人の嫌がることを率先してします
「んで? なーんで俺らはスタジアムに連れて来られてるんですかねぇ?」
あの後、最初の動画を取ると言われ、レベル上げか次の町に向かうかと思えば、ごまイワシが案内したのは最初の町からポータルで移動した先にあるスタジアム。
「いやぁ……実は拙者以外に公式に配信許可取った人たちが知る限りでもう一組ありましてねぇ?」
「そこはかとなく嫌な予感がするんだが?」
プロゲーマーであるごまイワシと同じタイミングで配信許可を貰った人物達。
そんなもの、同種だと宣言しているようなもので。
なぜ今その話題を出したのか、という事と、エルメルの行った、なぜスタジアムに来たのか? という質問と合わせれば、自ずと答えは見えてくる。
「ぶっちゃけチームメイトなんですけど? なんか断ったのに別の奴誘うとか尻軽かよ分からせてやるわって言ってまして?」
「本当は?」
「どう転んでも取れ高になりそうだから拙者から提案したらいやいや引き受けてくれたでござる」
「お前発案かよ! しかもいやいや断られたって……」
プロチームのメンバーとPvPをするという事で。
しかもどういうわけか、ごまイワシの方から勝負を持ちかけたらしい。
いや、魂胆は分かる。
プロチームに所属したプレイヤーによる公式許可済みのPvP配信。
それは注目を集めるだろう。
そして、そこで戦うのは恐らくガチガチのガチである一方と、ネタに全振りした一方。
ガチが勝つのは当然という流れで、ネタが勝とうものなら盛り上がるだろう。
また、ネタ側……つまりエルメル達が負けたとしても、ここから強くなっていくから応援ヨロ! とでも言えば、見に来てくれた視聴者はここからどう強くなるのかと気になる人が居るはずだ。
勝てば盛り上がって視聴者は今後も継続して配信を見てくれるだろうし、負けてもあれからどれだけ強くなったかと見に来ることだろう。
つまり、この配信においてエルメル達は旨みしかない。
最も、負けている姿を晒すことには当然なるが。
「向こうはストーリーも進んでいるらしく、『先に進みたいから』って言われてさ? これはもう、全力で邪魔してあげないとなって思いましてな?」
「それについてはGJだが、それでよく承諾させられたな」
「運営に、『プロチーム同士でマッチするんだけどこれ配信したら話題になりそうじゃないか?』って問い合わせたら、日時指定で拙者と相手に通達が来たでござる」
「外堀から埋めてて草」
まんまとごまイワシの術中にハメられた相手には気の毒だとは思うエルメルだったが、それでも彼の根幹の思いはごまイワシと同じ。
相手の妨害は可能な限りやる。人の不幸は蜜の味。
およそ褒められた思考ではないが、言い方を変えれば、相手の好きにさせない戦い方を好むという事。
そしてそれは、対戦において負けないために必要な事でもある。
「とまあ相手は快く承諾してくれたでござるが」
「五分前と言ってる内容違うんだが?」
「何故か瞬殺する気満々なんでござるよね?」
「ふしぎだな~。なんでだろうな~」
およそ当然と思える相手の思考を、とぼけて現実を見ないことで事なきを得るごまイワシとエルメル。
そんな中マンチは、
「んで? 相手はどんなタイプのプレイスタイルなの?」
冷静に、対戦相手の情報を尋ねる。
「ええっと、【マリン】っていう子と、【ごつ盛り上司】って子なんだけど、どっちもオーソドックスに上手なタイプかな~。少なくとも、拙者みたいな避け特化みたいなプレイじゃない」
「てことは普通に攻撃当たる?」
「拙者よりは当たるハズでござるが、ダメージが通るかは別問題」
「あー、まぁ向こうの方がレベル高いんだろうし、装備も強いの着てるんだろうな」
「レベル十五になると、エンチャも解禁されるらしくてガチガチのガチっぽいですわよ?」
「レベル差ほぼ倍で装備も強いとか勝てる未来なくね? え? 相手はその二人だけ? こっちの人数に合わせて三人とか言わない?」
ごまイワシから引き出された情報は、あまり実用性がないもので。
どころか、より絶望が広がりそうな情報が出てくる始末。
「いや、向こうはペアが基本だし人数増やしはしないと思うでござる。他にこのゲームやってるチームメイトはいないでござるし、野良で連れて来たら流石にってなるでござるよ」
唯一の希望は人数的にこちらが有利ということだろう。
あってないような差の気もするが。
「お前は俺らを拾ってるけどな。野良とあまり大差ねぇだろ……」
「拙者のプレイについてくることが出来て、拙者が認めてるんなら構わないって他のメンバーからはいわれてるでござるよ? 拙者だけプレイが異質過ぎて、同じ方向性のプレイヤーで才能ありそうなの見かけたら引っ張って来いって言われてるでござるし」
「意外と権限持ってて笑う」
「いや、実際リアル性能で回避しまくるスタイルって天性の才能だぞ? そういう意味ではごまと一緒に前線やってるエルも異常だと思うが?」
「あー、実は一回エルたそに声をかけるか悩んだことがあったでござるよ。その時は思いとどまったでござるが」
突然の告白に驚愕の表情をしたエルメルはごまイワシの肩を持って激しく揺さぶる。
「初耳だぞ!? なんで声をかけなかった!!?」
「お、落ち着くでござるよ! だってその時はチームの空気が悪かったんでござるよ。その中にぽ~んとエルたそを入れて、変な思いをさせたくなかったんでござる」
なぜ? と問われ、内部の人間にしか分からないデリケートな問題が原因だと告げると、流石に揺さぶる速度は落ち着いていき。
流石にそれではしょうがない……という空気に。
「まぁ今回のPvPは他のメンバーも見るでござるから、そこで動きが目に留まれば直接声がかかるかもでござる」
「マジで!?」
「やっぱりプロゲーマーって魅力でござるか?」
「そりゃあもちろん! けど、がっつり競技とかよりも、マイペースプレイ動画配信希望だけどね」
その後のごまイワシの言葉に、分かりやすくやる気を漲らせるエルメルと、こっそりやる気を漲らせるマンチ。
――すると、
「ん? ……あちらさん、準備が出来たらしいでござる」
「んじゃ、ステージに入るとしますか」
「対戦者全員がステージに入って一分のカウントダウン。その後、バトルスタートって感じのルールでござる」
「最初の一分の意味は?」
「バフ撒くのとポジショニングでござるね。ステージがランダムらしく、どんな地形か分からないからはっきりとは言えないでござるが、基本、高所有利。だから、マンチニキから属性攻撃のバフ貰ったら全力で高い所を目指すでござる」
ごまイワシが作戦……というよりは方針を打ち出し。
エルメルとマンチが頷いて。
「んじゃま、ガチプレイヤー様に一泡吹かせてやるとするでござる!!」
三人は、力強くステージへと侵入するのだった。