメルの剣の腹に着地。


「えぇと……エルたそ? またやる気でござるか?」

「俺らより上のレベルの遠距離型なんて距離取られてる今の状況じゃ無理ゲー。こっちは二人で何とかするから、お前は向こうを相手してこい」

「働きたくないでござる」

「安心しろ、骨だけは埋めてやる」

「それ以外に何が残るというでござる!?」


 前の侵攻の時に見せた、ごまイワシをスキルによって射出する通称ごまイワシロケットは、スキルマスタリーが上がったことにより、確実に狙い通りの方向へと飛ばせるようになっていて。


「グダグダ言わずに行って来い!! [薙ぎ払い]!!」


 ごまイワシの意見は無視し、先ほど矢が飛んできた方向へと弾き飛ばし。


「というわけでお姉さん。俺ら二人とお相手願うよ」

「積極的なアプローチは嫌いではありませんが……あなた方では勝てないと思いますよ?」

「分かってねぇな。あんたみたいな長身イケメン眼鏡お姉さんと戯れるだけで俺たちには価値があんだよ!」


 ヘルミのステッキとマンチの剣が鍔迫り合いをしている中で、堂々と背後から斬りかかるエルメルだが、これをあっさり避けられる。


「まぁ、がっかりさせないでくださいね? [奇術(レッツマジック)]」



「お久しぶりでござるよごつ盛り上司」

「今はビオチットって名前なんだけどね引き籠りセサミ」


 エルメルによって飛ばされたごまイワシは、飛んだ先で相手の片割れと綺麗に遭遇。

 互いにプロとして名乗っている名前を出して視聴者にアピールし、双方がそれぞれ短剣と弓を構え……。


「弓なんて射撃までに時間のかかる武器で拙者が捕らえられるわけな~し!」

「試してみるかい? 何だったら、ガトリングレベルの弓を見せてあげるよ」


 互いに不敵に笑い、ごまイワシは前へ、ビオチットは後ろへと大きく跳んで。

 プロゲーマー同士、もっと言えば、互いに癖まで知っている相手との戦いが、始まった。

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[一言] プロとしての名前がそれでいいのか?
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